或日、迂達赤 | 蒼天(中篇)

 

 

王様たちが去ったほんの僅かの後。
王様の馬車を畦道の坂下に残しておいたお蔭で、敵は俺達の気配に気を取られ山道を駆け上って来た。

敵の一団の中にあの笛男と火女を認め、微かな焦りを感じる。
それを押し殺し、奴らが駆け上がって来る山道の脇で身を潜めていた叢から飛び出して斬り掛かる。

入り乱れる足音と剣の交わる金属音だけが、静かな山中に響く。
山賊のわけがない。
山賊の集まりが、これほど組織的に動けるわけがない。

斬っても斬っても、尽きることがないようだ。

一人で禁軍十人に匹敵すると言われる迂達赤が、こうもやられる。
こいつらが山賊のわけがない。
絶対に副隊長を追わせてはならない。

護りが命尽きるまで続くことは、骨身に染みて分かっている。
どう攻めるか分かっているはずだ。
此度はその護る方が、側にいないだけだ。
それを敵に気取られるわけにはいかん。

副隊長が王様を連れ峠まで逃げる、その為の刻を少しでも長く稼ぐのが役目だ。
そうすれば必ず隊長がどうにかしてくれる。

斬って斬って、斬り捨てる。

血に濡れた柄が手から零れる。
剣を離した俺は、目の前の敵を拳で殴りつける。

その瞬間、右腰を後ろから斬られた。
次の瞬間前の敵が、俺の肩から袈裟懸けにする。

蒼い空の下、赤い血飛沫が噴きあがる。

その間にも周囲の甲組の奴らが敵の刃にかかり、一人、また一人斃れていく。

俺がどれほど守ろうとしても、指の間をすり抜けるように。

俺もかなりの深手を負ったようだ。
右手の感覚は、もう既にない。
肩から流れる血で掌が真赤だ。
右腰のあたりにも、燃えるような熱さを感じる。

気付けば周囲には斬り捨てた敵、そしてその間に。

俺の、仲間たちが、斃れている。

隊長、俺には誰一人救えなかった。
隊長、俺にはあなたのような力はなかった。

こんな無力な男でした。誰一人、大事な仲間を救えずに。

そう思いながら、仲間と敵の血で濡れた地面に膝をつく。
もう立っている力すら残っていないのか。
俺だけ生き残って何になる。

頼む。頼むから、奴らの中で誰かが息があるうちに、副隊長。

開京に戻ってくれ。そして誰かを呼んでくれ。

斃れている奴らを、救ってやってくれ。

起きていることすらままならず膝を着けば、そのまま腰が落ちる。

俺は仰向けに成り、大きな空と対面する。

蒼いな。

えらく蒼い。

今日はこんなに良い天候だったのか。

斃れたままの俺の横を、あの笛男の白い衣が抜ける。その後に火女の赤い衣が。

お前らか。お前らの仕掛けだったのか。

裏にいるのは徳成府院君。そして徳興君。
すれば宮中の隊長はどうなる。逃げた副隊長は。

駄目だ。禁軍が動かぬ限り、隊長ですら危ない。

一人でも多くの奴を仕留める。
それが火女だろうと笛男だろうと、何の違いもない。

火女が俺の横を通り過ぎた瞬間。
最後の力を振り絞り、地面にめり込みそうな己の体を引き剥して立ち上がる。

構えて斬り掛かった太刀は、笛男の大笒に呆気なく弾き飛ばされる。
それでも構え直し、後ろの火女に斬り掛かろうとした瞬間。

あの女が俺を振り向き、足元の男の胸に刺さっていた剣を引き抜きざま、俺に突き刺した。

胸の中に、剣が入る感覚をまざまざと味わう。

こうして人を斬って来た。
斬って来たのだから、最期にこうなるのは仕方ない。
斬れば勝ち、斬られれば負ける。

ただ、隊長。

隊長の護る王様を御守りしたいと
そして隊長の迂達赤を守りたいと
そう思っていた志が半ばで挫かれるのだけが、

何よりも、無念です。

俺は、そのまま地に倒れたのだろう。

もう何も聞こえない。

ただ、仰向けに見る空だけが大きく、高く、蒼い。

俺の為に、命を落とすかもしれん。すまんな。

王様。聖君に、お成り下さい。

─── 隊長、

 

 

 

 

多くは語れません。月曜の朝より、ちぇそんはむにだ・・・

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20 件のコメント

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    前編で(ノ_・、)中編で(TДT)後編ではどうなる事か‥
    避けては通れぬのですね
    チュソクの最期は壮絶でした、思わず目を伏せてしまいました
    笛男と火女に向かって行かなきゃ命だけは‥って思っりしたもんです
    でもチュソクはそんな男ではありませんよね
    さらんさんのお話を読んで今度は目を伏せず最期を覚悟した男の姿‥ちゃんと見なきゃ

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    最後の最後まであきらめず、前を向き続ける。
    倒れても尚その眼は大地を視ずに空を見る。
    チュソクの漢気を視ました。
    また覗きに来ます。

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    さらん嬢
    お仕事、多忙でらっしゃるのに…ヨンの声が聞こえてきて、言葉が溢れてくるのね!!きっと!
    でも無理しないようにしてね。
    カルホォーニァまで出張とは羨ましい(^-^)v
    どこまでも澄んだ青い空がさらんちゃんを迎えてくれますよ♪
    で…お土産はあのTシャツで決まりね!!
    新しいエビソード、朝から拝読するには切なく過ぎます。
    でも男の生きざまが鮮烈に描かれていて、秀逸。
    さすが…さらんちゃん♪

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    私もあまり書けません。ごめんなさい。でもチュソクの最後の声ちゃんと聴きました。ありがとうございました。
    さらんさん、無事に帰ってこれましたか?

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    前篇と続けて読みました。
    あのシーンを思い出し
    朝からダメ…泣きました…前篇ですでに涙ポロポロで中篇でボロボロ…>_<…
    後篇どうなる…私…
    出張、お気を付けて~

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    さらん様、おはようございます❤
    見るのも思い出すのもツライ、チュソク甲組の壮絶な最期。
    信義本編中、一番悲壮感が漂う場面でしたね。
    多分、本当に「蒼天」と同じ思いをチュソクは感じていたと思います。
    ひたすらヨンを信じて...。
    「必ず隊長がなんとかしてくれる」
    チュソクがヨンを信じれば信じるほど悲しいです。
    何も出来なかった訳じゃ無い。
    甲組の頑張りが無かったら、チョナとワンビは、間違いなく敵の手に堕ちていた。
    そうなってしまった時の、ヨンの苦しみをチュソクは命懸けで阻止したのですから。
    生きていて欲しかった。
    ヨンの為にも、信義を愛する私たちの為にも(ToT)/~~~

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    (ノ_・。)
    怒涛の週末を何とか乗り切り、出勤前の朝・・・
    厚く塗り塗り化けたはずが、危うくすべて落ちてしまう事態発生か(x_x;)
    と、思い途中でスマホを静かに閉じ、急かす心を押さえて、お昼休みまで必死の我慢。
    そして暫し落ち着いてから全て読ませていただきました。
    ドラマ本編の映像がフラッシュバック、そしてチュソクの台詞があったとしたら、きっとこうだったのかな。
    と思える文字の数々にやはり平静ではいられません。
    もしかして、後編は仲間を失った迂達赤みんなの心の声が聞けるのでしょうか(iДi)
    聞いてみたいけど、決して覗いてはいけない心の中。
    読めるかしら・・・(/TДT)/

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    あ~涙です。涙・涙・・・。
    チュソクは自分の無力さを嘆いていましたが、そんなことはありませんでしたよね。しっかり、大切な人たちの為に大きな仕事を成し遂げてくれたと思います。
    眩しいくらい青い空。それと同じくらい、チュソクの生きざまは潔かった。熱い男でした。何も憂うことなんてありません。
    彼の心意気はきっと、ヨンや仲間たちに刻みこまれる事でしょう。彼の心は王への希望と、ヨンの言葉を胸に解き放たれたのですね。

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    > ちよさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    書かない訳にもいかず、書けば切なく。
    久々に、甘い雰囲気一掃の迂達赤でした。
    切ないです・・・

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    >えみりんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    確かに、そうかもしれません。
    傷を負って倒れてれば、そのままで命は助かったのかも。
    でも、それはチュソカには無理ですね・・・
    正面突破は、ヨン譲りだったのかも。
    私もあの場面は、未だに早送りなので
    今回じっくり見て、辛かったです。

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    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    チュソクの最後に見た空の色、
    それはそれは、きれいだったはず。
    今、私も異国の空の下、
    なぜかヨンでもタンでもなく
    チュソカを想いながら・・・
    初日がチュソカか・・・いえ、大好きですが・・・

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    >まあもさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    はい(`・ω・´)到着して、外で空を見て
    最初に思ったのはヨンでもタンでもなく
    チュソカの事でした。
    私のLA チュソカで幕開け・・・好きだから
    赦しますがw
    LAXでウンサンを、カープールでラヘルを思い出し
    でもいきなり話し始めたのはヨンでした。
    煩いので、仕事用PCのNotepadに片っ端から書いて
    USBに落としています。あーあ。
    あのTシャツですよね(笑)I❤California
    即、探さねば(えw
    月曜からどよーんで申し訳なかったです。
    今週末は、明るくする所存です・・・
    今日明日はもう(ノ_-。)

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    PASS:
    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ありがとうございます。
    声が届けば・・・チュソカも満足かと。良かった。
    帰るどころか、到着して早速ポチって
    迎えの友人に笑われてます。良いんだもん!

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    PASS:
    >ユッチさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ああ、どうしよう・・・
    後半、今回は残された男たち、そして次回最終話は
    真打、ヨンの登場です。
    ドラマのあの場面なので、予想はつくと思われますが・・・
    むしろ、今回のほうが書いててキツかったです。
    どうなる・・・ユッチさま・・・
    ありがとうございます❤楽しんでいます(〃∇〃)

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    PASS:
    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    今回は、キッツい回でした。
    避けるわけにもいかず、曼珠沙華でチャン侍医や
    ムン・チフ隊長と再会を果たしたヨンが、
    チュソク、トルベと会う前に、区切りと思い
    書きましたが辛すぎて、トルベはもう、どうしよう・・・と。
    はぁ、です・°・(ノД`)・°・

  • SECRET: 0
    PASS:
    >mamachanさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    今日は遺された男たち、そして次回は
    真打、ヨンの登場です。
    辛すぎて、早く終わってほしいかも・・・
    今回の出張前に今週分の話を練って来たので
    時間があればUPしたいですが
    その時差が問題だ、と今初めて気付きました。
    予約後悔とか、勉強捨て置けば良かったです
    。゚(T^T)゚。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ありがとうございます。
    読んで頂ければ、嬉しいです。
    キツすぎて、早く終わってほしいというのが本音かもですが・・・
    異国の空を見て、最初に思い出したのが
    ヨンでもタンでもなくチュソカだったという
    若干のオチまで。全く困らせる男です。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    チュソカは、きっと分かっていると思います。
    思いたいです。
    だってここでも、異国の空を見て、チュソカを
    思い出してる私がいるんです。
    今、ヨンよりタンより私の心を占めるチュソカ。
    男冥利に尽きると、この際思って頂かねば。

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