「おお、うまいもんだな」
積み木の小さな山の中。
好きな形を見つけて次々重ねようとする吾子の手元に見入り、師叔が満足げに目を細めて唸る。
「幼子の方が上手く積むらしい」
「成程な。ほんとに賢いな」
しかし積み上げる足元が悪い。
硬い床上なら立つ木片も、下が頼りない寝台では揺れるばかりで立とうとしない。
宅とは勝手の違う揺れに、吾子が握った大きめの積み木の一つを振り上げた途端。
がつん。
鈍い音を立て、目の詰まった硬い積み木の端が小さな頭にぶつかった。
「おい!」
「ちょっ、と今凄い音したぞ!!」
「どうした、どこ打った。大丈夫か」
「ああ、どうしたどうした」
一斉に掛かる声の中、吾子の黒い目が大きく丸くなる。
その顔を見つめたままシウルの眼まで丸くなっていく。
続いて吾子の小さな口が開き、泣き出す前の息を呑む。
その顔を不安げに覗くチホも同じように息を吸い込む。
そしてその顔がくしゃりと歪み、丸い目に涙が溢れる。
ヒドが見られぬとばかり己の目許を黒手甲の掌で覆う。
その時吾子を寝台から攫って抱き上げた俺に、師叔もシウルもチホもヒドも一斉にこの顔を見る。
髪を掻き分け打った処を確かめる。腫れても切れてもおらん。
触れて確かめても痛がる様子もない。驚きのほうが大きいか。
「誰が悪い」
抱き上げられた吾子が手にした積み木を不服気に床へ投げる。
硬い木片が此度は床で鈍い音を立てる。
「違う」
膝を落とし吾子を床へ降ろすと首を振り、その投げ捨てた積み木を指で示す。
「拾え」
吾子は唇を結び鼻を膨らませ、積み木に手を伸ばす事はない。
「拾え」
それでも怒ったように其処から目を逸らす吾子にもう一度聞く。
「要らんか」
吾子はそれでも見ない。俺も、己が床へ叩き落とした木片も。
「善し。要らんなら捨てる」
「おい、ヨンア!」
「待てよ旦那!!」
躊躇なく床の積み木を拾い上げ庭に向かって投げようとした俺に、男達の方が慌てて声を上げる。
そして吾子が驚いたように、この上衣の袖にしがみ付く。
「良いか。振り回したら危ない」
その積み木を振り上げた手は降ろさぬまま、袖を掴み己を見上げる吾子に静かに言い聞かせる。
「お前も周りも。判ったな」
「みゃん」
「ミアナムニダ」
「みゃむんだ」
「そうだ」
もう一度吾子の小さな手に積み木を渡す。
「父も悪い。最初から床なら良かったな」
「にゃむんだ」
俺にも公平に詫びろという事か。その声に素直に顎を下げる。
「ミアナムニダ」
*****
「飯だ」
俺の声に卓を囲む男達全員の目が卓の椀に注がれる。
「旦那・・・」
「おう」
シウルが戸惑ったようにその椀を指す。
「これ、クッパだろ」
「塩は入れておらん」
チホが椀の山菜や青菜を怖々見詰める。
「でもクッパだろ。このまま喰わせてもいいのか」
「よく煮てある」
師叔が呆れたよう首を振ると、俺の据えた椀を卓上から取り上げた。
「ヨンア、おめえでも知らねえ事があんのか。いいかぁ。
赤ん坊に飯喰わせる時にはな、すり潰すんだよ」
椀を持ったまま立ち上がり厨へ踏み込みながら、空いた片手で棚に置かれた擂鉢を取り上げて台へ置く。
「水」
その声に隅の水甕から柄杓に汲んだ水を渡す。
「師叔」
「ああああ、良いから黙って見とけ」
師叔はその水で擂鉢を漱ぐと得意げに頷き、椀のクッパを擂鉢へ流し込む。
「おう、菜っ葉やなんかはちゃんと細かく切ってんだな」
「師叔、あのな」
「これですってやりゃよく喰うさ。何しろ開京で一番うめえ、うちのクッパだからな」
「師叔」
年寄りの思い込みは、これだから面倒だというのに。
俺の声など右から左。
師叔は擂粉木を握ると、鉢の中のクッパを丁寧に擂り始めた。
ごりごりと音を立て、すぐに擂り終えた擂鉢の中.
菜も米粒も原形を留めぬ粥のようになったクッパを椀へ戻し、吾子の待つ卓へ戻る。
シウルとチホとに左右を囲まれ、離れたヒドに見守られ、機嫌良く笑っていた吾子が椀を見て伸びあがる。
「んま」
「お嬢、待たせたなー。父ちゃんがちゃんと拵えねえから、腹減ったろ」
勝手な事を言いながら、師叔が改めてその椀を吾子の前へ据えた。
「たっぷり喰って、早くおっきくなれよ」
吾子の目が椀の中を見、そして不思議そうに師叔でなく俺を見る。
師叔がその小さな手に木の杓文字を握らせる。
それでも喰おうとしない吾子に師叔は首を傾げると
「どうした。うめえぞ」
そう言って杓文字をそっと取り上げ、自分で掬い吾子の口へと運ぶ。
目前に差し出された粥のようなクッパに、それでも空腹の吾子は口を開ける。
匙の中身を流し込まれ、もぐもぐと口を動かして。
そして素直に口を開け、その中身を顎へとだらりと吐き出した。
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んっ(・・;)…たははは(^_-)≡★爆笑
さらんさ~ん(爆泣笑…)
良くご存知ていらっしゃる
そっ…そうなんですよ
そうなんですよね~っ(⌒‐⌒)
出しちゃう!気に入らないと、べって出しちゃうのよーっ
因みに…臭いも嗅ぎます
ひーっ…うくくく(≧▼≦)お腹痛いー!
小学校上がる位の歳まであるの♪
攻防戦…今もおちび達と奮戦中ですの~っ(⌒‐⌒)
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さらんさん…もしかして隠し子いる?
もう、子供の描写が絶妙!
[貴音] 読んでいると、あぁ子供ってこんな事するよなぁと情景がうかんでくる。
とても優しい気持ちになります。
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ミャムニダ~(///∇///)可愛すぎる!
ヨンの教育もいいわあ~!
今.良い悪いを上手に教えられる親いないからね!
アッパレだヨン(* ̄∇ ̄)ノ