吾亦紅 | 3

 

 

庵の庭の机の上に日記を広げて、私はとにかく分かる情報を片っ端から書き込む。

あの時元の断事官に言われた言葉が蘇る。
「私の曾祖父が、これを見つけた」
あの人のひいお祖父さん。
じゃあ今私がいるのは、多分高麗のあの時から100年くらい前。

今が恭愍王の時世から100年前だと仮定すれば、1250年代始めという事になる。

125x そしてここは、おそらく言葉や村人の服装からして、高麗ではない。

恭愍王が即位して胡服辮髪令が廃止されたのは、1350年代始め。
私が初めて天門をくぐったのも同じ年。
135x 丸でぐるぐると、その文字を囲む。

あの人はこの一帯を高麗に取り戻して、鴨緑江周辺、そして双城総管府を奪還する。
1350年代中盤。年号は覚えていない。
135x+y

今の元の人間が分かる言葉や数字で、簡単に書くことはできない。
だからあんな風にややこしい書き方で、この手帳を残していたの?

じゃあどの言語なら安全かと考えたら、まだ発生も成立もしていないハングルになる。
李氏朝鮮になってから生まれるんだから、今は誰も読めなくて当然。そして私が読めて当然。

バタフライエフェクト。
思い出したその言葉を、日記の隅に英語で書く。
Butterfly effect
カオス理論よね。
北京の蝶の羽ばたきが、ニューヨークで嵐を巻き起こす。
僅かな誤差が、何処かで後になって取り返しのつかない大きな影響を与える。
結果は実際上、予測不可能。
あまり歴史に関与しちゃいけない。
それはよくわかっている。

今は、私の頭の中がカオスだけど。

それでも私はあの人のところに戻りたい。
もしもそのせいで後の世界が影響を受けたとしても。

私はカメラバッグを漁る。やっぱりあった。
真新しいフィルムケース。

お願い。あの時の私に教えてあげて。
私のあの人を助ける方法を。

今回の旅の事を教えてあげて。
あの時たとえソウルに一度帰れとあの旅籠であの人に言われても、絶対に帰ってはだめと。
あの丘に、行ってはだめと。

そしてあの人の震える手の事を。
心が壊れかけたせいで、異変が起こった事を。

毒を使うあの徳興君の事を。
あの男があの人に仕掛ける数々の罠の事を。
そしてキチョルの事を。
あの男のせいであの人がどれだけ大切な皆を失うかを。

そうすれば、もしこの旅が何度も何度も続くなら。

いつかあの人が悲しむ事のない最良の結果が、どこかで起きるかもしれないから。

─ ウンスへ ─

そう書き始めて俯いた目から、手帳の上にまっすぐ涙が落ちる。

私を帰らせて。あの人のところに帰らせて。
どうかお願いだから。

神様を信じたことはないけれど、今は何か大きな力に助けてもらいたい気持ちになってしまう。

時間とか運命とか、そんな人の力が及ばないもの。
私をあの人の元に帰してくれる、大きな何かに。

「そこに、いる?」

これ以上涙が落ちないように空を見上げて、震える声で呼んでみる。

いないふりをして、影から見ていてくれるはず。
私が呼べば、私の大好きなあの声で

此処です

そう言って、笑ってくれるはず。

 

 

 

 

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16 件のコメント

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    >モモさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    9月最後のコメをモモ様に頂き、
    承認しようとしたら、コメが見つからず
    超焦ってしまいました(ノ_-。)
    はぁ、見つかってよかった❤❤
    ここからは、ヨンとは別の意味で切ない感じのお話が・・・
    いろいろ考えていますが・・・
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    切ない、ウンス切ないよう( T∀T)でも、きっとそうですね。彼女ならきっとこんな風に泣くでしょう。考えるでしょう。
    可哀想だけど今は耐えるとき、頑張れウンス!と願うばかりです( ノД`)…
    また覗きに来まぁす♥

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    毒で魘されている時、ヨンの死んでいる姿を見たのは幻影で、それを回避しろと言う暗示なのだと思った。
    何回か天門を潜ったという説もあったけれど、それには一度も触れられていないし、無理があるように感じたの、私はね。
    そこで、高麗で過した時を振り返り、ウンスが見た天界の物を残さなければならない。
    涙しながら、手帳に記している姿切ないです。
    ただ、ヨンの元へ戻る事だけを願っているウンス。意志の強い女性ですよね。
    ウンスがヨンの元へ戻るためには、この宿題を解きなさい!そして、この状況に耐えられますか?と言った試練が与えられたのだと思う。
    DVD見ながら色々考えてたら、頭ボーッとしてきちゃった( ̄ー ̄)

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    さらん様、こんばんは❤︎
    ウンスが、一番孤独で寂しい時……。
    ひたすらヨンを想い、ひたすらヨンの胸へと戻る事だけを願っている。
    切ないです。
    ヨンには、再会までの日々に、テマナや迂達赤が共に居ました。
    だけど、ウンスは、100年も前の治世に一人きり。
    「そこに、いる?」と何度問いかけたのでしょうか?
    私がウンスでも、ヨンの手の震えを無かった事にしたいと思う。
    そうなる事を避けられるなら、メッセージを残さずにはいられない。
    さらん様風に言えば、『ラスボス』のウンスは、誰よりも強いのだと思います。
    ヨンの想いや言葉の方が、ウンスのそれより、はるかに胸が締め付けられますから。
    私も早く、大好きな、あの声を聴きたいです❤︎

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    新しいお話し、ウンスのヨンの元に帰りたい必死な思いが伝わります。
    内容の濃さに感銘を受けます!凄いです(^o^)
    これから楽しみです。
    余り切ないお話しだと前回のヨンの切ない気持ちを思い出しますね。最後には二人のあたたかい場面が欲しいです。頑張って下さいね♪

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    あー、早く続きが読みたい衝動をこらえきれません^_^;
    離れていた時間の二人の切ない思いが、どういうふうに綴られて行くのか‥
    今後の展開はどうなるのか‥
    期待が膨らみます~

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    おはようございます(^o^)
    最近、表に出ると金木犀のいい香りがします。
    だからかな?
    ウンスのいる庵の庭にも金木犀の香りが
    漂っている感じがします。
    BGMはOSTの3曲目です(笑)
    ヨンはテヒを通してメヒに逢って
    さらにウンスに対する想いを強くしました。
    ウンスも誰かに出逢うのでしょうか?
    そしてその出逢いがさらにヨンへの想いを強く
    するのでしょうか?
    展開が楽しみです!

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    ただじっとして何もせず息を潜めて‥なんてウンスらしくありませんもんね
    ソッとして置いては貰えそうにありませんか?
    切なくなるんですね‥覚悟して読みます
    今日から10月ですね‥良い季節です

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    >ののさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    オンニ、泣くと惨めになると、チャン先生に
    言っていましたが。
    今は、どう思ってるんだろうなと。
    でも、ヨンの為に流す涙を惨めとは思わない気が
    勝手にしてますw妄想ですからー(;´▽`A“
    耐えるときですね・・・
    オンニは大丈夫な気がします。
    私も、覗きに伺います❤❤

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    >mayuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    ウンスオンニは、少なくとも自分の知らない
    恭愍王時代の高麗の旅(媽媽が攫われ
    王様が壊れ、ヨンが荒んだ)があることを
    もう、ソウルに戻った時に知っていた。
    パラレルには、気づいているわけで。
    心と、自分の動きが変われば、結果が変わる。
    意志が固く、もともと頭のいい女性が
    一生に一度の恋をした時、どう強くなるか。
    そこが書きたくて、このお話を進めているので
    伝わると嬉しいなーと。それだけ願います❤

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    >夢夢さん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    それは思いました。ヨンは、ホームにいる。
    ウンスは完全アウェイです。
    そこに触れる場面も、今後出て参りますが。
    もう、全て読んで頂いて、ご判断を委ねるしかないですが
    あの向日葵に続く最後の道を、書けると思うとドキドキです❤

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    >のりちゃんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    濃いですか?嬉しいです(●´ω`●)ゞ
    ここからは、もっと濃いです❤
    もともと医療系(だったはず)のお話を継ぎつつ
    恋も、そして手紙も、そしていろいろと・・・
    うう、この苦しい誤魔化し方よりお察し頂ければw
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >サチさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    今回は、ヨンの声はほぼ聞こえませぬ(;´▽`A“
    大好きなあの声が聴こえない寂しさを
    ウンス以上に抱えつつ、書き書きしております
    (ノ_-。)
    そんなお話ですが、よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >わいやーさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    金木犀の香りに心弾ませつつ、楽しんで読んで頂ければ
    これに勝る幸せはありません(*v.v)。
    秋も、冬も、そしてその後の春も書いた
    雪割草の後なので、
    季節の変わり目に、心が動きます。
    今回のお話も、季節が変わっていきます。
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >えみりんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    10月ですね❤
    スタートはあいにくの空模様ですが、
    金木犀も咲き、今月の終わりはハロウィン。
    楽しいイベントが山盛りのシーズンに突入です。
    御嶽山の災害は、気がかりですが・・・
    もう今は、無事に帰ることしか頭にないウンス
    精いっぱい、目立たないよう頑張るようです。
    その心がけや、良し。
    しかし結果は・・・この後、見えてくると思いますw

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