槍水仙 | 10

 

 

俺は手綱を引き愛馬を停める。
正面に黒い覆面で顔を隠した賊、ざっと見渡して二十。

先頭にいた賊が此方に向け何かを投げた。
屋外で毒弾などは使うまい。此方が風上に回れば終いだ。

それは煙を発するだけで、特に毒気はない。
しかしその瞬間立ち込める煙を抜け、敵が馬を駆り突込んできた。

鬼剣を鞘から抜くと同時に、そこに向けて馬を全速で駆る。
すれ違いざま一人目の胴を払う。
体を低くしたまま二人目の脇を突く。
馬上で伸びあがった勢いで、逆側を抜けようとした三人目を肩から袈裟懸けにする。

しかし四人目に脇を抜けられ、続く五人目の刃先を避け、その進行方向を振り向いて全速で馬を戻す。

迂達赤は既に馬車周辺を二重に密着し陣を敷いていた。
但し御者台は御者の迂達赤のみ。
長柄にくぐらせた馬が邪魔をし、敵も近付き難い代わりに迂達赤も守りの距離に入れぬ。がら空きだ。

そこを破ろうと突込む馬上の賊を際どく馬上で捕え、背中からひと息で斬る。

左右に割れた賊と、馬車の周囲の二重防御になった迂達赤が斬り結ぶ。

防御を抜けた賊が侍医に向け、刀を構えるのが目に入った。
「侍医!」
叫ぶと同時に、妙な動きをした侍医が目に入る。

侍医は懐から長く細い何かを取り出し、馬上で舞うよう賊の刀を避けながら賊の肘の辺りを突いた。
その刹那、賊は呆気なく刀を取り落とし、握る手綱を離し、全速の馬の背から地面へ落ちた。

生じた隙を見て俺は侍医を呼ぶ。
「侍医、こっちだ!」
その声に侍医は馬車の御者台まで馬を全速で付ける。
「乗れ!」

 

「分かりました」
私がいては却って邪魔かもしれぬ。
そう判じ隊長の命通り、馬から降りようとした時。
一旦後方で迂達赤と切り結んだ賊が再度御者台を破ろうと、こちらに全速で突込んできた。

その刃を避ける為、私が扇で刃先を払った瞬間。
当たり損ねた鉄扇が嫌な音を立て、相手の刃を折った。
折れた刃は弾け飛び、そこにいた隊長の鎧の肩と腕貫の間の 柔らかい腕部分に、浅く刺さって止まった。

 

「隊長!」
刺さった刃にテマンが叫び、周囲の兵の動きが一瞬乱れる。
「気を散らすな!攻めろ!」
刺さった刃はそのまま檄を飛ばす。

残り三人。
そこまで減った賊は此方の様子を判じ、動きが僅かに乱れた隙に馬を退いた。

「追え!」
後方の迂達赤に追跡を命じ
「残りは全員縄をかけろ!」
その場に残った迂達赤に命を飛ばす。
「は!」
その場の迂達赤が馬を下り負傷して残された賊に寄ると、次々にその体に縄をかけて行く。

俺は馬上で腕貫を片方脱ぎ、浅く刺さった刃に巻きつける。
一回深く息を整え、止めると同時に一気に引き抜く。
傷口からは思ったよりも派手に血が飛び散った。
侍医が寄り傷を見ると、素早く止血帯を巻き
「私が良いというまで外さぬように」
そう言い残し馬車に向かう。

「王様、チャン・ビンです。お加減を拝見の為、入っても宜しいですか」
侍医が格子窓から声を掛けると
「問題ない。先に迂達赤を診てあげなさい」
王様のお声が返る。侍医は
「かしこまりました」
と静かに返答し、俺に頷くと、兵の方へ向かった。

俺は折れた刃を離れた地面に投げ、腕貫をつけ直しながら
「王様。ご無事ですか」
閉めたままの御者台の格子窓越しに声を掛ける。
「大丈夫だ。チェ・ヨン、窓を開けてくれ」
「失礼致します」

御者台の格子窓を開き、中の様子を確認する。
背を伸ばして座る小さな王様は、光を遮った薄暗い馬車の車内でも分かるほど、蒼い顔をしていた。

「御気分が優れませんか。侍医を呼びますか」
「違う。チェ・ヨン、怪我をしたのか」
王様が首を振る。俺の事を案じていたのか。

「大したことは御座いません」
そう言って腕を軽く上下する。動きにも問題はない。
この程度なら気を整えればすぐに治ろう。

「そうか、良かった」
やっと強張った頬を綻ばせた王様に頭を下げ、
「まだ状況不明故、危のうございます。
申し訳ありませんが、お閉めいたします」

俺はそう言って格子窓に手を掛けた。
心細そうな幼い顔が、静かに閉める窓の向こうで格子の枠に徐々に隠れていき、見えなくなった。

 

 

 

 

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7 件のコメント

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    出ましたね、チャン侍医の内攻、医員にしておくには、勿体ないと太王四神記ファンの私は、思ってしまいましたね。ヨンに初お披露目して、この後楽しみ。明日で終わりなのですね(?_?)。すごく引き込まれてあっという間です。もっと読みたかったな。いつも新章始まると、読み進むにつれて、そう思います。

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    チャン先生の払った剣先が、折れ飛んで、チェヨンくんの腕に刺さっちゃったの?
    うぉ、痛そう!
    チャン先生、鉄扇を使っていたのですか。
    そうですよね。剣をはらうのですから。
    チェヨンくん、チャン先生の力に気づいたのかな。
    それにしても、王様の外出に内官一人同行しないなんて。
    皇宮での、ユ氏と前王妃の力関係は、ユ氏劣勢なのでしょうか。

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    チャン侍医のまた隠れた一面を見たヨンですね。内功の使い手。このお方、本当に奥が深いですよね。
    幼いながらもしっかりとした王様。その風格は前王なんか足許にも及びませんね。ご自分も不安なのに、それよりもヨンの心配をする。そんな王様だからこそ、ヨンも心からの忠誠が芽生えて行くのでしょうね。

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    カッコいい。。。
    目に鮮やかにうかぶ、敵と闘うシーン!
    あぁ~~、映像にしたい。。
    さらんさん、二人の男の中の男達を見せてくださってありがとうございます!
    毎回楽しみで仕方ありません!

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    おはようございます
    さらんさんの描かれる戦闘シーン大好きです…
    手に汗握って ドキドキしながら妄想しています 笑
    長髪で舞うように 闘う侍医は かっこ良かったですね
    フィリップさんは アクションお上手ですからね~笑

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    さらん様、こんにちは❤
    チャン侍医の、舞を舞っている様な、優雅な扇さばきは、本編序盤以外は滅多に見る事が出来ませんでした。
    もっともっと、ヨンの雷功と共に見せ場を作って欲しかったです。
    王妃媽媽の治療のシーンを見た時、太王四神記では無いですが、もっとサイキックな場面が沢山有るドラマなのかと思っていたのですが、ちょっと違いましたね。
    増々、二人に釘付けです❤

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