2014-15 リクエスト | 鬼の霍乱・1

 

 

【 鬼の霍乱 】

 

 

「待って」

寝屋の寝台に横になった俺の懐に滑り込んで来る。
幼子のよう腕の中でこの胸に鼻の先を摺り寄せる。
愛おしさに掌をそっと回した刹那、その肩先が固くなる。
そして続くその鋭い声に、俺は回した腕を止めた。

何をした、寝台に共に横になってからの己を考える。
この方を不快にさせるようなことをしたか言ったか。
或いはその気配だけでも漂わせたか。

今宵は自信がない。

霞がかかった頭は茫と重く、視界すら曖昧だ。
時折首を振り、視点を確りと戻さねばならん。
運気調息で整えることすら面倒で、寝台に倒れ込んだ。
その途中で、何か仕出かしたとしても不思議はない。

眠れば良くなると思った。
この方を腕に抱けば、 前後不覚に深く眠れるはずだった。
「・・・如何しました」
問いかける己の声が、何処か遠くから聞こえる。
己の口が動き、耳で聞いているとは思えぬ程に。
寝台で跳ね起きたこの方の冷たく細い指が頬へ、そして頸へと当てられる。
「いつから?!」

それは俺が訊きたい。
帰宅し、その細い指が触れた時はいつも通りの温かさだった。
いつからこんなに冷たくなった。俺は慌てて細い指先を握る。
「イムジャこそどうした。指が」

寝屋の薄い灯りの中その瞳がじっと俺を見、そして細い指がこの掌の中を抜ける。
今一度この頬へ頸へ、そして眸を覗き込みつつ、手首へと当てられる。

「私の手が冷たくなったんじゃないの。
あなたが熱すぎるのよヨンア、分かってる?」
そう言って冷たい掌が、額へとそっと押し当てられる。
「39度近いと思う」
そう言ってこの方は寝台を飛び下りた。
「イムジャ」

共に行こうと身を起こすと、寝台向こうの扉前であの方が眦を吊り上げる。
「起きないで、そのままで寝てて。付いてきたら本気で怒るわよ」
そう言って扉を開け、その小さな体は廊下へ滑り出た。
俺は熱い息を吐き、起こした体を寝台上へ投げ出した。
砂袋を無理に担がされたかのようだ。重くて厭わしい。

目を閉じると、閉じた瞼の裏が回る。
寒くなった俺は寝台で掛布団を引き上げ、体を丸めた。

 

******

 

用意できるものは何?
今すぐ用意できるのは水、タオル。
典医寺まで、外の兵さんに走ってもらうしかない。
私は外へ走り出て門の横の立ち番の兵さんに駆け寄る。

彼らは夜中に走ってきた私にぎょっとしたような顔で
「どうなさいましたか!!」
そう言って慌てて姿勢を正す。
「お願いがあるの、典医寺に行って大至急麻黄湯を下さい、ウンスが欲しがってる、って伝えてくれない?」

突然のお願いに立ち番の兵さんたちは慌てて頷いた。
「麻黄湯、ですね」
私はこくこく頷いた。
「大護軍が飲むからって伝えて。お願いします」

その声を聞いた途端、1人が無言でそのまま門から駆け出す。
私はそのまま、家の中へと駆け戻った。
冷たい水を張った桶を抱えて、廊下に零さないように出来る限り急いで、慎重に寝室まで戻る。
扉を開けるとあの人は珍しく寝台の上で、掛布団にぐるぐるに包まって体を小さく丸めていた。

こんなに熱が高いのにまだ寒がってるって事は、これより上がる可能性もある。
さすがに丈夫なこの人も、40度まで上がれば他の症状が併発するかもしれない。

水桶を寝台の横の小さな卓の上に置いて、部屋のたんすのひきだしから手拭いをまとめて出す。
次に着替えを用意して寝台の横に戻った。
手拭いを1枚を水桶に突っ込んだ後、小さくなっているあなたの掛布団にそっと手をやる。
「ヨンア」

そう呼んで静かに揺すると、眠ってはいなかったんだろう。
この人はふと目を開けて、怠そうに私を見上げて
「はい」
そう鼻声で返事をする。私はその額に手を当てた。やっぱりまだ急性期、汗は出てない。
手を当てた額は、こんなに燃えるくらい熱いのに。

でも珍しい。怪我以外でこの人が倒れるなんて、初めての事。
安心させようと、額の生え際をゆっくり撫でる。
「大丈夫よ、すぐよくなる。ただの風邪だと思うから」
インフルエンザなのかしら。この時代にもウイルスはあったはず。
まだ汗をかいてないから、着替えは後でもいい。

「少し冷やす?まだ寒い?」
この人は布団の中で怠そうに目を閉じた。
「まだ寒い」
その答えに不安が募る。でもそんなことはおくびにも出さないように、私は頷いた。
「そっか、じゃあ薬が来るまで、もう少し寝よう」
掛布団を掛け直して背中をさすると、この人が気持ち良さそうに息を吐く。
背中が痛いのね。発熱の疼痛かしら。

私は背中をさすりながら
「今、典医寺からにがーい薬が来るけど、残さないでね」
ふざけて言うと、この人は布団に包まったままで、ふ、と笑った。
そしてこっちを見て
「それはあなただ。薬湯を飲ませるのにいつもどれだけ苦労をするか」
そう言って、どこまでも頑固なんだから。

「やぁだ、風邪ひいてるのに言う事は可愛くないわね。
こんな時くらい、はいはいって言って素直に甘えなさい。分かった?」
「・・・はい」
この人はようやくそう言って頷いて、熱でとろりとした目を閉じる。
「何かほしいものは?」
「・・・いえ、自分で」
「ヨンア」
「・・・はい」
「ほ し い ものは?」

そう訊くと、この人は目を閉じたまま
「・・・イムジャ」
そう呟いた。まだ減らず口を言うつもり?
「なあに」
「イムジャが欲しい」
そのまま腰掛けた私の腰に手を回して、はあ、と熱い息を吐く。
「こうしているだけで」

私は黙ってその背中を撫で続ける。
大丈夫、ここにいる。いつも一緒。
あなたの静かな寝息が聞こえ始めるまで私はそっと、出来る限り優しく、大きな背中を撫でていた。

 

 

 

 

新リク話、始まりました。

124. 無題
珍しくヨンが寝込んでしまうのは、どうでしょうか?
たまにはヨンがウンスに甘え放題。読みたいですう。  (チェヨン1さま)

早速、寝込んでいます。
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22 件のコメント

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    私も看病したい♥
    私にも甘えて~♥
    ↑不謹慎、失礼しました(汗)
    いつも元気で丈夫な人が弱るとキュンってなっちゃいますね♥
    ↑またしても…不謹慎、失礼しました(* ̄∇ ̄)ノ

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    あら ヨン、ダウン
    ウンスさん献身的な看病をするのね。そりゃ
    ヨンうれしいでしょうねウンス独り占め
    ( ´艸`)
    ウンスは ヨンが大人しく従ってくれるうちは…回復してきたら
    (///▽//) あはははは
    あまあまですねー。

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    鬼の霍乱‥まさにその通り(o^-')b !
    壮健な人が珍しく病気に?!
    ヨンも人の子って事でしょうか?(笑)
    それでも欲しいものは、イムジャと言える元気がちょっとだけ残ってた( *´艸`)
    今回は甘えヨンの登場ですか
    楽しみですね~ヨンが苦労した苦~い薬を今度はウンスが飲ませる番

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    まさしく鬼の攪乱ですね。
    たまには弱った甘えるヨンが見たいです。
    おもいきりヨンはこの際弱ってみてください。
    ウンスがいるから大丈夫です。
    看病するウンスと看病してもらうヨンのあまあまをお待ちしています。

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    いかちぃうちのヨンも、具合が悪く寝込んでる時は可愛い(^_^;)
    でもあまり我が儘言わないから、やっぱりちょっと淋しいかも。逆に私は寝込むとうるさい( ̄^ ̄)ゞ

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    >まりあさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    あははは、でも分かります。
    始終病弱なのは、ち*ま*こちゃんのキャラだけでw
    やはりヨンは、普段とのギャップ(いろいろな意味で)を
    此度は見せて頂こうと・・・
    パラレルならではのヨンを、見て頂ければ嬉しいです❤

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    >くるくるしなもんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    献身的、かつプロの目線よりw
    確りご指導が、いろいろ入りそうです。
    まあ、高麗の中で風邪を引いた時、一番安心なのは
    ヨンである事は、間違いなさそうです・・・( ´艸`)

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    >愛知のひとみさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    もうこれは、リクに沿ってひたすらにw
    どうなることやら、ですが・・・
    偶さかの病ゆえ、それを楽しむもよし、ですね( ´艸`)

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    >えみりんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    ウンスが毒に倒れた時「一息に、飲んで」と
    言ったヨンですから。
    今度は、ご自分の飲む番ですよ、とw
    一気に飲むか、駄々を捏ねるか、他の方法を見つけるか(^人^)
    ウンスはさぞ嬉しいことでしょう、此度は飲ませる番ですw

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    >みきみきさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    あははは、ありがとうございます(〃∇〃)
    デレとか甘々、ともまた少し違う「甘ったれ」ですがw
    此度のヨンは、どうなるやらです・・・( ´艸`)

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    >あみいさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    甘える、と言っても普段のあの凛々しき姿が
    どうも脳裏を過ってしまうのですがw
    あの声が、どうも耳に響いてしまうのですがw
    このパラレルでは、それを踏まえつつ、どこまで・・・という
    自分への挑戦を!ハードルは高く(爆)です!

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    ほしいものは?
    イムジャ
    なんて なんてなんて甘甘なの。
    わかってるって~と手を挙げちゃいます!
    ははは
    続き楽しみにしています。
    どんな甘えんぼヨンが飛び出すのやら。

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    怠そうな目を想像しただけで 萌えキュンです(#^.^#)
    今日に限って外出 帰ってきても すぐに来れず やっと落ち着いて読みました。
    頭の中は ヨンの怠そうな目が… ヨンには悪いけど しばしそのままで(*´▽`*)
    この後 どれだけ甘えるか 考えるだけで にまにましそうです。
    私のリクエストって 甘いのばっかりですね( *´艸`)

  • SECRET: 0
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    これから甘え放題ですか(*/□\*)
    弱ってるヨン…萌えます‼
    クネクネしちゃう(*/□\*)
    ふざけすぎてすみませんm(._.)m
    どー甘えるのか楽しみです♪

  • SECRET: 0
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    題名のごとく正に鬼の霍乱。
    丈夫が取り柄のヨンが発熱なんて。
    さすがのウンスも心配ですよね。
    でもこんな時だからこそ、医者であるウンスの本領発揮かな?
    病気で弱っている時って、妙に可愛く見えちゃったりするんですよね。まあ、心配がまず先なんですけれど(笑)
    一番危険なのは少し身体の楽になりかけの時かしら?❤
    ヨンの看病日誌楽しみです。

  • SECRET: 0
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    >ツマ吉さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ふふふ、やはり寝込んだ姿は殿方の方が可愛らしいやもですね。
    普段とギャップがあればあるほどw
    そんなときは、頼ってほしいですよね、やっぱり(*v.v)。

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    >あじのひものさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もう、何でしょう。
    リク話なので、当然リクに沿い、ヨンの中の
    一点をクローズアップ&ディフォルメして書くのですが・・・
    このヨンは、もうかなりの若ヨンの気配が。
    はいはい、お好きにどーぞな感じです(爆

  • SECRET: 0
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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あはは、怠そうな目が萌えポイントでしたか❤
    怠そうな目と言えば、基本キリ目のミノ氏がたまーに子犬目タレ目な時があり、
    それを見つけるのが密かな最近の楽しみです。
    信義なら、チュソクへのミアナダの時のヨン、
    そして江華郡守の宅で、庭の小菊を摘むあの名シーンの
    最初のところでウンスを見つめるヨン、
    やけに目え垂れてますけど・・・メイクですか?とw
    そんな邪道な観方になってきています(;´▽`A“

  • SECRET: 0
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    >naomiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    甘えると言ってももう、基本はあのヨンなので
    限界がありそうですが(w
    甘えたい気持ちはあるようです・・・人並みに( ´艸`)

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    >ままちゃんさん
    こんばんは、コメありがとうございます(≧∇≦)
    看病日誌、最終的にはどんなオチやら(。-_-。)
    私はヨン話で終了の予定なのですが、本人が駄々捏ねとります。
    いえ、どうにか決着つけますが( ̄^ ̄)ゞ
    今夜最終話の予定です♥︎

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