【 吾亦紅 ～ 愛慕】
あの丘の上、1本だけ聳えたあの木の枝を、風が揺らしている。
涙のせいで視界が曇ってあの人の姿を見逃したりしないように、私は大きく目を見開いて、辺りをもう一度見回す。
次は見つけられるかも。
傷ついて倒れているはずの私のあの人は、今どこにいるの。
たとえ僅かでも息があるなら。
あの心臓が鼓動を続けているなら。
私が絶対に治療してみせるのに。
どこにいるの。
ねえ、どこにいるの？
*******
天門から吐き出された瞬間、目の前に江南の街の夜景が広がっているのを見た。
懐かしがってる時間なんてない。
私はまっすぐ病院に駆けつける。
病院に飛び込んだ途端、ナースのキム室長に捕まる。
どこに行っていたのかと心配され、取材の記者が来ていると聞かされる。
お願い、放って置いて。急いで帰らなきゃいけないの。
この世界では私はあの人に誘拐されて行方不明にはなっているものの、時間はほとんど流れていないと分かる。
その言葉を歩きながら受け流すと、待合ロビーの隅で記者に捕まる。
それどころじゃない！と怒鳴りたい気持ちをどうにか抑える。
怪しまれないように、なるべく早くここを出ていくために。
にっこり笑って、その日本の記者のカメラバッグを拝借して、急いで自分の診察室に駆け込む。
プロジェクター。そうだ、入れなきゃ。
でなければあの時あそこで見かける筈がない。
そして日記。あの日記帳はどこ？
デスクの中を掻き回す。
買った覚えがない以上、あるわけがないのに。
誰かにもらったプレゼントの袋がデスクの引き出しの奥から出てくる。
これは何だっけ。袋を破り開けて、初めて中身を見た。
こんなところにあった。あの、日記帳。
ペンと一緒に鞄に放り込んで、そのまま薬剤管理室に飛び込む。
何が必要？消毒薬、ベータダイン、ガーゼ、圧着包帯、縫合糸、医療用ボンド。
あと、それから？
あの時割れてあの人を敗血症にしてしまった。
今回は絶対に必要な、抗生物質。
そして手術器具。
コッヘル、クーパー、メイヨー、フック、ああきりがない。
電メスなんて持って行っても電気がない。最低限にしなくちゃ。
そうだ、前にあの人に言ったことがある。
薬剤室も一緒に持ってくれば良かったと。
出来るなら、それであの人を助けられるなら持っていきたい。この部屋どころか病院丸ごと。
ずいぶん重くなった鞄を担ぎ直して、奉恩寺に駆け戻る。
まだ光っている天門の入り口で、一度だけソウルの街を振り返る。
もう戻らない街、会えない人たち。
幸せになるから。約束するから。
そのまま身を投げるみたいにあの光の渦に1歩踏み込む。
迷いなんてない。あの人の処に戻る為に。
そうやってもう一度天門をくぐれば、絶対にあの人の処に戻れると信じていた。
吐き出された門から一目散に駆け出す。
あの丘まで、あの人の倒れているあの木を目指して。
やっと戻って来た。
それなのにどこかがおかしい。
あの木がこんなに小さいはずがない。
木の根元に倒れているはずの私のあの人が、私のあの人の姿が、何処にもない。
どこなの。
ねえ、どこにいるの？
ここにいるはずなのに。
あの黒い瞳で、見つめてくれるはずなのに。
新章 【吾亦紅】 開始です。
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いつも楽しみにしてます
いよいよ 新章始まりましたね
又ワクワク ドキドキしながら
読ませて頂きますね
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またまた切ない感じのスタートですね
ヨンが居ない1人の世界
またまたドキドキですぅ～（≧∇≦）
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新しいお話、楽しみにしています。
頑張って下さい♪( ´▽｀)
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コメントに来ましたよ！
新シリーズ始まりましたね♥
今度はウンスのお話。
楽しみですが、どんな一年だったのかドキドキしています(?_?)
きっと色々あるんだろうなと思いつつ更新をお待ちしております(≧▽≦)
また、覗きに参りまぁ～す(^ε^)♪
追伸・今日はウダルチの誰かのお話ですよ。良かったらどうぞ♥
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ウンスが行ってしまった100年前のお話ですね
ヨンの所に戻れるまでの一年間ウンスには何があったのか、さらんさんはどう描いてくれるのか‥
ヨンが焼きもちやいちゃう？
切なくなるのかな？
とっても楽しみです(*´▽｀)v
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今夜は、29話からずっと見てるの。
ウンスの1年間ですね。
吾亦紅：花言葉は「愛慕」でしょうか？
高麗よりも100年前、もっと大変な時代。
ただ、ヨンへの愛だけで過したウンス。
何があって、どの様に耐え忍んだのでしょうか？
再会した時の、２人の潤んだ眸と眸での会話。
そこに行くまでには、もう少し掛かるのですね。
でも、大丈夫！今再会見たから( ´艸｀)
ウンスには、何でこんなに試練ばかり与えられるのだろう？
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こんばんは！
新しいお話が始まりましたね！
そうですか…そうきましたね(≧∇≦)b
またまた切なくなって、続きが気になって
目が離せなくなりそうです（ドキドキ）
此度は気を強く持って前回の雪割草の時のように
「辛い、辛い」とさらんさんに甘えないように、
頑張る所存です！
いつも感動的なお話を届けて頂いて、またコメントも優しく丁寧に受け止めて下さってありがとうございます（●＾o＾●）
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さらん様、こんばんは❤︎
あの方の登場に少し戸惑ってしまいました。
さらん様の【向日葵】に、いよいよ近づいて、とても嬉しいです。
ウンスの口から、ヨンへの想いを聴けるのだと思うと、嬉しくて、切なくて❤︎
ただ、どんどん埋まって行く時系列を見るのが寂しく、ウンスの登場は否が応でも終わりを連想してしまい、戸惑ってしまったみたいです(;^_^A
まだまだ、新章も始まったばかりですし、他のお話も沢山有るのに、ごめんなさい。
でもでも、ウンスがやっと出て来てくれて嬉しいのはホントです‼︎
これから、ヨンと再会出来る迄の、ウンスの時空を超えた愛の試練にお付き合いさせていただきますね❤︎
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新しいシリーズ、始まりましたね！
すでに、ワクワクドキドキです。
お忙しい中、アップ大変でしょうが 私を含めお話を待ってるファンの為に書き進めて下さい～
楽しみです(^O^)
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＞如月さん
おはようございます❤コメありがとうございます。
一番乗り、ありがとうございますヾ(＠°▽°＠)ﾉ
【雪割草】の後なので、ちょっと悩みましたが
ヨンの時間の後は、オンニかなと❤
また、暗ーい話かもしれませんがｗ
楽しんで頂ければ嬉しいです(*v.v)｡
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＞みきみきさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
【雪割草】の後、やはりカップルで、と思い。
あの寒さの後ですが、こちらも書かねば。
オンニですので、それほど寒くはないかも(*v.v)｡
どきどきしていただければ嬉しいです♪
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＞ルカさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
楽しんで頂ければ嬉しいです(●´ω｀●)ゞ
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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＞ののさん
ののさまー(*^o^)乂(^-^*)
おはようございます❤コメありがとうございます。
うふふふー
ウンスオンニ降臨です。ラスボスの戦いや如何に。
またよろしくお願いします♪
もうねー、むしろこちらよりチュンソク隊長の方が
気になって仕方ありません(｀・ω・´)ｷﾘｯ!
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＞えみりんさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
ヨンは･･･複雑な気分に、成るかもしれません。
とても複雑に。
うわーまたこれだー
ハッキリ言えず、訳わかなコメントが
増えてしまうやもσ(^_^;)
呆れず読んで頂ければ嬉しいのですが･･･
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＞mayuさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
神様は、越えられる大きさの試練しか与えないと
言われますから･･･
多分ウンスオンニとヨンなら、大丈夫と思われてる！
という事に、しておきませう（;´▽｀A“
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＞わいやーさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
とんでもないですよ(●´ω｀●)ゞ
こちらこそいつも嬉しいお言葉、ありがとうございます❤
どうしてもヨン視線の多い私、
ウンスオンニ視線で信義を見るのも
何だか新鮮でドキワクです(/ω＼)ｷｬ❤
早く読みたいというお話になっていますように♪
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＞夢夢さん
おはようございます❤コメありがとうございます。
登場です❤
でも、開京への道の後も、二人のお話は
続いていくので、きっと大丈夫です(〃∇〃)
夢夢さまや、皆様の思う再会まで
道が続いていますように･･･
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＞サチさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
始まりました❤
サチさまや皆様が読みたい、と思うお話に
なっていることを、祈ります(〃∇〃)
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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＞さらんさん
またまた、凄い思わせ振りなコメでヽ((◎д◎ ))ゝ
又泣くのかなぁ？
でも、ドラマで端折った意味不明な部分が、解き明かされそうですね(￣ー☆
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＞mayuさん
そうなのですよー！
もうこればかりは、話せばすべてネタバレなので
読んで頂くことをお願いするしか･･･(;^_^A
申し訳ないです(ﾟｰﾟ;
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初めまして。シンイにハマり、行間を想像するのが楽しくて、書かれている二次小説を読ませていただいています。
ちょうどこの、最終回の現代でいろいろものを取って行っているタイミングで、青いネックレスがありますが、あれはそれまでの話の中で出てきていないように思いますが、何かあのシーンでフィーチャーされているように思うんです。どう思いますか？
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＞zmkさん
こんばんは❤コメありがとうございます
行間読み、良いですね。私の場合読んだ後
書いてしまうので、情緒がすっ飛びますが(;^_^A
あのネックレスは、以前ここでも話題になったのですが
2012年のウンスの欲の象徴だろうと。
持って行っても使えないものを、それなら一つでも役立つものを
何か持って行けばいいのに、敢えてネックレス？と。
吾亦紅で、私は「信じる心だけ握って、あとは全部手放そう」
と、そう書きました。
それしか必要ないと思ったからです。
だから吾亦紅の中でも、あのネックレスには触れていません(ﾟｰﾟ;
本当は、1252年のモンゴルで、売っちゃおうかと思ったり
いろいろ、考えたのですが･･･
さすがに研磨技術とかが現代のものだし、
絶対余計な噂になるよなー、とｗ
そんな感じが、さらんバージョンの解釈なのでした♪