雪割草 | 1

 

 

【 雪割草 ~ あなたを信じています 】

 

 

メヒョニ。
チェ・ヨンを、メヒョニの元に、必ず、返してあげる。

約束するから。

だから、少し待っていて。
私が、チェ・ヨンの心を掴むまで。

 

******

 

あの方は去り 季節は巡る。

凍える風が雪を呼ぶ。長く厳しい冬が来る。
周囲は無音の白い闇、足音も呼吸も全て吸い取る。

永遠とも思う静けさの後、積もった雪はいつしか緩む。
木々の枝より滑り落ち、日差しに温みが戻りくる。
雪解け水が細やかに、川へと流れる音がする。

川の畔に色とりどりに、名もない花が咲き乱れる。
木々はのびのびと誇らかに、天に向かって手を伸ばす。
歩く肩へと柔らかく、静かに花弁が舞い落ちる。

枝を伸ばした木々にはやがて、青々と濃く葉が茂る。
その葉陰から鮮やかに、強く響くは蝉時雨。
足を止めれば耳の中、それより他に音がない。

秋はいつでも控えめだ。あれほどの蝉が鳴くものを。
夜になる頃その声が、興梠の音に変わっている。
静かな季節の変わり目に、こちらが頓着せぬうちに。

気づけばあの日の黄色い野菊が、あちらこちらに咲いている。

あの方を待つあの丘に。
皇宮の片隅。典医寺の薬園。
そして迂達赤の兵営の庭に。

 

******

 

大護軍チェ・ヨンは野菊の群れ咲く迂達赤の兵営の訓練場で、剣技の訓練をつけていた。
近頃は三月四月に一度しか皇宮には戻らず、それ以外の間は、常に北方に滞在している。

双城総監府を通じ、元より兵二千の派遣要請を受けた。
ヨンは開京滞在中の間は、迂達赤を始め兵の訓練に余念がない。

元国と奇皇后に対し、貸しを作っておくのも悪くはなかろう。
ゆくゆくは、王様の名分となる。

今もチェ・ヨンは訓練場に広がって剣を振る迂達赤たちの動きを、隙のないその瞳で見渡していた。
と思うと、ふと座より立ち上がり、兵たちの振る真剣の合間を、ゆるりと歩き始める。

「脇」
近くにいた兵の脇腹に、鬼剣の鞘の先を刺す。
「抜き身なら、死ぬぞ」
「は、はい!」

そう頷く兵の斜め横、別の兵の肩にチェ・ヨンは返した鞘を当てる。
「肩」
兵が頷く。
「腕を失いたくなくば、構えを直せ」
兵が額に汗をかきながら
「はい!」
と返答する。

迂達赤隊長チュンソクは訓練場の逆脇で、そんなチェ・ヨンの動きを目で追っていた。
決して迂達赤たちの腕が劣るわけではない。
内功の才はないものの、外功なら十分力はある。
第一迂達赤に入隊する際に、鬼のような大護軍の試技を通過した者たちだ。

その兵たちが振り回す真剣の隙間。
大護軍はまるでどこかへの散歩気分で、ゆったりと大股で歩いている。

大護軍の振る舞いのその傍若無人さに、チュンソクの昔の記憶が過る。
寝てばかりで、起きれば酒を喰らい、喧嘩と聞けば飛び込んで、相手を半死半生の目に遭わせ。

あの頃いつも共にいたチュソクもトルベも今は亡い。
唯一人正面より大護軍に意見をし、大護軍を止められるはずだったチャン侍医も。

医仙の帰りを待つ大護軍に限り、まさか。
あの頃に戻ってしまったということはないとは思うが・・・

大丈夫なのか。本当に。

 

 

 

 

新章【雪割草】開始です。

季節外れで申し訳ありません。

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18 件のコメント

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    さらんさんのヨン、降臨ですね♥
    楽しみに待っておりました!朝はチュンソクで、夜はヨンなんて私、興奮しておりますよ(*≧ω≦)
    ちょっと早い誕生日プレゼントみたいです♪(*>∇<)ノ私、来月なので♪
    出だしもウダルチの練習からだし、ホントにプレゼントだ…:*(〃∇〃人)*:
    有難うございまぁす♥
    最初はゆっくりとした時間が流れてますね。ここからゆっくりと速まって行くんでしょう♪
    又覗きに来まぁす(*^▽^)/★*☆♪

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    メヒの事?
    何故、ヨンを返すと言うの?
    メヒの妹分とか?出てくるの?
    ま~~ったく違ったらチョイ恥ずかしいf^_^;
    始まったばかりでは、想像もつきません(?_?)
    続きお待ちしています。

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    さらん様、こんばんは❤︎
    新章待っていました(*^o^*)
    向日葵以前、長い孤独の始まりですね。
    今回も、チュンソクの心配は尽きることが無い様で、悩ましい日々が続きそうな予感。
    でもヨンは、あの方が戻って来ることを確信しているはず……。
    あの方の帰りをただただ信じて待っているはず。
    かつての様に、心は凍ってなどいないはず。
    あ~‼︎ 早く次が読みたい(≧∇≦)
    本当に、いつか二人は再び寄り添う時が来るのか、このまま信じて待っていれば、天が定めた二人は逢うべくして引き寄せられるのか、突っ込みどころ満載です❤︎
    チュンソクを少し安心させてあげたいわ(^^)
    次回が楽しみです❤︎

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    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    お誕生日、おめでとうございます❤
    HAPPY ❤ヾ(@°▽°@)ノ ❤ BIRTHDAY!!
    最初は、これとは違うお話をUPする予定でした。
    理由は、これ、真冬のお話になるからです。
    昔から、漫画とか進行上仕方ないだろうけど
    夏にこたつ入った場面とか出てくるのが
    すっごい嫌いな子でしたww
    季節感、とか、旬、とかにこだわるタイプです(爆
    私もまた覗きに伺いますね❤

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    >じゅりママさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    うわーい❤読んで頂けて私も嬉しいです(〃∇〃)
    かなり季節感を無視したお話になりますが・・・
    赦して頂ければ、また覗いてみて下さい♪

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    mayuさまってば、恥ずかしがりやさん❤
    ウフ(●´ω`●)ゞ
    最後に、ああ、と思って頂ける
    そんなお話になっていたら、最高に嬉しいなと。
    一人、盛り上がり中です。

  • SECRET: 0
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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    今回は、久々の完全二次。
    かなり以前にUPはしていましたが
    今回の開始前に読み込んだら
    当時と、聞こえるヨンの声が少し違う事に
    自分が一番驚きました。
    どうやら、これまでのお話を通じて
    私のヨンには、少しずつ変化が生じているようです。
    出来れば、夢夢さまや皆様のご期待を
    良い方向で裏切れる方に成長しているように
    祈りつつ・・・(〃∇〃)

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    新しいお話が始まり、ドキドキ~ワクワクしております。私の住む地域は、今~秋が深まり、冬へ一歩ずつ近づきつつあるため、お話の中の季節にも、違和感なく入っていけそうです(^_^)
    続きを楽しみに、お待ちしています!

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    こんばんは(*^^*)
    いつも読ませて頂いてます。
    ステキなお話ばかりですね。
    チュンソク目線の百日草
    良かったです。
    新しい雪割草も楽しみにしています。

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    >まりもさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    おお、そうなのですね!
    秋が深まる今日この頃、お風邪など召しませぬよう
    暖かくして、このお話を読んでいただければ
    とても嬉しいです(●´ω`●)ゞ

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    >ともさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    さすがに初期迂達赤❤書き尽した感があるので
    しばらくは、カップル話になりそうです。
    ああ、でもやはり恋話をいろいろ考えてしまう・・・
    チュンソクも苦労させていますから(爆
    その時にはまた読んで下さると嬉しいです❤

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    冒頭部分が一番気になる部分です
    ここの『私』って誰だろうって考えてしまいます
    例えば彼岸の者かな、とか…
    すでにさらんさんワールドに囚われていますね

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    >あみいさん
    こちらにもコメありがとうございます❤
    うふふふふー(〃∇〃)
    良い意味で、期待を裏切れるお話に
    なっていることを祈りつつ。
    楽しんで頂ければ、嬉しいです。
    今回は、雪が降るんです。たくさん、たくさん。
    意味わからんですね・・・でも、降るんです(え

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