帰郷【壱】 | 2015 summer request・里帰り

 

 

【 帰郷 】

 

 

 

「ヒョーーーーーン!!」

真直ぐな道を大きな声で叫びながら、その先に見える懐かしいあのでかい体に向かって駆けて行く。

今日戻ると短い文を受け取ってから何も手につかず、用もないのに門前を右往左往しながら待っていたんだ。
ようやく今、一本道の彼方に見えて来たヒョンの帰りを、それこそ夜明けと共に。
「ヒョーーーーーン!!」

そう言って走り寄る俺に、真直ぐな途の向こう
「ウジュン!」
まだまだはっきり聞こえない程離れた遠くから、それでも懐かしいあの声が届く。

両側に立木の並ぶ一本道を、全力でその姿に駆け寄りながら、俺はもう一度大声で呼んだ。

「チュソクヒョーーーーーーン!!!」

 

*****

 

「ウジュン、元気だったか」
俺が駆け寄りその体に抱きつくと、ヒョンは分厚い大きな手を俺の頭に乗せ、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回してくれた。
手荒い再会の挨拶に俺は身を捩りながら、それでも嬉しくて、ついついちょっかいを掛けてしまう。

「元気だった。便りは読んでたよ。ヒョンはどうだ。迂達赤の皆は。役目はどうした。何で急に帰って来たんだ」
「おいおい、落ち着け。そういっぺんに聞くな」

ヒョンは俺の横を、門へ向かって真っすぐに歩きながら、俺を見て優しく笑う。
ヒョンの下げた風呂敷を受け取って代わりに肩へ下げながら、俺も笑ってヒョンを見上げた。

「父上も、母上も、お変わりないか」
「うん、御二人ともお元気だよ」
「兄上も義姉上も、お元気か」
「元気だよ。今日は朝から俺がうろうろしてるから怒られた」
「ご両親の言う事はきちんと聞け」
「うん、だけど」
「だけどじゃない」
「・・・はい」
「よし」

ヒョンは俺に向かって頷きながら
「ところでウジュン。いい加減、俺の事はヒョンでなく、きちんとサムチョンと呼ぶ気にはならんか」
「ヒョンじゃ駄目なのか」
「まあな、兄貴ではないからな」
「兄貴分って事で」
「どうあってもそう呼びたいんだなあ」
「叔父さんじゃ、ヒョンが老け込んだ気になるだろ」
「ならん!俺はまだ若いぞ!」

俺の軽口に笑いながら、チュソクヒョンが怒鳴る。

「だったらその伸ばし放題の髭を、まずどうにかしてくれよ」
「これが良いという奴もいる」
「女か!ヒョン、誰か良い仲の女人が出来たのか!」
「そういうわけではない」

ふざけ合いながらチュソクヒョンが家の門をくぐり、中へ向かって大きな声で頭を下げながら言った。
「チュソク、戻りました」

奥から早足に出て来るハルモニが嬉しそうに
「お帰りなさい、チュソク」
そう言って優しく笑った。

 

ハラボジを目の前にチュソクヒョンは確りと背を伸ばし、床へ伏せ深く頭を下げて、長く長く礼をした。
その後ようやく顔を上げ、ハラボジの前に座り直す。
居間の向かいで、ハラボジがゆっくり頷き
「息災で何よりだ」
そう言って少し笑った。いつもは俺に対しても怖い顔ばかりなのに。

「只今戻りました」
「迂達赤の御役目は如何だ」
「滞りなく」
「そうか」

ハラボジがヒョンによく似た、でももっと白い髭を撫でる。
「尽くせよ」
「はい」
「剣の腕は、鈍っておらぬか」
「毎日夜、鍛錬しております」
「そうか、そうか」

満足そうに頷くハラボジに、初めてチュソクヒョンが苦く笑う。
「隊長に鍛錬を受けております」
「チェ・ヨン殿か」
「はい」
「噂では、鬼神の如き強さと伺った」
「あの方は」

チュソクヒョンは、そこで本当に嬉しそうな顔をした。
「私が敵わなかった、唯一の方です。未だに太刀筋すら読めません」
「ほう」
ハラボジが楽し気に白髪交じりの眉を上げた。
「それ程か」
「はい」
「その剛力を持ってしてもか」
「交打するだけで精一杯です」
「成程な」

ハラボジは嬉し気に頷くと席を立ち、頭を下げる チュソクヒョンと俺に向かって告げた。
「一服したら、その腕見せてみよ」
「はい」

チュソクヒョンが頭を下げた前をハラボジはゆっくり歩き、 そのまま居間を出て行った。

「・・・ヒョン。ヒョン」
ハラボジの足音が廊下を遠ざかって行くのを確かめながら、俺はまだ頭を下げたままのヒョンに小さく声を掛ける。
「何だ」
「ハラボジと打ち合いするのか」
「そのようだな」
「相変わらず強いぞ。俺なんて毎回こてんぱんだ」

その愚痴にチュソクヒョンはふ、と息を吐き、下げていた頭を戻す。
そして体一つ後ろに控えた俺に振り返り、
「俺も負ける訳にいかん。如何に父上とはいえ」
そう言って床から腰を上げて、俺を見ると
「負けたんでは、隊長の名に疵が付くからな」

座ったままヒョンを見上げる俺の頭をぐしゃりと撫でて、 そのまま居間を出て行った。

 

*****

 

「チュソク」
「はい、母上」
ハルモニと向かい合い、チュソクヒョンはゆっくり茶を飲みながら、優しい声で返事をする。
「この後、お父様と鍛錬をするのですか」
「はい、お誘いを受けました」

穏やかな声のチュソクヒョンを見ながら、俺は首を捻る。
こうしてハルモニへの声を聞く限り、このチュソクヒョンがど豪い剣術の達人だとはどうしても思えないんだよな。
優しいし、穏やかだし、俺にはいつも笑ってるし。
俺もそうなりたい。チュソクヒョンみたいに、いつか迂達赤に 入って、うんと優しくて、うんと強い男になりたい。
その隊長って人にも会ってみたいしな。
俺のチュソクヒョンが敵わないって言う、ただ一人の人に。

「ウジュン」
「はい、ハルモニ」
「庭の木に水を遣って来てくれるかい。今日は格別に暑い。チュソクの為に、打ち水をして来て頂戴」
「はい!」
「悪いな、ウジュン」
「すぐ戻ってくるからな!」
「これ!」

俺のチュソクヒョンへの軽口にハルモニが嗜めるように、笑いながら眉をしかめた。
「叔父さんへの口の利き方には、気をおつけ」
「はい!」

そう言って頷くと、俺は部屋を飛び出した。
チュソクヒョンにはいろいろ話したい事があるんだ。時間が惜しい。

 

 

 

 

里帰り~

お盆休みで しばらくぶりに里帰り
な~んて話。

ウンスはできませんが…
懐かしむ?
はたまた 迂達赤の誰かの里帰り?? (くるくるしなもんさま)

 

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