仙果【前篇】 | 2015 summer request・桃

 

 

【 仙果 】

 

 

「見事に成りましたね」
あなたが木の下で、ピンク色の丸い実を見ながら言う。
「桃だと実がなるまで3年って言うけど、丁度いい若木だったのかもねー」
「ええ」
「でも鳥や虫に食われちゃったのもあるから。来年からは、紙で包んでおくといいかも」
「時間があれば、共に」

私は頷きながら、桃の木の枝に下がるピンクの実を眺めた。
「人間がおいしいって食べるんだもの、そりゃ鳥も虫も食べたいわよねぇ」
「ええ」

あなたはそう言って手近なところに下がる実を1つもいで、鼻先に持っていって香りをかいだ。
「元では昔から、桃に纏わる伝説が多い」
「そうなの?」
「不老不死とか、斉天大聖が盗み食いをしたとか」
「なるほどねえ」

頷きながら、あなたは握っていた桃を渡してくれる。
「伝説になるほど貴重という事でしょう」
「確かにね。先の世界でも、果物としては高価だもの」

渡された手の中の桃を転がして、甘い香りをかいだその時。
感じた変な違和感にじっと自分の手を見る。
「如何しました」
私が黙ったのを見てあなたが聞いた。
「・・・かゆい」
「は」

え、もしかしてこれ。
「ヨンア、ちょっと手、手を見せて」
桃の実を地面のかごに入れて言うと、あなたが首を傾げながら差し出した大きな手。
表も裏もひっくり返して、異常がないのを目視で確認する。
「痒かったり、痛かったりしない?」
「全く」

不思議そうに言った後で自分の手を握る私の手を見て、驚きにその目が丸くなった。
黙って手を握り返され、駆けるように井戸へと連れていかれる。
「座って」

釣瓶で汲み上げた水が、その場にしゃがんだ私の赤く腫れ上がった手に向かって遠慮なく掛けられる。
真夏で暑くて良かった。秋に冷たい井戸水をざぶざぶかけられたら凍えちゃうわ。
「これは」
「うーん。最悪、桃アレルギーだったりして」
「あれるぎー」
「うん。決まった食べ物や飲み物を、体が拒否するの。厄介なのは大人になってからも突然罹る事がある病なの。
だけどこの前、杏を食べた時には何でもなかったしなあ」

桃と杏の違いって言ったら、やっぱり表面の毛よね。毛に反応したのかしら。
医者にアレルギーがあるなんて、しかも生薬アレルギーなんて、この時代に最悪じゃない。

しばらく水をかけてもらって、ようやく痒みが落ち着いた。
私は息を吐いて水浸しになった地面から腰をあげる。
「収まりましたか」
「うん、もう平気だと思う。だけどアレルギーだったら困るなあ」

先の世界にいた時は普通に食べてた。
痒くなったこともないし、今までアレルギーテストが陽性だったこともないのに。
何だろう、種類が違うの?でも桃は何種類もなんてないはずよ。
桃の木の根元に置きっぱなしのカゴを取りに戻りながら首を傾げ、赤みも痒みも引いた手のひらを眺めると
「まだ痒いですか」
あなたが心配そうに私の手元を覗き込む。

「ううん、でも今までなった事がないから」
手をプラプラさせながら答えて、桃の木を見上げる。
うーん。毛が問題なら、皮だけ誰かに剥いてもらうとか?
「イムジャ」

あなたがもう1つ、木からよく熟れた桃をもいで、指先でそのまま皮をきれいにつるんと剥いた。
そのまま剥いた丸い実を持って井戸に戻って、釣瓶の水で洗うと急いで戻って来て、その丸い実を私の口元にと運ぶ。
「ほんの少しだけ、齧ってみますか」
「え?」
「毛が駄目なだけなら、剥いて洗えば問題ない」
「うん」

確かに。杏でアレルギーは出なかったのに、同種の桃で出るのか。
でも桃だと、ひどい場合はアナフィラキシーが起きるのよね。
まず粘膜である唇をつけてみる。刺激も痛みも、違和感も無い。
これで10分程度、何もなければ食べてみるしかない。

あなたは桃に唇を付けたまま黙った私を、じっと見ている。
おかしな女だって思われても仕方ないけど、エピペンもないこの世界でアナフィラキシーを起こすよりはマシよ。
桃から唇を離して、
「今のところは大丈夫。少し待って平気なら食べてみる」

じっと持って待ってるわけにもいかずに、握った指先からぽとぽと果汁が落ちる桃に齧りつき、あなたは頷いた。

 

 

 

 

もう一度、桃です。私の地方では、今がとてもおいしいです。(wayoさま)

 

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ

3 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    うちのムスメ婿さんも果物アレルギー。特に桃、林檎、パイナップルは咽頭が腫れて呼吸困難に!
    私もうちヨンもフルーツ大好き!もちろん娘も。食すのも憚れます。

  • SECRET: 0
    PASS:
    リクエストに答えていただきありがとうございます。
    暑い夏、冷たい桃はおいしいですね。私の地方は白桃で、私は桃の袋かけのバイトに行っています。
    ウンスは桃のアレルギーの疑いがあるのでしょうか?おいしい桃が食べられないとしたら、とても残念でしょう。
    このお話、これからどのように進むのか楽しみにしています。

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん、美味しそうな桃の香りが漂ってきそうなお話を、ありがとうございます。
    桃アレルギーというのも、あるのですね?
    たしかに、桃もきゅうりも新鮮なほどに、チクチクしますからね。
    私は、メロンを食べてのどが詰まりかけたことが、何度かあります(´Д` )。
    ところで。
    さらんさんのお話は、あいも変わらず、背景や状況が緻密な下調べに基づいてて、「いったい、いつ調べて、いつ書いてるんだろう?」と驚きます。
    筆の速さもさることながら、キーワード一つでさらんさんの頭の中には、たくさんのプロットが続々と生まれていくのでしょうね。ε-(´∀`; )

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です