2015.01.12 鸛さらん

2014-15 リクエスト｜鸛・1

【鸛】

役目を終えて宅へと戻る。
馬を駆り、思い描く笑顔。
玄関の戸を開ける。
迎え出る小さな足音、迎え入れる愛おしい声。
交わされる帰宅後の触れ合いに溶ける心。
扉の向こうに待つ倖せを、日毎噛み締めながら。

「大護軍、顔が･･･」
婚儀の後。
迂達赤の奴らが言い辛そうに、何度其処で言い淀んだことだろう。

「何だ」
大概の迂達赤はそこで退く。
いえ、とか、あの、とか誤魔化しながら。
その俺の怒気を突破するのは、相変わらず気配の読めぬあのトクマン。
もしくは俺と通ずるチュンソク、あとは弟分のテマンくらいのものだ。

「緩んでおります」
そう言ったトクマンには蹴りを入れた。

「締りが」
そこで留めたチュンソクには睨みを浴びせた。

「嬉しそうです」
そう笑ったテマン、奴だけは俺の全てを見ている。
黙っていろと鋭い語気で言い聞かせた。

ああ、緩んでおろう。締りも無かろう。
嬉しそうなのは当然だ。嬉しいのだから。
お前らも心底求め、追い続けた女人を娶ればこうなる。
そう思いながら宅の門をくぐる。

其処に待つ守りの歩哨に
「大護軍、お帰りなさい」
と迎え入れられながら、馬の手綱を投げ渡し
「あの方は」
鞍を滑り降りそう訊くと、兵は馬を牽きながら
「もうお戻りです」
笑んで頷き、そう答える。

今日も玄関の戸を開ける。
「戻りました」
声を掛けるがいつもなら聞こえてくる足音も、あの声も返って来ない。

しかし宅中には確かに気配がある。温みもある。
俺は急いで玄関を上がった。
居間へ真直ぐ駆けて扉を開く。おらぬ。
厨へと駆け下り姿を探す。此処にもだ。

寝屋へと走り扉を開けて、ようやく寝台の上の小さな姿を見つける。
吐いて初めて、それまで息を詰めていたと知る。
「･･･ん、お帰り」
物音に気付いたこの方が、ようやく気怠げに大儀そうに目を開けた。

「ごめん、寝ちゃった」
「そんな事は構わぬ、どうした」
寝台の傍へ寄り床に膝をつき、横になった顔に眸を合わせる。
未だ少し怠そうに目を擦ると、この方は俺に向かいその手を伸ばす。
頬に触れ、眸を覗き込み、手首の血脈を探り、その指を当てて来た。
いつもの触れ合い、しかし寝起きのせいか。
其処彼処に触れる指がいつもよりも温かい。

「ウンスヤ」
俺は手首に触れた指の動きを制した。
細い指先を己の手で握って確かめる。
指を開かせ、この指をその隙間に潜らせ、静かに握ってみる。
手首を振り、その薄い手の甲を己の親指と残りの指で挟み込み、軽く押してみる。

おかしい。
温かさだけではない。何がおかしい。
「･･･手が違う」
「え？」

俺に手を弄ばれたまま静かにしていたこの方が声を上げ、僅かに首を傾げる。
「いつもと手が違う」
「そうなの？自分では気付かない」

俺は頷きながら、この方の頬に指を滑らせる。
燃えるような熱は無い、ただいつもより温かい。
髪を撫でてみる。変わることはない。
瞳を覗き込む。いつもの瞳、ただその奥が怠そうだ。
両頬を己の掌でそっと挟む。
両の親指をその瞳の下にゆっくり滑らせる。
何度も行き来させてはみるものの、温かさ以外に変わった感じは見つからぬ。

それでも違う。
違うと判りながら理由が見つからぬ。
如何すれば良いのかと気ばかり焦る。
「まずは典医寺へ」
「待って、ヨンア」

俺が立ち上がりかけるのを、この方が留まらせた。
そして苦笑しながら
「大丈夫、ただ眠かっただけ。体は特に異常はないから、そんなに焦らなくていいの」
「イムジャ」
そう言う俺に頷いて、寝台の上でこの方は身を起こした。
「ご飯にしよう。まずはお風呂に入って来て？」
何を悠長な事を。
思わず声が大きくなるのをどうにか堪えて言い募る。

「風呂などどうでも」
「良くないから、早く行って来て？着替え用意しとくから、ね？」
寝台から立ち上がり笑うこの方に首を振る。
立ち上がった小さな体を両腕の中に抱き締め、その髪に顔を埋めてみてもいつもと変わらぬ。

何なのだ。何がこれほどおかしいのだ。
何処かで警笛が鳴る。
あの高い音が繰り返し耳に響いて喧しい。
何故これほどまでに気に掛かる。
「そんな事は己で」
「じゃあご飯の準備しとくから、ほら早く」
「本当にいつもと変わりはないのか。万一イムジャに何か」
「いつもと同じ事しかしてないし、典医寺からも出なかった。
知らない人とも接触してない。お昼は典医寺で食べた。
あなたが心配する事は、なぁんにも起きてない」

そう言って俺を安心させるようこの方が指を折り、懸案事をひとつづつ上げていく。
信じている。この方の言い分は信じる。
だがならば尚更、この違和感の出処が分からん。

言われたではないか。医者は己の体に気が回りにくい。
まして俺の事しか考えぬこの方は、ご自分の体など最後の最後にしか考えぬと。

何なのだ。
何なのだと問いかけつつ、この方が今すぐにその意を翻すとも思えん。
何か変わりがあれば、問答無用。
引担いででも典医寺へ駆け込む。
そう決めてこの方を寝台へそっと戻し、俺は湯屋に走った。

64. あくまでも
出来たかも？！です
1番最初に気付くのはヨンです??
で超甘々で超心配で大暴れなヨンを（みきみきさま）

皆さまに改めて❤
今回のリク話、それはそれはいろんなバージョンで、
多種多様なリクを頂いています。
とても嬉しいのですが、我が家の二次設定とは微妙に異なる部分も、勿論あります。
なので、
本当に「当話限定」で、パラレルとして
どこかの世界で、いつかの巡り合わせで、
こんなイムジャカップルもいたのかな、として
ヨンで頂けると嬉しいですヨン❤
ではでは❤お楽しみ頂けたら嬉しいです(*v.v)｡

皆さまのぽちっとが励みです。ご協力頂けると嬉しいです❤

今日もクリックありがとうございます。

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42 件のコメント

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さらんさんこんにちは♪
たしかに沢山のリク話し( ・∇・)
さらんさんの考えから
生たまれたものでないので
パラレルとしてしっかと
受け取っていきます。
さらんさんのお話は脇にそれても
楽しくて仕方ないです！(*≧∀≦*)
結婚したあとの話し設定のアマアマ( 〃▽〃)
楽しみです！

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