ちょっと待って。そんなすごい美人なの?
トクマン君の嬉しそうな声どころかチュンソク隊長の声まで加わって、クラクラしてくる。
私だって先の世界にいた頃はそんな美女を作る手助けをしてきたけど、でもそれはあくまで手直し前提の話で。
この時代にそんな人がいたら、それはかなりの確率で天然美女よね。
その美女がこの人のお嫁さんになる?
「どういう事です、チェ尚宮様!何故」
「待てトクマニ、落ち着いて話を聞け」
「て、大護軍、な、な何でそんな事に」
「ちょっと待て」
俺は手でその場を制し、叔母上に向き合った。
「まず、何故そう判じる」
その問いに叔母上が返す。
「枢密院使宰枢の現在の立場だ」
「立場とは」
「あの方の細君が忠粛王のお血筋と知っているか」
「いや、初耳だ」
俺は首を振った。そんな血筋だったのか。
「であろうな。細君の母君は忠粛王の妃、曹国公主様。
つまり御息女の祖母君は元王室の血を継いでおる」
それは知らなかった。
であれば今後王様の反元の態度が硬化すれば、大監には十分目を光らせる必要がある。
「今の王様の反元政策を快く思わぬ重臣も皇宮に巣食っておる。枢密院使宰枢もだ。
たとえ今現在は表面に出なくともな」
その言葉に俺は頷いた。
「王様よりお前の方がまだ落としやすい。そこで懐柔に出たのよ。ヨンア、お前を。
お前が生粋の武家の出自であればともかく、我がチェ家は厳然たる文官家系。
元に対して、武家との婚姻ではない、文家出自のお前との婚姻であると伝われば話が通りやすいのだ。分かるか」
「何ゆえ」
叔母上は鋭く息を吐いた。
「高麗の一介の武士が、間者として元の血筋に潜り込んだのではない。
そう説き伏せる材料としてだ。この話、始まれば揉めるぞ。相手は本気だ。
お前の立場、今一度考えろ。
高麗の戦神、迂達赤大護軍。元でも名は知られておる。
ヨンア、お前は今、蝙蝠なのだ。
高麗では、王様の懐刀のお前を元と縁付かせて、反元政策を失速させる。
元では、戦神ではあるが文家の出自の者として、高名なお前を抱き込む。
高麗がまたその傘下に戻り、大護軍は攻撃の気配も薄いと。
おまけに文官出自としていざとなれば高麗から引き抜き、元に抱き込んだ上で高官に据えるか。
もしくは元の官軍の将軍職を与えるか。そうした駒に使われようとしておる。
天下の美姫を餌にしてな」
私は奴を見て時間をかけ、回りくどいほどゆっくりと伝えた。
この推論を聞いて荒れ狂うか、怒鳴り散らすか。
しかし次の瞬間。
はっはっは、と、目の前の甥は、大きな声で笑いだした。
「笑うところか、馬鹿者が」
「いや叔母上、面白い推測だが」
如何にも苦しそうに、腹を抱えたヨンがこちらを見遣る。
「俺の気持ちはどうなっておる」
「お主の気持ちなど、相手には問題外」
「成程、そう言う事だったか。
何かが分からず気が晴れなかったが、これでようやく判った。
俺も買い被られたものだ。感謝する、叔母上」
「感謝など要らぬ、如何するつもりだ。相手は枢密院使宰枢だぞ。断れるのか」
ヨンは私の横に腰掛け、 三和土に体を伸ばした。
「断れるか、ではなく、断ってやる。
断るではなくぶち壊す、とことんな。
俺を蝙蝠に仕立てようとしたこと、駒として使おうとしたこと。
纏めて心底より後悔させてやろう」
目の前で、あの方が揺れる瞳で俺を見ている。
俺はほんの短くその瞳を見つめ返し、確りと一度だけ顎先で頷き返す。
次に、叔母上に目を送る。
「テマナ、暫く医仙を頼む」
「はい」
三和土の上で起き上がり扉より出ると、 叔母上は黙ってそれについてくる。
「どういうつもりだ、あの方や兵の前で。叔母上らしくもない」
廊下の先、物陰まで進み、人の気配が消えて振り返り、叔母上に鋭く問う。
俺の私事を兵の前で暴露など、ましてあの方に余計な心配をかけるなど、普段の叔母上とは思えん。
しかし叔母上は一人で頷いておる。
「この後迂達赤の助けがいるかもしれぬ。一々個別に話す時間が惜しいのだ。
そして医仙には今の状況をああして、他人の口より聞かされておいた方が良い。
これ程の女人が相手だとな。
お前は他の女子の事など知らぬ故、只々大丈夫だ、心配するなと繰り返すだけだろう」
「それはそうだが・・・何故迂達赤の助けが要る」
叔母上は苦々しく言った。
「言ったろう、全て勘だけだと。
空振りであれば上々。しかし万が一にも話が進めば、チェ家の血縁は私だけだ。
私では立場上、大監から正式な申出あらば、無碍に断るわけに行かぬ。
尚宮として御守りする王様と媽媽のお立場上、表だって大監を敵に回すわけにいかぬ。
しかし迂達赤は武官であろう。武官であるからこそ許されることがいろいろあるではないか」
最後に叔母上はにやりと笑った。
「いろいろとな」
しかし次の瞬間真顔に戻り、ぼつりと呟く。
「ヨンア、これは此度の事とは関係はないが」
「何だ」
叔母上は周囲に素早く目を走らせ、半歩俺に寄り囁いた。
「典医寺のキム侍医、注意しろ」

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ヨン~~!ぶち壊しちゃってぇ~♪(^∇^)♪
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いろいろ勉強になるわ~頭フル回転よ
ぶち壊すんでしょ、ウダルチの活躍もありそうかな?
お手並み拝見、OKです!ですが
最後に((゚□゚;))えぇぇ~!キム侍医に注意しろって、ど~言う事?
たしかに前々回では、いろいろ詳しい物言いでしたが‥
ヨンの縁談より気になっちゃう
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ヨンを蝙蝠にし、駒にするとは、相手も切羽詰まってるのかな(・・? 叔母様の長年の経験からして、推理はあたっているでしょう。戦だけでなく、王宮内にも敵が…こういう話大好き(どこまで理解してるかは、疑問ですが(笑) キム侍医も怪しいの? 先は全く読めませんが、面白いです。
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チェ尚宮さん、読みが深いです。伊達に長年王宮で生きてきた訳ではありませんね。
チェヨンくん、俺の気持ちは、とか言ってますが。ウンスちゃんを安心させるための言葉ですよね。
枢密院の偉いお父さん、自分も王様と元の公主の王妃様の間に生まれたお姫さまを、嫁に迎えたんだ。って、やっぱり家柄も良いんでしょうが、高麗での地位も確固たるものですね。
王様の孫娘?ってことですか。美人の?
うっわー、チェヨンくん、断るの大変そうですよ。大丈夫かな。
チェヨンくん、ウンスちゃんと一緒なるためです。頑張ってくださいね!
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なんか楽しいことになってきましたね(^.^)続きをドキドキワクワクでまっています!言葉たらずですが、このワクワク感をどうしても伝えたかったものですみません
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ホントに公開有難うございます(*^o^*)
なんと なんと(゜∇゜)
国を問わず 政略結婚なるものが当たり前の時代ですものね(-o-;)
それにしてもチェ尚宮様の読み 凄すぎます。
流石は陰のドン(笑)
展開がワクワク ドキドキで私の心臓 頑張れ!(笑)
典医寺のキム侍医…
どう関わっていくのか とても気になります…
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>kumiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ぶち壊しちゃいます。頑張らせます≧(´▽`)≦
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>えみりんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
今話では、これ以上は出て来ないですm(_ _ )m
元々は、限定公開のつもりで書いたので、このくだりが出ては参りましたが・・・
さすがに全公開コメでこの種明かしは興醒めかと(゚ー゚;
実際分かるのは紅蓮の後半でございます・・・
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>チェヨン1さん
この大監自体が蝙蝠(高麗高官+元王室関係者の娘婿)なので
それほど切羽詰っている事はないとは思いますが・・・
どっちにでも行ける立場ですね、今はまだ。
キム侍医の場合、怪しかったというより・・・
敵でなないんです、ないんですが、ああ、という。
二次もだんだん濃くなってきて、まあ書きたいことやら
書いておかねばなことやら、山盛りです(〃∇〃)
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さらんさん、どんどんと話が面白くなってきますね~!続きが、気になって仕方ありません。そのせいか、今日、旦那と紅葉を見に行ったのですが、美しい紅葉が、信義の世界を思い出させて、頭の中に信義の曲が流れてきました。そして、さらんさんのお話が浮かんできて!それに気が付き、嵌ってるな~と思えた一日でした(笑)
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>ポチッとなさん
こんばんは❤コメありがとうございます
外孫とはいえ今の王様とも血縁があるわけで。
王様の姪にあたります。しかしこの時代の血縁関係なんて
皇室絡みでさえあれば、王の関係者であれば、と
そんな印象はありますが。
因みに枢密院使宰枢はオリジナルですが、
忠粛王、そして曹国公主は実在の人物です。
うーん、段々ややこしくなった印象だけ持って頂ければ
あとはもう、すっ飛ばして頂き問題なしです(o^-')b
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>としみさん
こんばんは❤コメありがとうございます
とんでもないです❤
ドキドキワクワクして頂ければ嬉しいですо(ж>▽<)y ☆
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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おばさま・・・やはり切れ者ですね。
そ~か キム侍医 (-"-;A
ウンスも後から後から聞かされるよりね
目だけで会話・・・(//・_・//)
そして 今日の一番
「断るではなくぶち壊す とことんな~
ノックアウト~
後悔はどのぐらいになるのかな?
う~ん
久々の ヨンの‘鬼‘を感じます。
きゃ~ 続きが・・・楽しみ過ぎる~
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>ぐりっちさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、地位が高ければ高い程、不自由だった時代。
その代わり、庶民には想像もつかず、考え及ばぬほどに
いろいろな利益や特権を享受できた時代・・・
幸せを再考するためにも、ヨン、頑張って頂かねば( ´艸`)
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根回し気の使いはチェ尚宮にお任せで間違いなし。しっかりヨンの漏れこぼしを拾い上げてくれますね。ウンスの立場もとても理解してくれてるし、ヨンの足りない言葉までしっかり推測するあたり笑っちゃいました。
ヨンとチェ尚宮、ふたり揃って足場は万全に固まりましたね。後はヨンの采配次第でしょうか。
それにしてもチェ尚宮の危惧するキム侍医、何が気になるところなのかしら?目が離せません。
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>かよさん
こんばんは❤コメありがとうございます
あまりに素敵な想い出をshareして頂き、
嬉しすぎて、一服処を上げてしまいました。
かよさまがアメンバー様だと良いのですが・・・
もしも違う様でしたら、メッセージ頂ければ
コピペでお話をお送りしても良いでしょうか?
勝手にお名前を使うのも・・・と思ったので
かよさまのお名前は、一服処では伏せたままになっております(*v.v)。
旦那様とかよさまの睦まじい紅葉狩りのお姿は、
すぐ喧嘩に発展する、こちらのカップルよりも
きっと穏やかで美しかったと思いますが(;^_^A
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>くるくるしなもんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、ところが今回は
意外な方向性というか、書いていていろいろなバージョンを
予想したり、空想したりしたのですが、
この後、チェ尚宮コモまで「お?」と思うほど
冷静かつ賢い漢の姿も見せたり・・・
まあ最後の正面突破は、相変わらずです(^_^;)
ああ、鬼だねあんた鬼だよやっぱ…的エンディングまで
なんだかんだと、もう少し続きそうです。
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
正に、尚宮コモは名レシーバー。取りこぼしなしです。
どーも、ヨンの口の重さ口数の少なさ、
この後もひと騒動巻き起こします。
まあそれも敵の手の内か・・・というところですが。
キム御医については、この後もう少しだけ出てきますが
真相は、本人の告白(【紅蓮】終盤戦)まで
暫く、分からぬ処です・・・w
二次はこれだから、ほんとに、ですね(;´▽`A“
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さらん様、こんにちは❤
これですね。
さらん様の予告された、叔母様の驚きの台詞は!!
そうかぁ...。
面白いではないですか!!
オリキャラ真っ黒、歓迎です(*^_^*)
それにしても、叔母様とヨンの掛け合いは凄いですね。
ヨンも、もともと文官の出自であり、天才肌なのは、承知していますが、叔母様もホントに凄い。
一体、どれだけの事に精通していらっしゃるのか。
ヨンが、いざとなれば、誰より頼りにするのは当然ですね。
増々、次話が気になります~❤
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
もう、チェ尚宮コモは、私の中では
「皇宮の要、裏の耳、生き字引」的立ち位置で
おまけにあの腕っぷし。裏ボスです。
ヨンは天才肌、本能が先に立ち、かつ実戦派ではないかと。
そもそも文官息子、初陣は16ですので、
いざとなると尚宮コモの手助け、今しばし必要やもです。