紅蓮 | 序・5

 

 

皇宮の禁軍衛兵の庭。迂達赤とは軍の規模が違う。
そもそも全軍で一万を超えるのだ。
その分、実力に差が生ずるのは避けられぬ。
此度進軍する兵は鷹揚隊長護軍アン・ジェと共に、数か月をかけ選抜し、鍛錬した精鋭。
力量不足で問題が起きるとは思い難いが。

庭にはテマン、トクマン、そして他の迂達赤らが既に馬を牽き、隅に控えている。

「大護軍!」
相変わらず気配に敏いテマンは門を潜るかどうかの内に、此方に向けて駆けて来た。
その肩をぼんと叩く。
「どうだ、テマナ」
「変わりありません」
「よし」

その後ろからトクマンが慌てて駆けつける。
「大護軍に気付いたら教えろって!」
「気付かないお前が悪い」
「お前ほど、動物的な勘はない!」
この調子なら大丈夫そうだ。
「どうだ、トクマニ」
「はい、問題ありません!」
「よし」

周囲を軽く見渡す。
未だアン・ジェの姿、そして鷹揚隊の上官の姿は見えぬ。
兵達だけが整列している。
俺の姿に気づいた兵たちが
「大護軍、おはようございます!」
「おはようございます!」
口々に声を上げ、敬礼する。

その中を俺達三人は進む。
そうしながら左右に一歩下がって控えるテマンとトクマンに声を掛ける。
「此度は迂達赤のみの戦とは勝手が違う。頼むぞ」

俺の声に二人が頷く。
「はい、大護軍」
「死なぬ程度まで、散々鍛えられました。ここで力を発揮しないで、どこで発揮しますか」
こいつらとも出会って十年近い。
頼もしくなった。
隊長、隊長と、ただ後を追って来た奴らが。

「勝つ」
「はい!」
その二人の返答を聞きながら、禁軍衛兵の庭を見渡す。
既にに上官を除き整列している禁軍鷹揚隊の二千の兵。二千の馬。
現地では更に国境隊が合流する。
合流すれば計七千。

さて、どうなる。

 

******

 

兵らを庭に残しテマンと二人、鷹揚隊の兵舎内を執務室へ進む。

廊下の窓の障子越し。
淡く白い光が俺達の鎧の金物に、そして星鋲に当たる。

執務室には、アン・ジェと上官が着席していた。
室内に踏み入ると列席者の全員がその場に立ち上がり、敬礼で迎える。

椅子に座る時間も惜しく
「すべて手筈通りだな」
設えた椅子までの間も惜しくアン・ジェに訊ねながら、ようやく椅子に腰掛ける。
「済んでいる」
「分かった。内偵の状況も変わらん。今回敵は約二万、国境到着まで四日。行くか」

その言葉にアン・ジェが大きく笑う。
「ずいぶんあっさりしてるな。こう、何か俺達を鼓舞する言葉はないのか、感動的な奴は」
「何言ってる」

立ち上がったまま列席の顔を見渡し、俺は言った。

「祝勝の宴会で、言うに決まっている」

 

******

 

整列した兵の目が、一斉に俺達を見る。

居並ぶ奴らの顔、その目を出来る限り見る。
テマンがチュホンを牽く。
その背に騎乗し、居並ぶ兵たちを鞍上より再度見た。

二千の兵。二千の馬。
その息すらも聞こえぬような、一瞬の、耳も痛い程の沈黙が訪れる。

ひとつ大きく息を吸い、肚から声を上げる。

「戦場では、俺の声を聞け!」
「は!」
返る二千の声を聞く。
「俺の背を見ろ!」
「は!!」
「騎乗!!」

全員が、安鞍したそれぞれの馬に騎乗する。

背後のアン・ジェと、鷹揚隊上官に眸を遣る。
全員がその視線に無言で頷く。

続いて、逆後方側に控える迂達赤を見遣る。
奴らの顔をひとつひとつ見渡す。
全員と目が合う。
それぞれが頷くのを確認し、二千の顔に向き直り、一声を飛ばす。

「出立!!」

待っていろ。すぐに戻る。

 

 

 

戦地へと。

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24 件のコメント

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    がんばれ~!さて、さて、心が浮足立ってきましたよo(^^o)(o^^)o
    さて、ウダルチ、禁軍、スリバン、どんな働きを見せるのかとっても楽しみです~♥
    またしっかり覗かせて頂きます♪
    ε=ε=ε= ヾ(*~▽~)ノ

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    こんばんは!さらん様。
    二千の兵、二千の馬…
    その中に自分もいるような緊張感
    が、いよいよ行くのですね?
    ウンスを守るため。
    「待っていろ、すぐ戻る」
    この言葉、♡♡です。

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    テマン・トクマンいつも通りでいいですね。アン・ジェも余裕の感じ。ヨンが現れるだけで、ビシッと引き締まり、ついて行かねばとなりますね。鎧姿のヨンが目に浮かびます。戦の前なのに、不謹慎ですが、萌え萌えです。夢にでてきてほしい。

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    なんか、歴史大河ドラマ的な壮大な景色が広がっていきます(゜o゜) おぉ~~っです。
    今日もわたしの脳内妄想、全開です!
    チェヨン!早く帰ってきてね~~(T^T)ノ-~

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    さらん様、こんばんは❤︎
    毎回毎回言っている事ですが、
    ホントにヤバイくらい、ヨンがカッコイイ。
    ヨンが馬上よりかけた声に、地鳴りを思わせる兵士達の一斉返事。
    リアルに見えてしまうのです。
    リアルに聞こえてしまうのです。
    鳥肌ものです(≧∇≦)
    全ての兵士が、ヨンの言葉だけをヨンの背中だけを追っている。
    ヨンが「勝つ‼︎」と言えば、不思議と負ける気がしない…。
    そんな兵士達の心情に自分の気持を勝手に重ね、ヨンの背を見上げている私。
    ホントに病気でございます(⌒-⌒; )
    「耳も痛いほどの沈黙…」
    この素敵な表現に、すっかり恋してしまいました❤︎

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    私、禁軍って歩兵隊かと思っていましたー
    騎馬隊だったー わぁ、騎馬武者2千。かっこいー!
    うう、プジャンに丸投げ、しっかり護れくらいしか指図しなかったのに。
    俺の声を聞け。俺の背中をみろ。
    ( ̄^ ̄)ゞ
    はぁ、テホグン 惚れました!
    どこまでも、お供いたしまっす!

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    さぁいよいよ出立ですね
    なんだかこっちまで身が引き締まります
    お話とは関係ありませんが、さらんさんのお話を読んでると勉強になります、歴史や言葉の‥(^^)
    気になるワードや、ん?って言う言葉があると、そのままスルーせず検索するでしょ、で、あ~なるほど~って‥
    これが結構楽しいんですよ~
    何か‥ありがとうございます(*^-゜)vThanks!
    ボケ防止にもいいかもね(笑)

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    >ののさん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    今回は、勢揃いです。
    序ではないですが、この後は、そりゃあもう。
    攻められますから、いろいろと。
    おっとけーな状況になって参ります。
    楽しんで頂けますように( ´艸`)

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    >わいやーさん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    参ります。久々の状況で、此方も緊張してきました。
    ううう、いろいろと。
    待っていろ、すぐに戻る。
    これは、今までのキーワード
    俺は、此処です。
    に次ぐ、ヨンの呟きになりそうな・・・(*v.v)。

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    >チェヨン1さん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    今はアン・ジェも余裕こいていますが、
    この後は青筋立てる場面、幾度も( ´艸`)プ
    DVD1話から見て、再度あの声と姿、そしてあの視線を
    勉強中であります(`・ω・´)ゞ

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    >kumiさん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    ここは、序盤の序です。
    この後、かなり大河・・・良いんだろうか、こんなに書いて・・・と。
    えらいことに、なりそうです。
    そしてウンスが、そこに如何絡むか。(;´▽`A“
    想像しながら、読んで頂けると嬉しいです❤

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    >夢夢さん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    小説の中にあった(DVDにはなかった)
    元から帰った王様を塞ぐ軍の前で、ヨンたちが
    外套を脱ぎ、空に投げ上げるシーン。
    あのかっこ良さが、最終目標です。
    (その後、小説の中で、チュンソクに丸投げするヨンも含めw)

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    >ポチッとなさん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    禁軍は、開京(特に皇宮)を守る軍なので
    歩兵も弓も、槍も騎馬もいます。
    今の警察と似てるんじゃないかな。
    あ、ヨンはだんだんイラついてきますw
    で、丸投げ、します(爆
    今ちょうど、そこを書いています。
    今回丸投げせぬのは、偏にチュンソクが
    今回の兵に、いないせいです(;´▽`A“

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    >えみりんさん
    おはようございます♡コメありがとうございます
    そうなのですか!
    ぼけ防止なんて、何をおっしゃいますか!
    でも、いろいろ調べて頂けると嬉しいです( ´艸`)
    出発してからがまた、長いです。
    そして最後は、ああ~そうなのか~と。
    今回の序の序は、そんな感じです。
    ただ何しろ足かけ4年のお話なので・・・
    かなり、長くなりそうです(こればかりで恐縮です・・・)

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    いよいよですね!
    ヨン、どうか無事で。。
    (何回目か数えられませんが)またまたシンイを見終わり、シティハンター2回目を見てる途中です。
    ずっとミノの出演作をリピートして見てますが、やはり私にとってミノと出逢ったシンイが一番だなとつくづく思います。
    ドラマが終わってもこうして続きが読める事に、今更ながら改めて感謝しています。
    あの世界に戻れる幸せを、本当にありがとうございます。

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    さらん様、こんにちは❤
    UPのペースも、1話当たりの分量も半端無いので、さぞかし大変でしょうに、いつも有難うございます。
    体調気を付けて下さいね!!
    以前、さらん様も書いていらっしゃいましたが、
    「体調」を入力するつもりでも、「隊長」が候補で出てきてしまうので、今更ながら使用頻度の高さを思い知りました(笑)
    ヨンが神がかっていますね❤
    どんな時でも、ウンスと繋がっており、必ずや護るのだと揺ぎ無き域に達したヨンに勝てるものなど有る訳が無い。
    長年ヨンを知っているアンジェでさえ、その変化に驚いている様子。
    そして何といっても、テマナの存在がヨンをより生かしてくれていますね。
    テマナにも大事なひとが...。
    さらん様の体調を気遣いながらも、やっぱり続きが待ち遠しい❤

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    >★sachi★さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そう言って頂けると、本当に嬉しいです。
    ドラマのヨンというよりは、どうしても小説の
    ヨンに寄りがちになってしまいますが・・・
    ただ、あの声が聞こえるようにだけ、祈りつつ。
    もう少しの間、書くと思います。
    お付き合い頂けると、嬉しいです(〃∇〃)

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    体調で隊長ww
    私は「手」で「大護軍」「隊長」「大笒」
    「天女」「テマナ」等々
    えらいことに、なっております。
    この後、真に一時期、高麗の守護神と呼ばれるチェ・ヨン大護軍。
    その前夜から・・・全部は書き切れなさそうですが(●´ω`●)ゞ
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    重々しい空気の中、それでも一糸乱れぬ統率された雰囲気は伝わってきます。
    ウダルチは、死なぬ程度に鍛え上げられヨンとの息も合いますが、禁軍を合わせての戦いはどうなるんでしょう?
    最小限の被害で済むと良いのですが・・・
    午後、友達を見送って帰って参りました。1泊2日なんてアッというまでした。来年は、道後温泉の予定( ´艸`)

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    お帰りなさいませ♡楽しまれたご様子で何よりです(´∀`)
    道後温泉も良いですね~♨
    もう、軽くぶっ飛ばして参ります。今回は。
    今回の紅巾族との対峙は歴史の中にはなく、
    寧ろこの後の双城総管府の完全奪還
    (これは史実にあり)を書くための前振りなので
    ガチンコで対峙されると、困るという内幕が(笑
    そしてこの後、史実に残る紅巾族の高麗侵入への
    前振りも兼ねております・・・振り逃げすみませぬ(゚ー゚;

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    >さらんさんへ
    了解です!
    ヨンは、これから益々忙しくなりますね。
    ウンスを得てからのヨンは、自信と力が漲っています。
    しかし、開京は攻めら入られます。
    その時の気持ちや、ウンスの様子等楽しみ処満載です( ´艸`)

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、西京が、そして開京が。
    その頃には、ヨンの私生活も既に大きく変わっているため
    大事件となります・・・ここではw
    いえ、勿論高麗の歴史上も、大事件だとは思いますが。
    書くのが楽しみやら、辛いやら。胸が騒いでいます。

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