肝だめし【前篇】 | 2015 summer request・肝だめし

 

 

【 肝だめし 】

 

 

「・・・・・・それで、その女は振り向いて言ったの・・・・・・」

私の低い声にその場のみんなは黙ったままで、じっとこっちを向いてごくんと息を呑む。

「誰だ!!!」

一息に大きな声で叫ぶと、ぎゃあ、とも、うわあ、ともつかない大きな叫び声が上がった。
「お し まい」

ああ、スッキリした。夏は怪談に限るわよね。
今さら誰も驚かない手だと思ったけど、こんなに驚いてくれるなんて。
「涼しくなった?」
私がにっこり笑って言った途端。

迂達赤のみんなを本気で凍らせるような低い声が、兵舎の一階の吹抜けに響いた。

「・・・・・・愉しそうだな」

その声に背中を向けてたみんながぴたっと止まった。
そして恐る恐る、首から上だけで、吹抜けの扉を振り向いた。

私の偽物怪談どころじゃないわ。

眉間を中指で押さえて、目を閉じて、扉の木枠に背中で凭れてる隊長。
そしてその横で、困ったような顔をしてる副隊長。
「お前ら全員、とっとと持ち場に戻れ!」
副隊長の怒鳴り声は、早く行け、隊長の雷が落ちる前に。そう言ってるようにしか聞こえない。

迂達赤のみんなは慌てて、蜘蛛の子を散らすみたいに去って行く。
入口に立つあの人の前をおっかなびっくり抜けながら。
最後に副隊長も頭を下げて、吹抜けからそそくさと出て行った。

残されちゃったわ。私と、思いっきり機嫌の悪そうな隊長と。

「医仙」
「・・・今は医者じゃなくて迂達赤だから、その呼び方はどうかなあ」
「呼び方はどうであれ」
「はい、隊長」
「兵を勝手に集め、何を」

苦虫を噛み潰したみたいなしかめっ面に、私は慌てて首を振った。
「特に、別に、何も?」
「声がしました」
「ああ、あれね、あれは怪談を」
「怪談」
「怖い話。それで涼しくなってもらおうかなぁって」

隊長は呆れたみたいに息を吐いて、扉の枠に凭れてた背中を起こす。
「それほど怖いなら」
「え?」
「教えて下さい」
「怪談を?さっき話してた話を知りたいの?」
「何でも構いません」

隊長は大きな歩幅で、皆がいなくなった吹抜の私の横まであっという間に近寄った。

「兵のど真中に囲まれるどなたかを見るより、怖い話があるならば」
「・・・もしかして、怒ってる?」
「おりません」
「だって、声がね?」
「いえ」
「だって、今話してたのは迂達赤のみんなよ?あなたの部下でしょ?」
「はい」
「その人たちと話して何が悪いの?」
「悪くなど」

堂々巡りの会話に、私は肩を竦めた。
「判った。勝手にみんなと集まってこそこそ話したのはごめん。もしも誤解させたんなら謝るわ」
「誤解では」
「じゃあ、怖い話が好きなのね?だから聞きたいわけね?」
「・・・・・・」

呆れたような眸のあなたを眺めて、私は思いついたアイディアに心の中で思わず指を鳴らす。
そうよ。みんなで楽しめて、隊長も誤解しないで参加できるイベント。あるじゃない。

肝だめしっていうイベントが。

にっこり笑った私を、隊長は不安そうにじっと見つめていた。

 

*****

 

「肝だめし、ですか」
私の声に驚いたみたいな声を上げたのはトクマン君。
「俺達はいつでも、隊長に肝を試されてるようなもんですが」
首を振るのはトルベさん。
「そ、それに隊長がどう言うか」
不安そうに首を傾げるテマン君。

「大丈夫!だって怖い話を知りたいって言ったのは、隊長だもの」
私はみんなの声に、自信を持って頷いた。

そんな事を、あの隊長が本当に言うだろうか。
長い付き合いの迂達赤は、顔を見合わせ首を捻る。
「まあ、言う・・・のかもしれないな」
何しろこのところの隊長の言動は俺の知る、俺達の隊長とは全てががらりと変わっている。
トルベは諦めたように息を吐く。
この医仙が天界よりいらして以来、全て変わってしまった。
この方の所為ではないとはいえ、もう俺には何とも言えん。

「そ、そうなのかな」
本当に俺の隊長が、そんな事を言うんだろうか。
医仙を懐に隠してる 今の隊長は、いつもより緊張しているように見えるけど。
まだ納得しきれぬテマンは首を捻ったままだ。
いくら医仙を迂達赤に匿っているとはいえ。
いや、むしろ匿うからこそ、目立つ動きは避けるんじゃないか。

「あの隊長が、わざわざ怖い話を聞きたがるか」
俺の知る俺達の隊長は、そんな餓鬼みたいなものに一切興味は示さないはずだ。
医仙にちょっかいを出し軽口を叩くたび隊長に手を上げられるトクマンが、慎重に言った。
そんな隊長がわざわざ俺達と医仙の接点を増やしたりするかな。
やはりそれはないんじゃないか。どうも腑に落ちない。

居合わせた他の迂達赤もそれぞれ不思議そうに首を捻り、得心しがたいとばかりに唸る。
そんな皆を黙らせるようにウンスはにこりと笑い、居合わせた迂達赤の面々にぐるりと頭を巡らせた。

「大丈夫!言ったもの。この耳で聞いた。知りたいって。あれより怖い話があるなら聞きたいって」

そう言ってウンスは握っていた手を、皆の前に見せるように開いた。
「これは」
「ロウソクよ?」
「それは判りますが、医仙」
「肝だめしに使うの」

ウンスが握りしめていた一本の蝋燭に、皆がきょとんと目を当てる。
「肝だめしと蝋燭が、一体何の」
「みんなにルールを説明しようと思って」
「る」
「ああ、えっとね、肝だめしのやり方を」

いつの間にやら、肝だめしをする事は決まったらしい。
隊長抜きに決めて良いのだろうか、本当に。
一様に納得できない顔で、迂達赤たちはそれでも頷くしかない。

何しろ隊長が大切に護る医仙の、部屋に二人きり匿う方の言う事だ。
恐らく、間違いは無い。無い、だろう。

 

 

 

 

【きもだめし】 (muuさま)

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2 件のコメント

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    さらんさん、夏リクエストの肝試し、楽しみにしていました!
    ああ…大好きなウダルチ宿舎住まいの頃のお話にして下さったのですね❤︎
    ヨンの言葉を、自分の良いように解釈してしまうウンスσ(^_^;)、この先、どんな展開が待ち受けているのでしょうか??
    いずれにせよ、トクマンやチュンソクは巻き添えとなり、肩を落とすことになる??
    さらんさん、明日め残暑厳しいらしいですが、ご自愛くださいね。(#^.^#)

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    1st anniversary のリクエストお題のお話、
    毎回楽しく拝読させていただいております。
    今回のお題は肝だめし!
    肝を冷やすのは、ヨンか 迂達赤か はたまたウンスか!? (笑)
    (大穴で伯母上とか...?)
    後編、楽しみにしております(*^-^*)

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