2014-15 リクエスト | 櫻祭・1

 

 

【 櫻祭 】

 

 

仰いだ頭上の天には、ぼんやりと柔らかく霞がかかっている。
そこから射す春の温かい陽が、赤い緋毛氈の上に降りそそぐ。
風は微かな花の香りを抱きながら、静かに頬を撫でて過ぎる。

だいたいが、こうした賑やかしい場所には縁がない。
武人が出る幕でもなく、好みもせん。

目の前に繰り広げられるさわさわとした衣擦れの音。
胸が焼けるような女人たちの甘やかな化粧の香りに胸の前で腕を組み、唇を結ぶ。

「あなたも苦手か」

足音を立てず横にいつの間にか寄っていた影。
顎は上げたまま、視線のみを下げる。

このちび、またか。
「お前にはもう驚かん」
「知っている。驚いてほしい訳でもない」

ちびは俺を見もせず目の前の緋毛氈の向こう、遠巻きに此方へ目を遣る女人の波を見たまま、腰に手を当て首を傾げた。

あの方の紅い髪と反対の、黒く長い髪。
黙っていれば普通の女人に見えるものを、口を開いた途端殴ってやりたいような毒しか吐かん。

「一々生意気だな、相も変わらず」
「諦めてほしい」
「疾うにそうしておる」
「一々煩い人だ、そっちこそ」

苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨む隊長の眼差しに言ったところで、この襟首が後ろから掴まれた。

そのまま次の瞬間に、隊長と共に壁に凭れて立っていた東屋の影に音もなく引き摺りこまれた。

擦れる甲高い金属音。その音と共にこの咽喉元にテマンの冷たい手刀が、ぴたりと当てられる。

「・・・飛び道具は なし」

それ以上喋れば途端に咽喉を掻き斬られそうで、顎を上げたまま、目だけでテマンを見て笑ってみる。

「お前」
「初めまして。敵ではない」
「お前がまさか」
「頭のいい子だ」
「子ども扱いは止めろ!」

その時東屋の影へ踏み込んできたあの背の高い影が、熱り立つテマンへ低く声を掛ける。
「収めろ、テマナ」
「隊長」
呼ばれたあの男は、太く息を吐く。
「許されるなら俺がとうにやってる」
「はい」
本当に渋々と言った顔で、最後にこちらを鋭くひと睨みすると、テマンが手刀を袖内へ収める。

「隊長に何かすれば、殺す」
「どうやって」
「調子に乗るな」
「乗ってない。純粋な疑問」

糠に釘の反応に本気で腹を立てたように、テマンがチェ・ヨンを見上げて、頭をがりがり掻いた。
逆立った黒く硬そうな髪が、指の間から四方八方へと好き勝手に乱れて飛び出る。

「隊長」
「分かる」
チェ・ヨンが諦め顔で深く頷く。
「俺、こいつ大嫌いです」
「あ、傷ついた」
「うるさい!黙れ!」
「あなたの事、弟みたいで好きなのに」
「好かれてたまるか!」

テマンが目の前で、烈しく頭を振る。
「絶対に認めない」
そう言って東屋の影から飛び出すテマンの後姿を見て、隊長であるこの男は踵を返し無言で東屋の影を出る。
「テマンの言う通りだ」
この足音が背中を追うのを無視するように、振り返りもせず。
真直ぐ前を向いたまま、その大きな背中越しに声がする。

「調子に乗るな、さらん」
「いや、今回はそう言うわけにも」
その反論に、初めてその目が肩越しにこちらを見遣る。
「どういう意味だ」
「一人じゃない」
「何だと?」

東屋の影から緋毛氈の敷かれた広い皇庭へと出て、緋毛氈の向こうの女人たちを指すと隊長に教える。
「あの中に、一緒に来た人がいる」
「俺を慰み者にする気か」
「そんな気は更々ない。あなたは大事な兄のような」
「聞きたくもない」

吐き捨てるように呟くと、隊長は首を振る。私は構わず声を続ける。
「ひまわり殿という方」
「知っているだろうな」

こちらを斬り捨てそうな冷たい眸で睨んだ後、隊長は対面に居並ぶ女人の列へと目を移す。
「今日はあの方も、此処に居られる」
「それは知っている。だってこれは」
「そう言う話は良い」

首を振るとこちらへ向き直り、隊長は尋ねた。
「俺はこれから、何をやらされる」
「その方と踊ってもらう」
「気は確かか」
「ええ」
「慰み者どころか、猿回しの猿だ」
「いつもは虎だ、たまには猿に」

そう言ったこの胸座が、素早く伸びた手で掴み上げられた。
「女人への暴力反対」
「女人に暴力などは振るわん」
「いやいや、これ立派な暴力」
「猿が猿回しを噛むのは、暴力ではない」

そう言って、隊長は片頬で嗤う。
「猿なのだろう、今日の俺は」
「言葉の綾ですすいませんもう言わない」
目を逸らして明後日の方を向き、口の中で言い訳してみる。
「遅い」

そう言いながら、ようやく胸座の手が離れた。
「とにかく、あの方がいる限り無理だ」
「それは大丈夫」
太鼓判を押すこの声に、隊長の睨みが飛ぶ。
「何故」
「チャン先生に共に居てもらう」
「それの何処がどう大丈夫か、説明してみろ」
「・・・えーと」
「もう良い」

隊長は凭れていた東屋の壁を離れ、皇庭を大股で歩き始めた。

 

 

 

 

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新リク話【 櫻祭 】 始まりました。

234. 無題
クリスマスパーティのダンスの一角に大勢の女人の列
その中にさらん様(勝手に御免なさい)
私ひまわりヨンとのダンスの順番待ちをしている
ウンスそれお見て嫉妬の嵐でお酒お飲み…
それぞれの思いのクリスマスの夜さらん様駄目でしょうか……
夢?

(ひまわりさま)

なかなか難しいお話です・・・
短い感じですが、お楽しみ頂けると嬉しいです。

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12 件のコメント

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    再登場!
    このシリーズ(?)面白いです(≡^∇^≡)
    最近読み逃げばかりでコメントも残さずに…
    でも、ゆっくりだけど読んでますよ~!
    何時も楽しい!カッコイイ!読みごたえのあるお話有難う御座います♡
    また伺います~!

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    さらんさん、連日の更新、ありがとうございます❤︎
    ちらほら櫻も咲き始めた季節、ちょっぴりコミカルな雰囲気でスタートした新シリーズ。
    寡黙でお堅いヨンの周りで、いったいどんなケミカルリアクションが起こるのでしょうか(≧∇≦)
    しかも、ヨンが踊る? 踊るのですか?
    ∑(゚Д゚)
    でも、武人ではありますが、ひととおりの学問や遊びは身に付いていると思われ…(^。^)
    家政婦は見た状態で、成り行きを楽しませて頂きますね。
    さらんさん、長い黒髪なんですね。
    猫毛で細毛の私、さらんさんが羨ましいです♪( ´θ`)ノ

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    (顎は上げたまま、視線のみを下げる。
    ・・・・・・このちび、またか。)
    もう、これだけでこのお笑い・・・・いえ、お話にひきこまれましたぁ~
    さらんや お手柔らかに頼みますぞ(笑)

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    おはようございますさらん様
    さらんさんヨンと再会の言の葉のキャチボール楽しくニンマリです(o^^o)
    先週ドライブで満開の紅梅の樹を見つけました
    今週は桜が咲き始めました
    高麗のお花見王様王妃様コンニム ウダルチそして大虎のウンスさん?
    阿波踊り 佐渡おけさカッポレ(知らんわー)ヨンとなら何でも踊るわ付き合ってくれますでしょう さらんさん?
    最後は猿と大虎のチーィクダンス?
    「櫻祭」始まりですね。

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    さらん 様
    こんにちは。
    ( ̄ー☆
    これぞパラレル
    リク話ならではの楽しさ満載ではありませんか。
    ひまわり様の夢が叶うまで、ご一緒に楽しませてくださいね。
    チャン先生ご出演・・・
    いいなぁ
    私も指を咥えてPCの向こうから眺めさせて頂きますヨン
    (〃∇〃)

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    >くるくるしなもんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    いやあ、このリク話ではいくつか産みの苦しみを味わいましたが
    今回もそれに当たります・・・
    かなり七転八倒でした(゜д゜;)
    お楽しみ頂けたら嬉しいです❤

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    >ののさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    ののさま、お久しぶりですヾ(@°▽°@)ノ
    いやあ、産みの苦しみの最中に嬉しいコメを頂き、
    モニター前で感涙に噎んだ私です。゚(T^T)゚。
    私こそ、なかなか伺えずに申し訳ありません・・・
    ぜひ近々❤❤❤

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    >muuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    家政婦は見た!| 壁 |д・)
    そんな感じで、お楽しみ頂けると嬉しいです❤
    結局頑として、踊りませんでした。
    待ってたのですが、脳内ヨン、全く動く気配すら見せてくれず・・・っっ!

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    >victoryさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    いや、私160cmはあるのですよ。
    でもあの迂達赤軍団に囲まれたら、下手すれば
    チャン先生(イ・フィリップ氏:188cm)と30cm近い身長差。
    うちの職場の187cmの男性に「ちびっこ」扱いされ
    やっぱりこの身長差だとそう思うのだなあ、と。
    そんなイジケ具合が出ているやもですww

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    >ひまわりさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    ああ、ひまわりさまには先に御詫びをせねばなりません・・・
    やはり我が家のヨン、踊る事なく・・・!
    本当に申し訳ありませんでした・°・(ノД`)・°・
    少しでもご満足頂けるお話に仕上がっている事を祈ります・・・

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    >mamachanさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    此度の産みの苦しみは、ちょっと想像を絶していたので
    正直何処へ落ち着くか、全く分からない状況でした・・・
    少しでも楽しんで頂けると嬉しいです(;^_^A

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