「ほら、これ。結婚線よ。やっと出来た」
「・・・け、っ婚」
結婚線。
意味も判らず繰り返す声に焦れたようあなたが訴えかける。
「結婚線。私両手とも一本もなかったのよ。占い師に絶対結婚はムリだって何度言われたか。
すっごい失礼よねえ?こんな素敵な旦那様に逢える未来を読めなかったダメ占いのくせに」
何を暢気な事を言っている。大切な掌を俺の砥いだ刃物で傷つけて。
もう一度怒鳴りつけようとした俺に、この方は自慢げに顔を上げる。
「こんな立派な結婚線が出来たし、たった一本だけだから。絶対離婚はしないし。
この結婚が一生で一度、っていう意味なのよ?
ああ、あの時の占い師にもう一回会って見せてやりたい!!」
この方は白い息を立て続けに吐きながら言い終えて、ようやく傷の残る掌をこの眸から隠す。
「だから怖がらないで?全然痛くないんだし、あなたと私の縁がもっと深まったの。
喜んで?絶対離れたりしない証拠が出来たの」
俺の砥いだ刃で、あなたが流した血で、その残痕が縁を結ぶ。
縁を結ぶには時にこれ程痛い思いもせねばならぬと言う事か。
泣かせたくない。傷つけたくない。痛い思いも苦しい思いも。
俺が傷を負い、血を流す分には構わない。それでもこの方だけは。
それでもそんな考え自体が思い上がりだ。
泣きながら、時に血を流しながら、この方はいつも最後に笑う。
ただ俺を抱き締める為に。温める為に。
俺が構わないと思うのと同じだけ、この方も思っている。
相手を護りたい慾も、笑えと心から願うのも、男だけではない。
雪の舞い落ちぬ静かな冬の夜、今年も響き始める鐘。
全ての煩悩を払うよう浮かぶ月を震わせる余韻の中で、小さな掌を取る。
あなたの残痕が結ぶ縁。その愛しい傷に唇を寄せる。
誓いのままその傷ごと抱き締める。そして死ぬまで離さない。
煩悩を払う筈の鐘に揺れながら、この心が清らかになるには程遠い。
それでも良い。血も、傷も、煩悩も、全てを赦すあなたさえいれば。
「俺にはありますか」
先刻のあなたのようにこの拳を握り、浮かぶ月に翳して確かめる。
「結婚線?」
月に翳したこの掌を、あなたの瞳がじっと見る。
「うーん、ここじゃ暗くて探すのは難しいかな」
あなたは翳した拳を握ると、そのまま宅へとそっと引く。
「明日の朝、一緒に探そう?今日はもう寝よう。明日は早いわ」
「・・・マンボと叔母上が、早々に押しかけそうです」
「んー。絶対寝坊できないわね。新婚早々ダメな嫁って思われたら困っちゃう。第一印象は大切だもの」
響く清らかな鐘の中、二人きりで歩く雪の庭。
こうして今年最後の夜が終わる。清らかな鐘と共に。
朔旦の朝、二人で居られる刻はごく僅かだろう。
あいつらがやって来る。新しい年の訪れと共に。
俺のこの方の拵えた大切な料理を楽しみに。
そして年の初めの声を交わそうと嬉しそうに。
けれどその朝を迎えるまで。
初日影が腕の中のこの方を照らすまで。
その時までは俺だけのもの。
明日の朝に目が醒めれば、新しい絆の残痕を得た新しいあなたがいる。
「・・・隠したい」
あの叔母上が帰り際に残した、今年最後の声のように。
寝屋に閉じ込め、外から閂を降ろし、その上から幾重にも鎖を巻いて。
押し破れぬ錠を掛け、誰にも見せぬように仕舞いこみたい。
新しい傷を残しても、絆が出来ても、証が出来ても不安は尽きん。
この胸に巣食う煩悩は、梵鐘では救いようも祓いようもない訳だ。
「誰にも笑わせず」
雪景色の庭での独白に、目を丸くしたあなたの足が止まる。
「労わりの声も掛けさせず」
「ヨンア?」
「手作りの飯など以ての外」
「ちょっと待って、それってまさか」
「明日、山ほど手はあるそうなので」
「それって、物凄い失礼よ?みんな新年の挨拶に来てくれるのに」
「いざとなれば居留守を」
「・・・本気じゃないわよね?ヨンア、今年最後のキツい冗談よね?」
時を超えて幾度でも巡り逢い、新たな絆が出来ても。
生涯一度だけという、その愛おしい残痕が出来ても。
夜気を震わせ空へ消え行く梵鐘では、到底祓えぬ慾が胸を焼く。
この方にはまだ判っていない。
どれ程気が短いか、我慢が足りぬか、あなたの事でどれ程見境が無くなるか。
「・・・来年は、必ず憶えて下さい」
明日の初日影の中、二人でこの掌にも一本きりの線を探そう。
もしも見つからねば鬼剣で刻む。この掌にも、心にも。
年の最後の鐘の音、一年で最も清らかな夜。
物騒な事を考えながらこの方が冷えぬよう手を引いて、宅への途を急ぎ始める。
横をついて来る見上げる瞳が不安げな事に、片頬だけで小さく笑む。
今年一年俺が抱いた悋気を、そうして少しだけ知って下されば良い。
どんな清らかな梵鐘にも祓えぬこの煩悩。
最後の一鐘が知らせる新しい年の最初に、そのほんの破片でも。
【 2016 再開祭 | 残痕 ~ Fin ~ 】

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手相に、刃もので傷をつけても欲しかった結婚線。ウンスの固い決意が痛々しいほどうれしい。
きっと、ヨンにも、そんなことしなくてもくっきりありますよ。ウンスの愛情は最強だから。
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2017年が来ました。年を跨いで素敵なヨンとウンスに会えて、はー幸せ。
今年がさらんさんにとって良い年でありますように。
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先程のコメントで、お伝えはぐりました。
「明けましておめでとうございます
今年も、よろしくお願いいたします」
お体に気を付け、またこの一年間を、元気にお過ごしください。
今年も良い年になりますよう、心からお祈りしております。
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明けましておめでとうございます。
昨年中は沢山の想いがつまった…沢山のさらんさんの世界にお邪魔させて頂きました。
感謝しかありません。
優しくて…
切なくて…
可愛くて…
愛しい
ありとあらゆる気持ちが愛おしい
想い想う心…幸せをありがとうございます。
沢山の幸せを…頂いちゃった。
感謝しか云えする事が出来ません
沢山の幸せを綴られる、さらんさんに
今年、ふくふくとより良き年が訪れますように。
kanata
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さらん様
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
怒濤の更新、お疲れ様でしたm(__)m
この後はリクはお休みでしたね。本編楽しみにしています♪
先程は失礼しました。スマホの速度が遅くて、朝湯中篇を飛ばしてしまっていたようで(^_^;)
ちゃんと入浴シーンあったんですね(//∇//)
飛ばしてても、話が繋がるので違和感なくて(汗)
いや、お風呂場でのヨンにも笑わせて頂きました。逃げ回ってたんですね。
奥さんなのに、何で呪文を唱える必要が?(笑)
まあ、朝だし、出仕前だし、邸内に使用人はいるし。
ドラマの最初の頃に、パンツをめくりあげて膝の怪我を見るウンスから目を逸らし、パンツをカットしちゃったウンスを直視できなかったヨンですから、無理もない?
でも邸で二人きりだったらまた違ったのでしょうか(//∇//)
煩悩と戦う、朝湯のヨン(笑)
やっぱりこれも見てみたい(≧∇≦)
そして元旦に年始の挨拶に来る皆から、ウンスを隠したいヨン。
笑いかけてもダメ、話しちゃダメ、料理を作るなんて以ての外なんですね(笑)
そして、自分に結婚線がなかったら鬼剣で刻み付けるって(^_^;)
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冴え渡り益々甘くあま~く
どんだけ~(~▽~@)♪♪♪
でれっでれヨンアの悋気と煩悩に
もう瞬殺!悩殺されまくりですわ♥
年末年始怒濤の甘々up♥
幸せな新年迎えましたヨン(*^.^*)
今年もさらん姉の健康とhappyに乾杯❗
素敵な作家魂に献杯❗
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昨年も、さらんさんのお話を読めて、
本当に幸せでした♡
いろいろな出来事の中お話を読むことで、
元気もらったり心が温かくなったり幸せな時間でした。
ありがとうございました。
今年も、またさらんさんのお話を読める事の幸せに感謝です♡
さらんさにとっても、素敵な一年になりますように♡
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あんにょん♪
새해 복 많이 받으세요
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します(=⌒▽⌒=)
苦悩されて、ブログ閉鎖になった時は
胸が張り裂ける思いでした。
こうして再開され、さらんさまのお話を
再び拝読出来る喜びを、日々感謝です。
さらんさま、独特の言葉の流れ、想い等を
紡がれるお話が(°∀°)b 大好きです
今年も日々の更新を楽しみにしています。
ご無理をなさらず、さらんさまペースで
歩んできださいませ(-_-)/~~~ピシー!ピシー!
寒さ厳しい日々ですが、お体ご自愛ください。
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あけましておめでとうございます^^
年末年始は毎年恒例、主人の実家に帰省していたので、なかななかお邪魔出来なくて(^▽^;)
自宅に戻ったので、寝る前に訪問したら、こんなに怒涛の更新をされていたんですね!
ウンスは占い師が当たらないって言ってるけど「昔の男」は当たってますよね^^
過去の男だと思っているから、気が付いて無いのかも( ´艸`)
また続きはゆっくりじっくり読みますね♪
それでは、今年もよろしくお願い致しますm(_ _ )m