2014.09.23 ■雪割草【長編】さらん

雪割草｜ 8

「どういうことだ！」

いきなり大護軍の面前に呼び出され、詰問された係官は顔色を失っていた。

「どういう、とは」
係官が大護軍に向かい、どうにかそれだけ問い返す。
「お前が連れて来たあの炊事係の中の女。
身元は確かと言ったろう！」
｢た、確かです。調べています」
係官は慌てて懐から、名簿らしき書面を取り出した。

「炊事係の女なら一人だけです。名前はタン・テヒ。両親は役人に殺されたそうですが。
姉と伯父が、一時期赤月隊にいたとの事です。
本人は当時ほんの子供だったので別の親戚に預けられていたそうですが、何か･･･」

係官がようやく言い終えるか終えぬうち。
チェ・ヨンは無言のまま椅子から立ち上がると、足音高く大股で執務室を横切り部屋を出ていった。

炊事場に突然現れた場違いな大護軍の姿を見て、当番の兵たちは呆然としている。
隅の竈の前で火を焚いていたテヒが、そのヨンの姿を見て竈の前から腰を上げた。

ヨンが顎をしゃくって
「タン・テヒ。表に出ろ」
と声を掛ける。
テヒは頷くと炊事長に頭を下げ、ヨンについて表に出た。

雪の中。炊事場の外は二人以外に動く影もない。

「わざわざ、ここまで」
テヒがそう言いかけるのを、ヨンは一睨みで黙らせる。
「メヒの妹だな」
「さすがヨン様、お耳が早いですね」
テヒがそう言って苦笑する。

「目的は」
ヨンがテヒをまっすぐ見据えて問う。
「思い出してほしいだけ」
テヒは目を逸らすこともなく、正面からそのヨンの視線を受ける。

「メヒョニは死ぬ前、私にも何も言わなかった。寂しく一人で死ぬなんて許せない。
チェ・ヨン、あなたがそんな寂しいメヒョニを忘れるなんて許さない。
いつだって思い出してもらう。
メヒョニがあんなにあなたを愛していた事。
二人は一対の腕のようだと言っていた事」

一息に言い放ったテヒの言葉を聞き終わり、ヨンは静かに目の前のテヒに問うた。

「･･･言いたいことは、それだけか」
「そうよ」
頷くテヒを見てから、ヨンはその場を立ち去った。

あの時の俺と同じだ。
俺を一人置いて逝ったメヒ。
冷たく固いメヒを見た時、俺は己を責めた。
メヒを見つけるのに手間取った己を。
家族を守ると交わした隊長との誓いを果たせなかった己を。

俺を責めれば僅かでも楽になるか。
それならば、存分に責めれば良い。
いくらでも受けてやる。

昏い空から、雪は降り続ける。
気付けば脛を覆うほど積もり始めていた。

己の声さえ届かない。
白い無音の闇が、ヨンを包み込む。

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つらい過去が・・・！
また闇の中に入ってしまうのヨン!
胸がしめつけられる思いです(>_<)

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