2014 Xmas | 首爾2012・1

 

 

【 首爾2012 】

 

 

分かってるの、無理ってことは。
コーヒーなんかと比べ物にならないくらい大切な人がいるから、ここに帰ってきたって。

でもそれでも。
現代人はみんな、多かれ少なかれ、何かの中毒だといわれるけど。

考え始めると、止まらない。コーヒーが飲みたい。
何かの発作みたいに襲ってくる衝動に、私は思わず溜め息をついた。

抱き締めた腕の中の溜息に 驚き、
薄明かりの中の淡い影を浮かべたその顔をまじまじと見る。
どうした、そう眸で問う腕の中。
いやいやと首を振り、 この方が身を縮める。

何だ。
「どうしました」
此度は声を掛けてみる。

「飲みたい」
やっと小さく訴える甘えたその声。
何をだ。
胸に伏せられた顔に手をやって小さな顎を壊さぬよう掴み、瞳を覗き込む。

「・・・コーヒーが飲みたい」
「こおひい、ですか」
「あなたと一緒に、コーヒーが飲みたくなった」
「飲み物の名ですか」
「うん」
「天界の飲み物ですか」
「そう。高麗では手に入らないと思う。
南米とか、アフリカとかが産地だしね。
元なら少しは取れそうだけど、今の時代は原木があるか・・・」

何のことか、さっぱり判らぬ。

「でも駄目、考えない」
そう言ってこの腕の中、体をずらし、
その額を俺の額へそっとつけ、目の前の瞳が眸を覗き込む。

「ここに一番、大切なものがある。
コーヒーなんかと代えられない」

今夜のこの方は、何処かおかしい。

呟いた後、長い睫毛を伏せたこの方が
静かに寝息を立て始めるまで、
俺は額を寄せたまま、その顔をただ見詰めていた。

 

見詰めていた、はずだった。
そしてその安らかな寝顔に、
深くなった甘い寝息にようやく安心し、
俺も少し眠ろうと目を閉じた。

鬼剣は確かに枕元、手の届くところにあった。
この方を我が身の傍に置き、護りを忘れる程
惚けたことをするわけがない。

ならば。
俺が今居るここは、一体どこだ。

眼下に見渡す限り立ち並ぶ、雲を突く程に高く長い箱。
その隙間を縫うよう走る、何本もの濃い灰色の線。
灰色の線の中を飛ぶように動く、幾つもの点の列。
今まで見たこともない、ただ白っぽく狭い空。
辺りにざわめく、見たこともない格好の者共。

そして俺の横、たった一つだけいつも見てきた、
目を閉じても覚えている、愛しいその姿。

「い、むじゃ」
「・・・・・・分かってる、言わないで」
「言わないで、とは」
「口にしないでってこと」
「いや、そう言われても」

呆然とした声に、この手を掴むとこの方は駆け出し、
あの白い仏像の裏へと、俺を引き摺りこんだ。

「落ち着こう、落ち着こうね」
「イムジャが落ち着け」
「・・・・・・うん、そうよ、そうよね。 そうなのよ。
私がまず落ち着く、そうよね」

 

何故なの。握ってるこの人の手の中で、
自分の手が 汗でぐっしょり濡れて、ぶるぶる震えてる。

どんな大きな手術をしたって、
今までにこんなに手に汗をかいたことないかも。

何故私たちが、ここにいるの。
ビルの電光掲示板に表示されてるのは
MERRY CHRISTMAS & A HAPPY NEW YEAR
GANGNAM 2012 - 2013

一体どういうことなの!!

江南を歩けば、すれ違う人が全員、
私たちを何度も振り返りながら見る。
そう、私たちのこの着物よね、まず問題は。
これじゃ、目立って仕方ない。

どうすれば良い?私、財布なんて持ってないわよ。
困った時は、どうすればいいの。
困った時、困った時は、この時代ならどこに行くの。

 

「ユ先生?!」
ああ、そうよね、やっぱり驚かれるわよね。
キム 看護師長のその声に、私は俯く。
「良かった、戻られたんですか!!その恰好は」
「う、うん、あのね、か、仮装。そう、仮装。
実は、お金を借りたくて」
「お金?」
「うん、実は、お財布、お、おとし、ちゃって」

我ながら、何て嘘っぽいの。
そう思いながら、私は元の職場の病院に駆け込んだ
そんな自分に、もう後悔し始めてていた。
「あらあ、土曜にお財布落としたら、大変だったでしょう。
ユ先生の未払い分のお給料を、預かってますよ。
サインを頂けなかったから、振り込めなくて。
ちょっと待って下さいね」

今日は土曜なの。それも知らなかった。
そんな風に考えてる間に看護師長は事務室に駆けて行って、
すぐに封筒を持って、駆け戻って来てくれた。

「良かった、年始からは出勤できますか?
今は3か月の有給休暇の扱いになってます。
クリスマスが終わったから、かき入れ時ですよ。
クリスマスプレゼント整形が、たくさん予約入ってます」

え、それだけ?
そんな都合良く、お金をくれちゃうの?
3か月。うちの病院、そんなに有給あったの?

「う、うん・・・もしかしたら」
「分かりました。予約の調整しておきますね」
ゴメンね、きっと無理だと思うの。
でもこの先、どうなるか分からない。
もし高麗に戻れなかったら、 まずはここに来ることもあるかも。
そう考えて、 ハッキリしたことは言わずにおく。

「じゃあ、帰らないと。本当にありがとう」
「待って下さい!!」
長居は禁物。背を向けて駆けだそうとした時、
その看護師長の声で、私はびくっと足を止めた。

「金額の確認と、サインをお願いします」
看護師長はにっこり笑って、私に台帳とペンを差し出した。

 

 

 

新キリ番話、始まりました❤
34. 無題
天界でーと
夢の中でも構わない
昼間のソウルも見てみる?
ヨンの反応みたし! (くるくるしなもんさま) 

ソンジンのあの恐怖の尻切れ蜻蛉話の後は
お口直しに、ヨンの天界デートです❤
年末総まとめ第一弾、
お楽しみ頂けると嬉しいです。

 

 

 

19 件のコメント

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    おー!
    イイですね!
    ウンスちゃんの職場。ユ看護師ナイス!
    軍資金はゲットできたし
    チェヨンくんと二人。
    まずは、お召し替えから?
    たのしそう!(^^)

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    眠ったはずが、天界ですと(・o・)
    あの初めて天界に降り立ったヨンの顔が(*'▽')
    お金をGETし、まずは服ね(^^)v
    何でも似合うヨンに何を着せる(≧▽≦)
    楽しすぎるわ( *´艸`)
    リクしてくれたくるくるしなもんさん、書いてくれたさらんさん、ありがとう(@^^)/~~~

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    こんにちは!さらんさま。
    すごく面白そうなお話ですね(*⌒▽⌒*)
    夢の中でしょうか?
    ウンス、ヨンに教えてあげてね
    まっすぐ行く→正面突破でないことを
    なんだかワクワクしてきました(*'▽'*)
    このテンションを保ち大掃除を‥(´ヘ`;)

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    このようなありえない感じのお話がいかにもリクエストって感じで楽しそうですね。(他のリクエストを悪く言うつもりではありません)
    ウンスはどんな洋服にするのかな、ヨンにどんな服を着せるのかな?もうとてもわくわくします!
    ここで楽しいお話を持ってきてくださったさらんさんに感謝します。

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    イムジャカップルの背景は高麗が当たり前の私の脳内妄想に なんだか とても新鮮です。
    いつもと違うワクワク感がいいですね(*^o^*)
    二次ならではなのでしょうが、皆様のリクに次々とお応えされてる さらん様は 直木賞作家もビックリ 超有名作家様ではないのかと思ってしまいます。
    ノーベル文学賞二次部門があれば間違いなくノミネートです(≧∇≦)

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    滞在場所はウンスのマンションかな?
    でもカギが無いですよね。
    管理人さんに空けてもらう?
    それとも,病院に私物の荷物があるのかな。
    ウンスは攫われた事になっているのか,パラレルでただの休暇扱いになっているのか・・・
    設定が気になりました~^^
    あっ,でも看護士長がそんなに驚いてないから,攫われた事にはなってないのかしら。
    ヨンが現代の衣装を着ると,カッコ良くて皆振り返りそう(〃∇〃)
    続き楽しみにしています♪

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    意外な展開。
    私もウンスもびっくりです。\(◎o◎)/!
    天界デート楽しみです。
    まずはウンス念願のコーヒーをヨンと飲むことから始めるのかしら。

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    さらんさんこんばんは♪
    早速新しいお話、凄いです。
    どんな頭の構造してるのかしら?
    次から次へお題目だけで書き進められる
    才能と努力に感謝します<(_ _*)>
    夢の中より天界見聞録?
    ヨンとウンスはどのような行動に
    でるのか(*^^*)
    とても楽しみです( 〃▽〃)

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    はい、始まりました❤
    今年最後の、お話になるやもです。
    微妙な処なので、ちょこちょこと微調整を考えつつ。
    年明けよりの計画、いろいろと考えるつつ(*v.v)。
    楽しんで頂けたら嬉しいです❤

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ふふふ、こんなにうまくいくこと自体が
    もうご都合主義だと、気付いて頂きたいですね、ウンスにはw
    しかしその中でも、今回は楽しんで頂けるよう
    この後に小技、ちょこちょこと( ´艸`)
    正直、Gyaoで花男の再放送が始まったので
    入れたシーンも、ございます。
    あああ、楽しみ。書いたからこその愉しみです(*v.v)。

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    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    まさに!直進≠正面突破(爆
    大掃除、お疲れさまです。
    私も明日は買い物とお掃除。まじだ!
    月曜出勤なのに・・・(;´▽`A“でございます。

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    うふふふー、そうなのです。
    此度のリク特集、自身の脳味噌では、どう絞っても
    絶対に出て来ないお話を、こうしてリク頂けて
    嬉しいやら、楽しいやらです、どのお話も❤
    基本このリク話は全てパラレルなので、この場で
    うーーンとお楽しみ頂ければ・・・❤

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    >ぐりっちさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    確かに二次、そしてパラレルで、この場限りでたくさんお楽しみ頂きたいので
    もう、短篇ぽこぽこな生まれ方をしております❤
    実際この後の私の本筋に絡められるお話はないので、
    (でないと、ソンジンやチュンソクのW話が
    とんでもない結果になってしまう・・・)
    それだけが、少し残念ですが・・・
    でもでも、思い入れは普段と全く変わりませぬ❤
    お楽しみ頂ければ嬉しいです(*v.v)。

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    >すんすんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    おお、滞在場所!
    そうか、そう言う事は全く考えず(え
    ホテルにでも泊まれば、高層階からの夜景を
    ヨンも楽しめたのに・・・!!
    ウンスのマンションも大切ですね。
    買ったばかりの部屋、ローンはどうしたのかな。
    呑気なウンスオンニに、心配は募るばかり(^o^;)

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    「国境の長いトンネル」を抜けるのは名作ですが
    「眠って目が覚めると」は迷作として、許して頂ければ(゚ー゚;
    そして鏡を見てビビるヨンは、実家の愛猫を
    じんわり思い出したり・・・
    猫?猫レベル?いえいえ、猫ほど可愛いと(=^・^=)

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    >愛知のひとみさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今回はパラレルということで、後半は
    韓流お好きな皆様にお楽しみ頂ける小ネタをw
    正直、1年半前に【信義】に出逢うまで
    韓流どころか、TVを見なかった私。
    同じような方もいらっしゃると思うので、
    どこまで通じるか、微妙なところですが・・・
    うふふ、どきどきします( ´艸`)
    わかったら、ぜひコメにて回答をお待ちいたします❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様、おはようございます❤︎
    ヨンの時代なら、どんな時でも、ヨンが護ってくれます。
    だけど、現代では、そうも行きません。
    突然連れ去られ居なくなったウンスを見かければ、誰でも声を掛けて引き留めるでしょう。
    ヨンの時代掛かった服装に、珍しがって手を触れる人も居るでしょう。
    その度、相手を斬る訳にはいかないもの。
    もっとも、鬼剣は一緒ではないみたいですが…。
    とりあえず、お金が有って良かった(*^_^*)
    ワクワクしますね❤︎

  • SECRET: 0
    PASS:
    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、まずは軍資金!
    ここから旅が始まるので、第一関門突破ですw
    そして今宵の最終話まで、楽しい事がいろいろとw
    まずは一気読みでお楽しみ頂けたようで、嬉しいです❤

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