槍水仙 | 1

 

 

【 槍水仙 ~ 誇り 】

 

 

そろそろ店先の提灯に灯が入る刻。
秋の夕焼けと相まって、道には眩しい色が射す。
その光に俺は少し目を細めた。

赤く照らされた道の両側には夕市が立つ。
その店先には秋夕のための品々が所狭しと並べられている。
「テマナ、まっすぐ前を向け」

さっきから見ておれば一時もじっとせず、前へ行ったり戻ったり。左に寄っては右へと駆けたり。
秋夕の茶礼用の夕市の中。
俺とトルベそしてチュソクとトクマンは、隊長の傍を離れるのを嫌がるテマンを連れ、役目帰りに隊長の命にて買い物へ出た。

間近に控えた秋夕を前に、夕市は沸き立つほどの人波だ。
真直ぐに歩かねば早晩誰かにぶつかろう。
しかしそう言う俺の声すら聞かずに、テマンはうろうろと落ち着かぬ。

「て、隊長がま待ってて、だから、早く」
そのテマンの声に
「あの人は待ってなどおらん。今頃は兵舎の部屋でぐうすか寝虚仮ている」
チュソクが人波の中、笑いながら首を振って言う。

「間違いないな、俺もそう思う」
俺の隣を行くトルベがチュソクに呼応し頷いた。

「しかしあれ以上寝れば、目が溶けます。隊長は寝すぎだ、赤子でもあるまいし」
なかなか稽古をつけてもらえぬトクマンは、不服そうにぼやく。

「で、副隊長。隊長から何を頼まれたんですか」
トルベが首を回し俺に尋ねる。
「酒とソンピョン、栗に柿に棗に新米だ」
俺は思い出して言った。

皆が俺を見て驚いたように目を瞠る。
「隊長は兵舎で秋夕茶礼を催すのですか」
皆の声を代表するよう、チュソクが俺に尋ねる。
「ああ、あの人らしい考えだ。何しろ役目のお蔭で家に帰れぬ奴もいる。
そいつらに少しでも、故郷に帰ったつもりになってもらうという配慮だろう」

そうだ。あの不器用な隊長は夕の鍛錬が終わって兵舎へ引き上げる俺に向かって

「チュンソク」
すれ違いざまそう呼んで引き留めた。

「は」
俺が足を止めて振り向くと
「部屋へ来い」
それだけ言い捨て大股でその場を後にする。
何事かと後を付き従えば、部屋に入った隊長は部屋の隅に積んである袋を一つ掴み上げて投げて渡す。

反射的に掌に受けた革袋の中、じゃりんと重い音がした。
「これは」
「酒とソンピョン、栗柿棗に新米」
「は?」
「買って来い、残りはお前らどこかで晩飯でも食え」
「秋夕の用意ですか」

それには答えず隊長が部屋の寝台へとごろりと寝ころび、長々と丈高い体を伸ばす。
「俺はもう眠い。早く行け」

俺を手で払ってそう言うと腕を伸ばして目隠しし、そのまま見つめる俺の目の前で本当にすぐに寝息を立て始めた。
これは無理に起こせば、こちらが血を見る。
俺は溜息を吐き
「行って参ります」
届きもせん呟きを残して、部屋を出たのだ。

 

「だ、だだから、早く」
隊長を一人残して落ち着かぬのだろう。
テマンは先程より、しきりに早く早くと連呼する。

「頼まれたものを買えばすぐに戻る。だからお前は落ち着け、な」
俺が言うとテマンは前後左右から自身に向かう人の波を、体を回転し、歩を踏み替え、独楽のように回って避けながら
「でも」
そう不満そうに口を尖らせる。
あいつは背中に目でもあるのか。

俺の視線に気付いたように、 チュソクが頷きながら言う。
「奴は気配を読んでいる。
その身にある程度近づけば避けるように、体が覚え込んでいるんでしょう」

そう言えばこの人波をうろつきつつ、今まで誰ともぶつかっておらん。
俺はチュソクの言葉に頷き、改めてテマンを見る。
まるで何事もないようにひょいひょいと人を躱す様、その姿はまるで舞っているような軽さだ。

隊長もとんでもない奴を連れてきたものだ。
あの人がそこまで考えていたとは思い難いが、それでも連れてきた者もやってきた者も只者ではないと、 苦笑しながら思う。

「ありました」
トクマンが一件の屋台の店先で大声を張り、こちらの俺達に合図する。

新米、栗に柿に棗。 そして酒、そこまでは良かった。
どこの店でも割に簡単に手に入った。
しかし肝心のソンピョンが手に入らず、俺たちは結構な時間を夕市の中を回って費やした。

トルベがお得意の口八丁で市の売り子の女人に声をかけ
「どこかソンピョンを売っている店をこの辺りで知らないか?
連れて行けとは言わんから、教えてくれ」
そう口説き落としたのだ。

教えられた店まで先に走ったトクマンが、やっと見つけた嬉しさで顔を綻ばせ、店先で俺達を手招きしながら待っている。

「おお、御苦労」
蒸籠の中のソンピョンを覗き込み
「主、頼む」
俺が店主に声を掛ければ
「はいはい武官様、おいくつほど包みますか」

愛想の良い店主が、包みを用意しながら俺達に尋ねる。
数までは聞いていなかった。
しかし迂達赤の頭数、そして実家に戻らぬ奴らをざっと頭に計算し

「そうだな、百ほども」
そう伝えると
「はい、畏まりました。では包む間、宜しければ 皆さま此方を摘まんでお待ちください」
蒸し上がったソンピョンを別皿に乗せ、俺達へと差し出してくれる。
「ああ、すまん、頂こう」
その皿を受け取り、礼を伝えて皆に回す。

皆その蒸したてのソンピョンを口へ放り込み、うまいうまいと騒ぎ立てる。
早速空になったその皿を名残惜しげに見るテマンの視線に気付いたトルベが
「テマナ、お前もっと食うか?」

そう言うとテマンが嬉しげに頷く。
主を見れば、未だに大量の餅を包むのにまだ手古摺っている様子。
トルベはそんな主に向かい
「主、すまんがもう一皿。案ずるな、次はきちんと払う」

大声で、笑いながら声を掛けた。

 

 

 

 

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12 件のコメント

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    今回のお話は、ウダルチの話ですか?
    いいですね~♪
    チュソクもトルべもまだ生きている!
    続きが、とっても楽しみです❤
    昨日の、リクエストのUPが今から、楽しみです。
    それにしても、皆様、流石ですね。色々、考えたのですが、ほとんど皆様と被っていました!
    やっぱり、シンイ廃人の考えることは、同じなんですね~(笑)
    でも、また思いついたら、リクエストさせて頂きます!

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    ウダルチたち!
    秋夕って、チェヨンくんがウンスちゃんの手を握りながら話してましたね。
    仲間がみんないます!
    テマンが連れて来られてすぐくらいのお話かな。
    肉まん?はないか。野菜まん?

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    新しいお話、始まりましたね♪
    ウダルチ、いいですよね~(*^^*)個々のキャラクターは勿論素敵ですが、長身揃いってとこがまた何とも…たまりません。
    これからどんなお話になるのか、楽しみにしています。
    勿論、企画も!
    素敵な企画ですね。こちらもとっても楽しみです(>_<)

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    >かよさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    新章、始まりましたが、皆さまキリ番にいろいろお時間を頂いているようでw
    来週の、締め切りまでは、この新章をしみじみ、UPしてまいります(*v.v)。
    今回は、後悔タイミングを間違えた感満載ですがw

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    どうなんでしょう、高麗時代特に後期は、仏教の影響で
    上流階級ほど肉食から遠かったらしいですが・・・
    今後、いつ頃のお話かも分かると思います(〃∇〃)

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    >ユーちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    背、高いですね~!全てサイト情報ですが、
    トクマニ187cm、チュンソク184cm、トルベ不明、チュソクとテマンが178cmと言うのが
    それぞれの俳優さんのプロフで確認できました。
    で、ミノ氏が187cm。ただ、トクマンと並ぶと
    「トクマニン方がでかいだろう!」と
    ついつい言いたくなるような・・・??

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    今回の話と関係ないので、すみませんが。記事一覧、テーマ別を見たら、最初のブログのところに一服処とあとなんだっけ?、違うのがはいってました。すみませんが、こういうの気になる性格なので。今日は、ほとんど布団の中から、コメントしまくってました(笑)。何回したんだろ(?_?) 楽しい企画のおかげで、熱も下がり、元気になりましたよ。

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうです、寝太郎時代のヨン。
    しかし此度は、敢えて「或日、迂達赤」ではなく
    別カテです・・・ふふふ。
    この笑いが出る時は碌なことが起こらない、
    そろそろ私の( ´艸`)悪魔っぷりが伝っているころかなあ…そうだと良いですが❤

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    部下を思い遣る優しさはあるけれど、表には出さず面倒臭そうにしているヨン。
    この時は、全くやる気なさそうな、気だるそうなヨンでした。
    それでもウダルチには慕われていたものね。
    チュンソクは、大変そうでしたけど・・・
    どんなエピソードを書いてくれたのか?楽しみよ。

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    さらん様、こんばんは❤︎
    少し遅れて、一気読みに入りました。
    迂達赤の主要メンバー勢揃い(*^_^*)
    テマナが、並の子では無いと言うのは、とっくに分かっていた事ですが、改めて迂達赤隊員も一目置く存在と認識していてくれるのが嬉しくて嬉しくて♪( ´▽`)
    チュンソクの名言ですね。
    「連れて来た方も、連れて来られた方も、並じゃ無い」
    その通り\(//∇//)\
    だ~い好きな台詞です❤︎

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    >夢夢さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    一気読み、ありがとうございます❤
    今回は華なし、野郎だらけの友情ものです( ´艸`)
    お楽しみ頂けると嬉しいです❤

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