或日、迂達赤 | 白面郎・前篇

 

 

【 白面郎 】

 

 

赤月隊から新しい隊長が来ると初めて聞いた時、俺は驚いて言葉を失くした。

ただでさえ迂達赤には手厳しい人が多い。
眉間に皺を寄せている副隊長には手縛で組むたび、いつも地面に転がされる。
甲組組頭のチュソクはいつも無口で、俺が何かおちゃらけを言おうものなら黙って無視して、その場を去っていく。
トルベに至っては大槍で何度突き回されたか、数えたくもない。

それでも俺は迂達赤にいたかった。
怖い先輩たちでも、仲間として尊敬していた。
皆より遅く入隊した分、武技を磨く為に覚えることが山ほどあった。

そんなところに賜死した先任の隊長に替わって新しい隊長が赤月隊から来ると聞き、俺は心底憂鬱になった。

だって、赤月隊だろう。
隊員全てが内功使いで、おまけに今回来る隊長は手から雷を放つとまで聞いたら、怖くないなんて嘘は言えない。
触らぬ神に祟りなしだ。放って置くに限る。
できれば前の隊長のように、一度も鍛錬に参加せずいなくなってほしい。

そして新しい隊長が来ると聞いていたその日。
俺やトルベは、副隊長と共に兵舎にいた。

新しい隊長の赴任に不満たらたらのトルベが
「蹴りでも入れてやる」
と足を振り上げた瞬間、その背後からトルベの足を取り、部屋に入って来た若い男。

俺といくつも違わないように見える。
少なくとも、他の迂達赤よりずっと若い。
二十を少し超えただけという話は本当らしい。
それなのにトルベを突き飛ばし、副隊長の肩を抱いて何やら囁き、やりたい放題だ。

 

そしてその騒ぎの後、部屋の長椅子に寝転がって三日間。
今もあの新しい隊長は、寝続けている。
「寝てる間に、死んだとか・・・」
俺が恐々言うと、トルベが副隊長に
「手を当てて、息は確認しました」
と伝える。
副隊長は俺達の言葉を聞きながら寝こける隊長に一瞥をくれると、呆れたように溜息を吐きそのまま部屋を出ていった。

どうするんだよ、こんな調子で。
副隊長の背中を俺が眼で追いかけるうちに、隊長に近寄ろうとするトルベの腕を掴み
「トルベ、あの話本当かな」
寝ているこの人を起こさないよう、小声で恐る恐るトルベに尋ねる。

「話って、何の」
「剣一振りで何人も倒す、壁を飛び越える、手から雷を出す話だよ」
そんな俺にトルベが呆れたように
「作り話に決まってるだろう。起こせ。新隊長だか赤月隊だか、知ったことか」
怒りに任せて、怖い事を言う。
日向で埃を立てるようなことを何故言うんだ。

「やめろよ、そっとしておけよ。お前まで半殺しにされるぞ」
焦って止めるがトルベは止まらず、隊長に近づいていく。

その時隊長は眠ったまま枕元の木刀を大儀そうにあげ、トルベに向かって放り投げた。

だから言ったことじゃない。
木刀の台尻がぶつかって、額から血を流すトルベを見る。
寝ているはずなのにこんな事ができるなんてあの噂はやはり本当だったんだと、俺は苦笑いを噛み殺した。

 

******

 

俺は剣でも弓でも槍でも、そつなく熟す。
器用貧乏というやつだ。
取り立て上手はないが、目を覆う程の下手もない。

チュソクやトルベ、副隊長にしても剣や大槍、手縛で迂達赤随一の使い手なのは勿論の事、他の武術もこなす。
その中でも特別な得手がある。俺はまだ、その得手を探している。

だから起きて来たあの隊長が俺達の実力を見るからと
「一番得手な武器を選べ」
と言われた時には、困ってしまった。

俺の得手は何だろう。

それでも手足の長さを生かしまともに振れる剣にしてみたが、あの隊長には手も足も出ず退けられた。

俺の得手は何だろう。何が一番得意だろう。
どうしたら皆の足を引張らず戦えるだろう。

考えながら、俺はあの時隊長が命じた剣の素振りをこなしていた。

一日百回。終わると肩も腕も上がらなくなる。
それでも続けるうちに肩や腕は楽になってきたが、今度は腕貫の紐がきつくなってくる。

腕が太くなってきたようだ。このまま続ければ、得手が見つかるんだろうか。
そう思いながら、俺は朝夕ただただ素振りを続ける。

 

 

 

 

皆様をお騒がせしました。
ここに落ち着いてみました。
それでも長すぎ、前後編で。

幻のお話は、少し形を変えて
いずれまた日の目を見せたいと思います❤

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10 件のコメント

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    トクマン器用貧乏・・・私が絵の勉強で専門学校の先生に同じ事を言われた事を思い出しました。器用貧乏どころか絵の仕事で来てませんがな!と自分に突っ込んで見ました。☆-( ^-゚)v
    前後篇なんですね♡嬉しいです!
    幻は見れなかったけど此方のお話はトクマン君出ずっぱりでとても嬉しいです♪
    また、お邪魔しま~す(≡^∇^≡)

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    >ののさん
    こちらにもコメありがとうございます❤
    絵のお勉強、学校でされていたのですね!
    凄いです(*v.v)。素敵です!!
    そうなのです。本当は迂達赤、一話のみで
    終結、を目指したのですが、
    ヨンもトクマニもなぜか語りが収まらず。
    あまりに長っ!となり、分けました。
    昨日は思わぬ幻話で、祭り中日にがっくりでしたので
    今日は狂乱の祭り最終日に致します
    (`・ω・´)キリッ
    幻話も、近々必ず❤

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    あぁ、なんだかとってもトクマニって感じです!
    槍を持っていましたが得意って様子でもなさそうだったしここで悩んでいる感じが可愛いですね
    トクマンはどこで隊長に堕ちるのか?
    楽しみです♪
    (もう既にとか?)

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    >あみいさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    ああ、よかったです。
    トクマニ、7年後の時は剣を持ってるし
    何だか、いろんな武器を使ってるイメージで。
    今は半オチです。後篇で、どうなるか。
    狂乱の秋祭り最終日を目指しますヾ(@°▽°@)ノ

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    得意は剣かと思っていましたが、最後槍になっていましたものね。
    器用貧乏には、得手を見つけるのは難しいかもね。
    。。。と言うか、それ自体トクマンらしい(・∀・)
    ちょっぴり気が弱くて、良い家のお坊ちゃまと言う雰囲気が溢れ、ホンワカいいキャラですよね。
    どんな風に描かれるのか?
    可愛い弄られキャラを宜しく(b^-゜)

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    >mayuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    確かに、トクマニの弟キャラは、テマンとの
    TOP2ですね❤
    弄られつつ、可愛がられつつ。
    しかし、本人かかなり焦っているようで。
    本日この後後篇です❤

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    さらん様、こんにちは❤︎
    ようやく見れますね、トクマニくん(^.^)
    一見頼りなさそうだけど、ヨンは信頼していたはずです。
    ウンスの護衛を任せる事も多かったので。
    トルベ トクマニ テマナ ヨンが何度も呼んだ名前ですものね。
    ヨンが、振り向かず歩みも止めず、時には走りながら、彼らに指示を与えるシーンが大好きです❤︎
    迷いも無く、言い淀みもせず、あの声を発する、私にとっての、あの方が死ぬほど好きです❤︎
    ヨンにどんなに殴られても睨まれても、トクマニは、ウンスの事が大好きで、側に行きたがりましたね。
    可愛くて可笑しくて、ずっと見ていたい❤︎

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    かなり出遅れてしまいました
    幻のお話を逃してしまい
    とっても残念です
    できましたらまたUPを…
    読んでみたいです♪

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    目に浮かびますね、あの回廊で、中庭で
    兵舎で。
    あれを見ながら、ああやっぱりチュソクは
    組頭だから、もう護衛レベルではないのだね?
    と思ったものです。
    今回は、公開した話が全て迂達赤着任で
    もうげっぷが出そうです。
    今後も、メイン話の方の可愛いトクマニは
    いっぱい出てきます(出生の秘密が解決したので)
    甘い夜も書いていたのに、気づけば日付が変わり、祭りは終了し・・・
    祭りの後の物哀しさ。
    でも楽しかったです❤一人で勝手にw
    明日からまた平常更新に戻ります。
    お付き合い頂き、本当にありがとうございました。

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    >chocoさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    今回幻としてUPしてみました❤
    如何でしょうか?
    楽しんで頂ければ嬉しいです。
    これからもメインのトクマニは、もちろん
    迂達赤レギュラーで出てきます。
    可愛いトクマニをどうぞよろしく(〃∇〃)

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