子供を追って四日目。
剣は抜かずに林中を探して回り、姿を見つけては手を伸ばして捕えようとする。
そのたびに噛みつかれながら、ヨンは考える。
己はあの子供に何故、こんなにこだわる。
命ぜられた作戦だけ遂行して、そのまま皇宮に帰れば良いものを。
「まだやりますか」
チュソクが半ば呆れたようにヨンに尋ねる。
チュソクもトルベもあの子供の姿を見つけるたびに掻かれ噛みつかれ、追走にうんざりしているようだ。
「乗り掛かった舟だ」
ヨンはそれだけ言う。
「それにしても、あんなにすばしこい奴は初めて見ましたよ」
トルベが己の脇に槍を立てたまま溜息を吐く。
ヨンはその言葉に頷く。
ここまで追われ、子供はおそらくあれ以来ほとんど寝ていないだろう。
あの日を含めれば五日近く、飲まず喰わずだ。
いかに夜露や木の実で凌いだところでこれ以上俺達が深追いすれば、そのうち飢えか渇きで倒れる。
誘き出して捕えるしかない。
その夕方。
ヨンは林で拾った木の枝に糸を結び付けて作った簡素な釣竿を使い、魚を釣っている。
父が使っていた釣針は形見として、いつも懐に忍ばせていた。
「隊長、器用ですね」
トルベがそれを見ながら驚いたように言う。
「おお、喰うぞ」
「良いですね。酒が欲しい」
チュソクがそう言って杯を傾ける仕草を真似た。
「贅沢言うな」
チュソクを小突くと奴は笑いながら
「火を熾しましょう」
と河原の石を積み始める。
その様子を木の影から見ながら、テマンは生唾を呑む。
呑気に飯なんか喰いやがって。
俺だって、腹減った。
さて、空き腹に魚の匂いはどうだ。
わざわざ風上で焼いてやったぞ。
ヨンは木の陰に隠れたまま此方を伺う子供の影に、胸裡で声を掛ける。
「何もせぬから、出てこい」
河原で大きな声で言うと、その気配がふと移動した。
ヨンは苦笑いを浮かべる。
まだ信じてはもらえんか。
「何もせぬから、出てこい」
急に上がった隊長の声に、トルベは驚いてチュソクと顔を見合わせた。
「隊長」
隊長は苦笑いをすると頷く。
「何処ですか」
「林との境、木の陰。さっきからずっと見ていた。気が付かないのか、呑気もんが」
気付いたか、とチュソクに目を遣ると、チュソクも首を振る。
「さっさと帰りたい。俺は眠いんだ」
隊長は焚火に当たりながら大きく欠伸をした。
その横顔が、焔に照り映える。
夜が来ても、あいつらはまだそこにいる。
二人の男は河原の石に敷いた筵の上で横になっているが、焚火の前にいるあの男だけはしっかり起きている。
咽喉が乾いて、死にそうだ。
テマンは足音を忍ばせて、そっと川に近づく。
その時あの男が目を逸らしたまま
「飲んでおけ。死ぬぞ」
と、静かに言った。
テマンは素早く男から距離を取って河原に降りる。
急いで川から水を飲むが、男は何もしようとしない。
立ち上がることもなく、ただ焚火を見ている。
「言葉は判るか」
テマンは林に駆け戻る。
河原に降りた子供が懸命に水を啜る姿を、ヨンは横目で確かめる。
こうして近くで見ると、己が赤月隊に合流した時よりよほど幼い。
こんな子供が林の中で一人で生きているか。
子供が林に駆け戻った後も、ヨンは考えていた。
此処で放って置く方が良いか。
無理に引きずり出すのが最善か。
親家族を亡くした子供は皆寂しいと、決めつけて良いものか。
判らん。
テマンは林の入り口の木の上で、河原のあの男の姿を見ている。
何だって、こんなに俺に構う。
何がしたいんだ。わからない。
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う～～～ん
長期戦ですね…
根競べ…テジャンに軍配が上がるのですが
ドキドキします～～～
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ヨンもなぜ固執しているのかわからないのですね
自ら望まない形で野性を閉じ込め生きる男と人並みな生活を奪われて野性を身に付け生きる子供
テマンを捕えた時に互いに何かを感じるのでしょうか
今夜の最終話を楽しみにしております
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＞ゆきんこさん
おはようございます♡コメありがとうございます。
ふふー終わりは意外とあっさりですよー
今回は流血もほぼなく、可愛い追いかけっこで
幕を閉じそうです。
宜しければ、今宵、また❤
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長々、虎に近づかない！
ようやく水を飲むことにしたのね！
後は・・・魚かしら？
お腹が空いてる？
奪いに降りてくるのかしら？(((^_^;)
ふふ・・・どうするのかなぁ～
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＞あみいさん
おはようございます♡コメありがとうございます。
そうですね、ヨンはもう感じています。
テマンは、まだ気づいていません。
今晩、分かるかなと。
宜しければ、今宵、また❤
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最終的な関係は分かっていても
ドキドキしますね。
あぁ～行かなくっちゃと思いながらも
何度も読んでしまいますヨン❤
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理由なくなんだか気になる子。気が強いような、それでいて大人びているのに人より子供っぽさが抜けないそんな子供。気になる~!そろそろ隊長に捕まっちゃうのかな？楽しみに待っておりますよぅ~♥(*≧ω≦)
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＞亀ちゃんさん
おはようございます♡コメありがとうございます。
小さなことから一歩ずつ。
テマナまんまとヨンの術中に嵌ってます(爆
さすがに、奪いに来たらヨンに
ﾒｯヾ(▼ﾍ▼；)されますから、
奪いにはきませんｗｗ
どうするのかなー。
宜しKれ場、今宵また❤
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＞ぽんたさん
おはヨン❤
大変！お仕事の時間だヨン！
今日で【蛍袋】終わりと思うと、寂しいー(ﾉ_-｡)
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いよいよウダルチがひとり増えますね！テマンが仲間になるのが楽しみです。まったく関係無いけど私もチュソクとトルベと酒を飲みたいわ。
読む方は簡単ですが朝晩の執筆は大変では？
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＞ののさん
おはようございます♡コメありがとうございます。
今晩終わりと思うと、ウーンって感じです。
子供、気になる～！
そこまで気になったら、テマナも本望！
嬉しいです❤
宜しければ今宵の最終話でまた❤
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＞ちよさん
おはようございます♡コメありがとうございます
はい、いよいよ増えます。
酒ですかー、これ前もちらっと書きましたが
隊長とテマナとチュソクは最凶に強く、
（テマナは飲むと暴れるらしいし）
チュンソクは中間管理職のストレスで悪酔い、
トルベとトクマンは酒よりお姉さんが好き、というのが
私の信義での定番となっております。
こんな面子でも宜しいでしょうかｗｗ
朝晩執筆というか、週末に書いておいて、
朝晩に「公開する」ボタンを押すだけなので
大変さは全然ないですｗ
お心づかい、ありがとうございます。
宜しければ、今宵また❤
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ヨンはテマンに対して赤月隊のような仲間・・兄弟 家族・・みたいな意識を持ったのかな？
ヨンと一緒で特殊な能力の持ち主・・テマン。
部下ではなく仲間・・兄弟がほしいと・・。
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ふふふ（＾∇＾）
あれだけひもじい思いをさせて、魚と一緒にテマンも釣り上げたのですね。
それにしても、ヨンアのかっこいい事‼︎
テマナは惚れてしまったのでしょう❤︎
でも、向かうところ敵なしのヨンが、決してかなわないと認めている、ウンスって最強ですね❤︎
次も楽しみにしています。
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ヨンは1人が淋しいと感じるから
テマンを1人にしておけないのかな
と感じました。
ヨンの優しさが素敵（≧∇≦）
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＞イタkiss大好きさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
皆様の心の中で、ヨンの、テマナの気持ちを
いろいろ考えて頂けると嬉しいです。
うーん。
今晩、UPが終わったらまた皆様へを書いてしまいそうな
自分がおりますよー。
まずはこの後、最終話UP予定です。
宜しければ、ぜひ❤
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＞夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
一本釣りです！
さすがヨンア、やりますねー！
そう、表ボスは明らかにヨンですが、
最強裏ボスは間違いなくウンスオンニｗｗ
今晩最終話UPです。
宜しければぜひ。
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＞みきみきさん
こんばんは♡コメントありがとうございます。
ヨン、すごく頼られたがり屋の頼りたがり屋と、
私は踏んでますが、いかがなもんでしょうか。
少なくとも、うちのヨン❤そんな感じっすｗｗ
甘えさせの甘ったれと言ってもやぶさかでないｗ
優しいですね、慶昌君媽媽の時と言い、
年下男子を放置できないのか･･･
熱血お兄さん体質？？
今晩は最終回です。
宜しければ、この後にまた❤
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幼くして、一人林の中で生きる為に身に付いたもの。
そう言った何か？にも、ヨンは感じるところがあったのではないかしら？
野生児が街で生きていけるか？
置いていって生きていけるのか？
どちらにしても、テマンが幼すぎてヨンの葛藤は大きかったでしょうね。
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＞mayuさん
コメントありがとうございます。
そうですね。
野に置くか、連れて帰るか。
葛藤したと思います。だから「わからん」
細かいところにいろいろとこだわったせいか
何だか燃え尽きましたー