「無駄だと思うなら、同情しない自信があるなら見ればいいじゃない。ほら」
そう言ってこの人の前に足を晒したまま、心の中は今までにない程焦っている。
こうでもしなければ、二人でなど話せない。
あの男に言われた言葉が蘇る。
この人が忘れられないのは、別の人だと。
その人を待っているのだと。
そんなの嫌。そんなの駄目。
この人一人で生きていくなら側にいられる。
メヒョニが去った悲しみを聞いてもらえる。
メヒョニを失った痛さを分け合ってもらえる。
知らない誰かが横にいたら、そんなこと出来ない。
体を痛めても、罪悪感に訴えても。
メヒョニがいなくて悲しいと、この人に知って欲しい。
メヒョニがいなくて寂しいと、この人に言って欲しい。
誰にも言えなかった胸のつかえを、ようやく伝える人を見つけたのに。
また私一人になったら、どうやってそれを乗り越えればいいの?
チマを握り締める掌に汗が滲む。
唇を噛んでこの人の返事を待つ。
ヨンは窓の外から、テヒへと視線を移す。
女の素足か。
ふと思い出し、思わず目が緩む。
あの素足を剥き出しに、天界の荷を肩に掛けて。
正面突破で俺の診察の為に、迂達赤の兵舎に踏み込んできた方がいた。
体に回った傷の膿で熱が高く、調子は悪かった。
攫った罪悪感でこの胸がいっぱいで。
男たちを前に素足を平気で晒すあの方の無防備さに、頭より湯気が立つほど心が乱れた。
何ゆえに、あの天界の衣をあんなに切り刻んだのか。
どうせ裾が邪魔だったか、あちこち転んで破いたか。
そんなものだったのだろう。
そうだ、最初から安心などさせてくれる方ではなかった。
追いかけて手を伸ばし捕まえようとするたび、逃げようとしてきた無茶な方。
俺の為に意に染まぬ奇轍の屋敷まで出向き、毒使いと偽の婚儀を挙げようとした馬鹿な方。
この腕の中に戻って来ると知っている今、帰りを待つなどどうという事もない。
帰って来ると俺は信じている。帰れるとあの方も信じているはずだ。
俺は此処にいる。
知っておろう、イムジャ。
あの帯を俺が如何するつもりかも。
あの頃に戻るつもりも、あなたを置いて戻れるわけもない事も。
約束を違えるなど、毛筋ほども思わぬ事も。
それだけで良い。
あなたさえ信じてくれれば、俺はそれだけで十分だ。
テヒは素足を半ば晒したまま、目の前のチェ・ヨンの様子に目を瞠る。
目の前のこの人は私を見ていない。
そして、メヒョニの事も考えていない。
何を、何処を、誰を見て、そんなに優しく笑っているの。
テヒは思わず椅子から立ち上がる。
ヨンに寄るとその肩に手を置き、顔を覗き込もうとした。
「私を見てよ!」
そう言ったその瞬間に、ヨンの目が静かに色を変えた。
「二度は言わぬ」
その眸は雪の落ちてくるあの空より昏く、声は外の雪より冷たく凍っている。
「メヒの妹であろうが、次に触れれば斬る」
触れられるまでは判らなかった。
メヒによく似たこの妹。
あの頃の俺と似た思いのこの妹に、懺悔と憐憫の思いを抱いていた。
口に出して気が軽くなるならと、俺を恨むのも、気を引こうとする振舞いも黙殺してきた。
触れられる寸前、気配を感じ鬼剣に伸びた己の剣腕を宥めながら、俺は悟った。
その判断が誤りだったことを。
触れるほど近くに寄りたいと望んでいるなら、懺悔や憐憫で解決できるものではない。
憎まれようと、罵られようと、一向に構わぬ。
それで満足できるなら俺が全て受け止める。
俺の中のあの方さえ汚さぬならば。
しかしこの妹は、今その線を越えた。
本気だ、この人は。
伸ばして拒まれた手をそのままに、テヒはヨンを見つめた。
メヒョニの事も、きっと今ではこうして拒むのだろう。
この人に触れられるのは、この人が許した人だけだ。
その人に向かって笑ったんだ。
この人が待っている人。
メヒョニとは、別の人。
どこかで甘えていた。メヒョニの気持ちを言い訳に。
今まで誰にも言えなかった恨み言をぶつけても、全て受け止めてくれたこの人に。
そんな事本当にメヒョニが望むわけではないと、心のどこかで分かっていたのに。
思わずこの人に触れたのは私の欲。
拒まれたのは、私の想い。
テヒはそのまま無言でチェ・ヨンに背を向け、扉を開け、部屋を出ていった。

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メヒの為と言いながら実はやはり自身の為
ウンスに出合う前のヨンならば傷を舐めあえたのかもしれなかった?
でももうヨンは違います、今はここにいなくても心の中にいつもウンスが息づいているのです。
もう観念したよね、テヒ?
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ここから雪がとけてヨンにもメヒョニにも春がやってくることを待ってます。
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変わらないウンスへの思い!ホー("⌒∇⌒"
でも、今までとは違う切なささが・・・・
早く帰って来てあげて、ウンス!
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大切なメヒとの思い出を汚していく妹にイライラしていました。
ヨンを信じていましたが、正面突破?
スッキリしました。
テマン、安心していいよ~
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さらんさん、
とてもいい話ですね・・・
何と言ったらいいのでしょうか・・
少しづつ・・少しづつ・・ヨンの思いが・・
何かを通して、確固たる物に変化し・・
強くなっていくとでもいったらいいのでしょうか・・
自分の心と真正面から向き合い・心の中の
ウンスを生かすとでもいうのでしょうか・・
とても素敵なお話です。
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初めてコメントさせて頂きます
なんというヨンの想いの深さ…
どこまでも澄み切った、一点の曇りも無いその想いに、ただひたすら心が震えました
ちょっとでも揺れる!?と思ってしまった濁った自分反省(-""-;)
目が離せない、本当に素敵なお話に会わせて頂いて、ただただ感謝しております
今後も読ませて下さい
よろしくお願いいたしますm(__)m
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テヒは、ヨンに縋り寂しさ辛さから逃げたかったのね。
でも、それだけでなく、ヨンに想いも抱いてしまった。
ヨンの心には、ウンスしか住んでいないのだから、当然テヒは拒絶される。
憐憫は、テヒの場合逆効果、付け上がらせるだけだったね。
死ぬほど苦しみ足掻いて、ウンスに依って生き返った魂は、ウンスしか受け入れない。
なんだか、ほんとコレだけで心震えます。
3度読み返したf^_^;
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こんばんはです!
深い~深いです。。
ヨンのウンスを想う気持ち!!
私は、浅はかでした。
ヨンを信じるといいながら…
さらんさん、私の拍手の音聞こえます?
コマスミダでございまする(*^o^*)
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ようやくヨンの本気がわかって良かった!
一安心だけど、テヒがやけを犯さねばいいが、
また問題が増えるのもこまる!
素直に諦めてくれれば良いが、テマン頼むぞ。
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>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
たとえ、ウンスオンニと出会う前でも
テヒは違う気がします。
今となっては、本人があそこまで言っていますしww
観念するもしないも、あれは変えられませんね。
さすがに女人を斬るシーンは書きたくないです・・・(爆
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>よっしーさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
雪は解けます。明日の夜w
時間限定、何だそれはーって感じですが(●´ω`●)ゞ
長らくかかった雪解け。
明日までお付き合い頂けたら嬉しいです。
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>モモさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
もう、そもそも揺らぐという設定が全くなく
うーん、ちょっとばかり揺らいだ方が良いのか?と
実はUP中、バッサリ手直し考えたくらいでしたw
もうすぐです。春が、やってきます。
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>hitominさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
正面突破、考えていたヨンですが、
その前に触れられ、切れてしまいました。
あーあ。
そして明日朝、ヨンのテマナへの質問に
テマナが自問自答。とことん良い子です。
安心して良いよ~ですо(ж>▽<)y ☆
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>カンス百合子さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ヨンが、七殺の征伐の最中、
あの方こそ生を生きている、それも輝いて
と言っていましたが。
ヨンの中で、誰よりも輝いて生きているウンスオンニだからこそ
一緒にいないときでも、生きているのでしょう。
ヨンの心の中で、ヨン自身が生かしているかと。
夜のコメ返では、語りの多くなる私ですw
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>chamiさん
こんばんは❤初コメありがとうございます。
揺れませぬ、何しろchamiさまや皆様が愛するヨンです。
揺れるのも、二次ならありかもですが、
私の中でどう捻っても考えられず(;´▽`A“
その代わりうちの信義は、遊びやギャグ要素が
あまりにも、あまりにも少なく・・・
お疲れの時など、結構読み進むのが
キツいのでは、と、心配になります。
こんな感じで細々と書いております。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>mayuさん
こんばんは❤こちらにもコメありがとうございます。
もう、足蹴フラグ立ってます。
最初から立っていたのに、見ぬふりをして
どうにかしようと思ったのでしょう・・・テヒは。
三度のリピート、ありがとうございます❤
明日はテマナが、大護軍の質問に回答します。
それもまた、テマナっぽい回答でw
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
こちらこそ、拍手を頂き
カムサ トゥリムニダヽ(*・ω・)人(・ω・*)ノ
ヨンは大丈夫ですと、今まで謎のコメ返ばかり、
わいやーさまにも皆様に残しましたが、
春も、もうすぐです。
ヨンらしく、正面突破で終わらせます。
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>ko_sayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
いままで躱してばかりだったヨンの
あの本気の殺気を目前で見て、
これ以上どうにかしようとするなら
テヒも大した女ですが(爆
テマナは、大護軍の質問にどう答えるか。
明日の朝(いえ、今日の朝
判明すると思います。私が起きられればww
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さらん様、こんばんは❤︎
待っていました‼︎
ヨンの甘~い長台詞を❤︎
なんて愛しげに語るのでしょう。
テヒの行動は 、思惑に反して、尚一層、ウンスへの変わることない愛をヨンに思い知らせてしまいましたね。
自らに負った傷よりも、迂達赤たちにまで素足を晒したウンスの無防備さが、ヨンには余程こたえたのでしょう。
人払いさせ、壁ドンで追い詰めて。
自分以外の誰にも見せたくはなかったから。
ウンスとの想い出が、ヨンに優しい微笑みを浮かべさせていたのですね。
ヤキモチに胸がキュンキュンしちゃいます❤︎
テヒは、ヨンを憎んでいたのでは無く、その反対で、メヒを理由に、メヒの愛した人と一緒に居たかったのですね。
テヒの為でも有ったのかも知れませんが、鬼剣に手を掛ける程のヨンの拒絶が凄く嬉しい。
ウンスに触れる事が出来る男はヨンだけで、ヨンに触れる事を許される女はウンスだけ‼︎
苦しくて、寂しいだけの四年ではなかった。
戻って来るのを信じて疑いもしていない。
だから再開のあの時、ヨンはあんなに穏やかな顔で微笑んでいたのでしょうか?
私の願望と妄想は今夜も尽きそうにありません❤︎❤︎
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納得行きました。凄く深い心の中を書いて下さり、ヨンの思いがわかりました。
全くの揺らぎなど無いことが。
お話しの深さに感銘を受けました!
ありがとうございました。これからも楽しみにしていますね。
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>夢夢さん
こんにちは❤コメありがとうございます。
春が、ようやく来ます。
いろいろな言葉が胸に在りますが、
もう、春が来るだけで嬉しいです。
皇宮でも一人の兵舎でも、ウンスオンニを
想い続けたヨン。
だからこそ、このお話を書くのは、私の中で
絶対はずせませんでした。
夢夢さまにも皆様にも、途中悲しい思いをおかけしました。
最後、ああ、と思って頂けるでしょうか。
今夜、その答えが出ます。
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>のりちゃんさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
感銘など、とんでもない事ですΣ(=°ω°=;ノ)ノ
揺らぎません。王様の前ですら、ウンスオンニを
思い出す、不届き者の忠臣ですww
他の女の前で思い出すなど、朝飯前(*゚.゚)ゞ
今夜、最終話です。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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いつも丁寧にお返事下さりありがとうございます!凄く近くに感じる事が出来て嬉しいです(^o^)
これからも宜しくお願いします。
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>のりちゃんさん
こちらにもコメありがとうございます❤
何をおっしゃいますか!
私の方こそ、のりちゃんさまや皆様のコメで
皆様を近くに感じられて、
こんなに嬉しい事はありません(*v.v)。
いつも可愛がって頂けて、覗いて頂けるだけでも
身に余る幸せなのに、
お時間を頂いて、ぽちぽちして頂けるなんて
こんなお話でも、書いてて良かった!と
心より、思います。
この気持ちは、お話でしかお返しできませんが
少しでも届くように、願っています❤❤