雪割草 | 14

 

 

兵舎に戻り門をくぐろうとした時。
俺は気配を感じて大護軍の前に出た。

大護軍はとうに気づいていたのだろう、そんな俺の肩を手で制する。
袖の中に隠した手刀を構えたのも、大護軍にはもう見抜かれている。

柱の影から偶然を装ってあの女が出てくる。
本当に気に喰わない。

「ヨン様。お戻りですか」
大護軍はその声に顎をほんの僅かだけ引くと、そのまま無言で通り過ぎようとする。
俺は大護軍とあの女の間に立ち、女がそれ以上近寄らないように牽制する。

大護軍があの女の脇を通り過ぎようとした瞬間。
炊事場から、兵舎の炊事長が出て来た。
「大護軍」
そう声を掛けられ、大護軍が足を止める。
「何だ」

炊事長は暫く逡巡していたが、やがて意を決したように
「最近、召し上がらないですが。私の腕が落ちましたか。
それとも、気に入らない料理を出しましたか」
真剣な面持ちで大護軍に尋ねる。

「そんなことはない」
それどころではないと言いたげに、大護軍はそう言って脇を抜けようとする。

「大護軍の体を守るには、食も大切です。
私の腕が至らぬせいで大護軍に何かあれば、王様にも大護軍にも顔向けできません。
不足なら役目を辞しますから、召し上がってください」
去ろうとする大護軍の背に、炊事長が言い募る。

 

厄介なことになった。
チェ・ヨンは頑固そうな料理人を前に、溜息を殺した。
飯などどうでも良い、腹さえ満たせば良いと正直に言えば、王様の御名まで口にしたこの男の顔を潰すことになる。
さすれば次の人間が決まるまで、またひと騒動だ。
その間兵たちにひもじい思いはさせられん。

「・・・判った。もらう」
結局こう言うしかない。

喜び勇んで炊事場に戻る炊事長に続いて、チェ・ヨンとテマンは食堂に足を踏み入れる。
テヒも炊事長について炊事場に入り、あれこれと雑用をこなしている様子だ。

テマンはその様子を凝視しながら、あの女が飯に何か混ぜたりしないよう全神経を尖らせる。
チェ・ヨンは顔を両の掌で拭い、上を向いて溜息を吐く。

さすがに少し考え疲れた。
俺には正面突破がやはり性に合う。
考えるのはチュンソクの役目だ。

いつ、そうするかだけが問題だ。

大きく吐いたヨンの溜息に、テマンがこちらを気にする。

テヒはテマンの注視が逸れたその一瞬に、竈の上に置かれていた鍋を、袖で払った。
思ったより勢い良く竈から落ちたそれは狙い通り、テヒの左足に熱い湯を零しながら大きな音を立て、床に転がり落ちた。

その派手な音に調理中の炊事長が驚いて振り返る。
「大丈夫か!」
そう駆け寄って来る炊事長にテヒは頷く。
さすがに無視はできず、テマンとチェ・ヨンも炊事場を覗き込む。

「医員を呼んで来い」
チェ・ヨンが炊事長に言う。
炊事長が頷き、慌てて調理場を走り出ていく。
「テマナ、雪を持って来い。調理場の盥を使え」
「は、はい」

テマンが調理場の水甕の横に置かれた大きな盥を手に、食堂から外に飛び出していく。

 

 

 

 

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16 件のコメント

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    このシリーズはヨンの気持ちを思うととても切ないですね。テマンがヨンのことを本当に家族の様に想っているのがとてもよく分かります。
    テヒにも早くヨンのメヒはの想いの深さを分かって、ヨンの幸せを願ってくれることを待ってます。

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    さらんさん
    更新ありがとうございます。
    そろそろ、ヨンも動き出しますか?テマン君の心配同様、私もヨンが過去の姿に戻ってしまわないか心配です

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    ヨンと二人で話をしたいが為にわざとしたのですね
    テマンも警戒していましたがヨンに指示されてついヨンの側から離れてしまいました
    でもヨンはもう大丈夫な気がするのは勘違いでしょうか?

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    >なんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ヨンの切なさ、テヒの一途さ、テマナの想いの強さ。
    皆、誰かの事を考えていて、誰も悪くないのに。
    困ったものです。
    寒さもそろそろ和らぐでしょう。春もじきに。
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >miiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    全てが解ける春も、もうすぐに。
    早く暖かくなれと、私も心より願います。
    テマナの心配もありますが、
    ヨンは何しろ、ああいう男ゆえ。
    肚を決めれば、正面突破です('-^*)/

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    覚悟を決めた途端、テヒの策略が。
    これが契機になれば良いけれど、ダラダラとテヒに引き摺られると辛い。
    何故、メヒが自殺した原因をか知ろうとしないのだろう。
    結局は、人を責めてる方が楽だものね。
    向日葵読んできて、冷えた心が温められてます。
    二人の再会で、萎えた心を奮い立たせています。そろそろテヒを蹴飛ばしても良いですか?( ・д・)/--=≡(((卍

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    彼女なりの必死の攻防線ですね・・・
    明日には、いろいろな事が進むと思います。
    冬来たりなば、春遠からじ。
    今回ほどこの言葉が身に染みたことも
    まさに身を持って体験したこともなく。
    春はすぐそこまで。
    あと少し、お付き合い頂ければ嬉しいです❤

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    テヒも、いろいろと仕掛けてきますね…(怒)
    こんな事してもメヒョニは喜ばん!!
    早く気づいてほしいな( •́ㅿ•̀ )
    まだしばらくは、やきもきしますね(T_T)

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    春の訪れを首を長~~~くして、おあずけ状態で待っております。朝になれば、、、な~んて思えば当然眠れるはずもなく(*v.v)。
    いやいや楽しみにしてスッキリとした朝をヨンと共に迎える準備をしときましょう。

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    さらん様、おはようございます❤︎
    テヒが、身体を張ってきましたね。
    これで、ヨンと二人きり。
    テマナはすぐに戻って来るはずなので、どんな策を考えているのか?
    でも、初めてテヒに出逢った時の心のざわつきは、すでに、ヨンは消化していると信じていますので……。
    多分、テヒを救いたいと思っているでしょ
    う。
    ヨンがウンスによって闇から救われた様に、テヒがヨンに救われたら、ヨンを愛してしまいそうで落ち着きません。
    ヨンの短く吐くため息が聴こえてきそうです。
    次回は、どんな形にせよ、ヨンの声が聴ける展開になりそうですね‼︎
    さらん様、待ち遠しいです❤︎

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    >mayuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    命の大切さを知り、剣の重さを知り
    イムジャによって再生した心を持つヨンです。
    mayuさまや皆様が信じるに値する男ゆえ。
    そうです。あそこに続く、今は助走。
    あったまりつつ、春をお待ちください❤

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    >ゆりりんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    もうじきです。
    テマンが気づき、テヒは動き、そして最後に
    ヨンの大鉈が振り下ろされるのも。
    春が来るまで、もう少し。

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    >nonさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    うわー、週末の土曜の朝は、まだ寝覚めが悪く。
    ほんのしばらく。もう少しだけ、最後の雪に
    お付き合い頂けると・・・嬉しいのですが。

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    >夢夢さん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    最近コメを拝読して、夢夢さまや皆様に
    いろいろ伝わっているなと。
    私の書き方に広がりがないのかもですが(苦
    まさに、次の話で起こるであろう展開を
    皆様が先に読んで下さると、
    ヨンにブレがないようで、嬉しくもあり。
    ヨンの大鉈は、次回。
    今は出るのは、溜息ばかりε=(・д・‵)

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