向日葵 | 18

 

 

ウンスを馬に乗せ己はその後ろに跨って旅籠を出で、ヨンは兵営に向かい真直ぐ馬を走らせた。
道沿いの建物の屋根を、シウルが跳びながら並走する。

約束の時刻にヨンが馬を裏門につけると門横の樹をテマンが滑り下り、ヨンの愛馬を牽いていく。

チホ、ヒドと共に、裏門に立っていたチュンソクが、ヨンとウンスの姿を認め頭を下げた。

「お帰りなさい」
医仙、と続きそうな所を堪え、チュンソクはウンスに向かい深く頭を下げる。
四年ぶりの邂逅に、思わず目頭が熱くなる。
「よく、御無事で」

「ただ今戻りました。いえ、戻ってる事はご存知ですよね。あの時は、きちんと挨拶も・・・出来ずに・・・」
「いえ、それは・・・」

ウンスとチュンソク二人して口ごもったのは、あの時の旅籠の部屋での気まずい出来事のせい。
ウンスは今思い出しても、顔が火を噴きそうだった。

「あ、まずは、まずは中へ!」
チュンソクがそう急かし、ヨンを先頭に一行は裏手よりヨンの私室を目指す。

チュンソクがすでに四方人払いしてあった私室にヨンとウンスが一歩踏み入り、扉を閉めた瞬間。
ウンスは笠を放り投げて髪を解き、その場にしゃがみこんだ。
ヨンが驚き見ている前で、ウンスはその髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った。

「イムジャ?!」
「もうううう、いやああああっ」
「如何しました」
「だからあの時言ったじゃない、駄目って!さっきの副隊長のあの顔!見たでしょ?
あ、副隊長じゃない、今はもう隊長よね?どれほど気まずいか!
あなたは全っっ然そう感じてないかもしれないけどね、隊長のあの反応が普通よ!」

真っ赤な顔で、涙目で、床にしゃがみこみ訴えるウンスを眺め、ヨンは仏頂面でそっぽを向く。
「何よ、あなたが怒るような事、一言も言ってないわよ!」
「判っております」
「でも怒ってる!」
「いえ」

え、え?何を怒っているのだろう?
ウンスは少し冷静さを取り戻し、立ちあがってヨンの前に回った。
「どうしたの?」
「どうもしませぬ」
「別に、隊長の肩を持ったわけじゃないわよ?」
「承知」
「隊長と喧嘩している、とか?」
「おりません」

急に冷たくなったヨンの態度に戸惑ってウンスはヨンの手をぎゅっと握り、どうにか逸らし続けるヨンの視線を掴まえようとする。
「言ってくれなきゃ分かんないわ。どうしたの?」
「判りませんか」
ここで初めて、ヨンがウンスの目を見た。
あ。この目は、どこかで見た事がある。
ヨンの黒い目の奥が、熱い。

「先程からチュンソクを隊長、隊長と」
「だって、今の迂達赤の隊長は、チュンソクさんでしょ?」
「・・・そうです」
ヨンはまた眸を逸らした。
「迂達赤に身を隠しにやってきたイムジャに初めて隊長と呼ばれた時を、思い出しただけです。
・・・イムジャは判っておるのか。呼ばれてどれほど嬉しく、呼んだあなたをどれほど愛しいと思うたか」

だってあなたは今、もっと上にいる。大護軍でしょ?
ウンスはその言葉を危うく呑みこんだ。

あの時この人は、迂達赤の鎧を着た私に言った。
「隊長と。もう一度」
そして戸惑う私が恐る恐るテジャン、と呼びかけると嬉しそうに微笑んだ。昨日の事のように覚えてる。

「・・・隊長?」
ウンスは、あの日のように呼び掛けてみた。
間違ってはいないわよね?大護軍は、高麗軍全体の隊長みたいなものだろうし。

「取り乱しました。申し訳ありません、隊長」
ヨンが少し驚いたように、ウンスに視線を戻す。
「・・・じき、隣室で手裏房と話し合いが」
「了解しました、隊長」
ウンスは右手で敬礼姿勢を取った。

あの日のように、あの日よりもっと近くに、ヨンの顔が迫った。
これ以上近づけば噛む、とその眸が言っている。
ウンスは捉われまいとする本能で、じわじわと後ろへ下がる。
いつの間にか背が壁についている。

「少しの間、留守にします」
「お戻りをお待ちしています、隊長」
あの日よりもっと近くに、ヨンの息を感じる。
「隊長と」
ヨンが囁く。
「もう、一度」
「テ、ジャン」

チュンソク。
此度入ってきたら、許さぬ。

ヨンは心の中で呟いた後、ウンスを見つめたまま唇を重ねる。
ウンスの下りてきた長い睫毛が、ヨンの頬を滑って閉じた。

 

 

 

 

月曜朝から馬鹿ップル。

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6 件のコメント

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    >みかんさん
    コメントありがとうございます。嬉しいです♪
    やはりあのシーンは人気ですね。
    画像もあるのですが、チュンソクの表情が
    抜けすぎていて、貼る気になれず(´・ω・`)
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    ウンスの羞恥心も何処へやら~~
    それ程「テジャン」と言う言葉、ヨンには思い入れが強くあったんですね。
    あの時のウンス、可愛かったもの( ´艸`)
    それが、違う人へ向けて言ったものだから、拗ねちゃって(;^ω^A可愛い(^_-)☆
    アハハ...二度は許さないって?
    チュンソクはお仕事ですからf^_^;
    今回は、邪魔されませんでしたよ「テ・ジャン」。。。

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    >mayuさん
    こちらにもコメありがとうございます❤
    あれはもう、あの時の二人が素敵すぎて
    いつか、想いを遂げさせねば!と(●´ω`●)ゞ
    ここを読んで下さり、同じ思いだった方が
    多かったことを知った最初のブログ。
    懐かしいなー。ほんの一か月半前なのに
    ものすごく、長い旅している感じです。

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    今夜もお邪魔しております。
    至福の一時を楽しんでおります。
    このお話、すごく好きです。
    ヨンの焼きもち萌えますぅ。。。
    ウンスもすごく可愛い。
    かの名シーンともリンクして胸キュンでもあり、ほっこりでもあり。
    チュンソクも忙しく任務をこなしながら突然ゾクッと悪寒に襲われていることでしょう…。

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    >まるまるさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    おお、この辺りなのですね。
    懐かしいです❤自分が書いたお話なのに
    やだーヨン素敵ー!とか思う馬鹿な書き手が
    此処におりますwww
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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