坤成殿へ真直ぐ歩を進め、王妃媽媽の御部屋の前、守りに立つ叔母上を見る。
此方の気配に気付き僅かに眉を動かすその顔を見て、俺は目礼した。
まずは王妃媽媽付き筆頭尚宮、武閣氏隊長のチェ尚宮に対し。
次の瞬間声を顰め
「荷の件で」
それだけ呟くと
「聞く。が、まずは王妃媽媽にお礼をお伝えせよ。今王様もいらして、ご一緒に居られる」
叔母上は小声で返すと次の瞬間声を戻し、御部屋の中の王妃媽媽に呼びかけた。
「媽媽、大護軍チェ・ヨンが参っております」
「入って頂け」
「は」
お返事を聞き、目の前の扉をこの手で開く。
「おお、大護軍、来たか。ちょうど王妃とそなたらの話をしておった。医仙は如何だ」
叔母上の言う通り、王妃媽媽のお部屋の卓前には王様が悠々と腰掛けていらっしゃる。
「大護軍、ようこそ。心配しておりました」
王妃媽媽が心配げに王様の御隣で繰り返される。
「医仙は問題なく回復してきております。
此度はご迷惑をおかけし面目ございませぬ。
また過分なご厚意を頂き、心苦しいばかり。
どうかもう、お止め頂きたく」
俺がお伝えし頭を下げると、王様が苦笑いで王妃媽媽に向き直られた。
「のう王妃、寡人が言った通りであろう」
「・・・はい、王様」
「もう止めておきなさい。元気になればまた医仙と菓子でも茶でも楽しめば良い。お分かりか」
「・・・はい」
「それまでは寡人と共に楽しもう。午餐の菓子でも果物でも、王妃の好きなだけ付き合う故。良いか」
「はい」
御二人の和やかな会話のご様子から目を逸らす。
最後の王妃媽媽の笑み声に、今は此処にいないあの方が重なる。
王妃媽媽の御使い物の一件はこれで終わりそうだと胸を撫で下ろす。
王様が丸く収めて下さったお蔭だ。
俺の断りにくさまで見越して、ご配慮頂いたか。
ほどなく王様と王妃媽媽の御前を辞したヨンが、媽媽のお部屋より表に出て来る。
「終わったか」
「ああ。叔母上から王妃媽媽を止めて頂く肚だったが、王様の一言で問題なく」
安堵したような声でヨンが頷いた。
「媽媽は医仙が倒れたこの数日、本当に御心を痛めていらした。医仙は、医仙はとな。
ご自身で典医寺まで行こうとされて、慌てて御留めした。
御心が晴れるならと、御使い物については敢えてそのままにして頂いた」
「そうだったのか」
「それしきの事、慮れ」
一気に小声で捲し立てると、目の前のヨンは反論することもなく頷いた。
「そうだな」
「ほう。素直な事だ」
「俺は何も知らなかったんだ、叔母上。
知らなかったと、今思い知っている」
「知ったつもりで何も知らぬまま一生を過ごす愚か者より、万倍ましだ」
その声にヨンは可笑しそうに噴出した。
「俺もそうなるところだった」
言いながら、空を見上げた。
朝より雲が低くなっている。
そして凍てついた風の中、確かに感じるこの匂い。
「あの方が良くなれば、またゆっくりと礼をする」
「お主らが問題を起こさずいれば、それが何よりの礼だ。この馬鹿者どもが」
苦々しく吐き捨てる叔母上の言葉に笑う。
「また来る」
帰り際。迂達赤の兵舎へ立ち寄る。
「大護軍!!」
門の歩哨が離れたところから俺に気付き、大声で呼ぶ。
「大護軍!!」
「大護軍が戻っていらしたぞ!!」
「大護軍!!」
「お久しぶりです大護軍!!」
兵舎のあちらこちらで叫ぶ奴らが、我先にと俺の許へ走り寄る。
「煩い!全員持ち場へ戻れ!」
声を張ると叫んでいた迂達赤らは嬉しそうに大きく笑みながら、各自の持ち場へ戻って行く。
最後の一人に
「隊長は何処だ」
「私室にいらっしゃいます」
そう聞いてチュンソクの私室へ足を向ける。
「入るぞ」
声を掛けると同時に部屋の扉を押し開く。
「大護軍」
チュンソクが腰掛けていた椅子から慌てた様子で立ち上がった。
「どうだ」
「こちらは変わりありません。医仙は」
「だいぶ良い。心配かけたな」
「いえ、俺は」
「お前の蹴りで腰が痛い」
・・・来た。俺は背筋を伸ばす。
「チュンソク」
「は!」
「感謝する」
「・・・は?」
大護軍はにやりと片頬で笑む。
「あそこで派手に蹴り飛ばされねば、今頃あの方と共にはいなかったかもな。
蹴り飛ばされて礼を言うのは初めてだが、感謝する、チュンソク」
そう言って俺を見て
「蹴り飛ばしてもらって」
ゆっくり繰り返す、これは絶対にわざと言っておる。
「大護軍」
「判ってる」
「・・・は」
俺は項垂れるチュンソクに伝えた。
「戦になる」
突然の言葉に、俺は大護軍を凝視した。
「は」
「遠くはない。昨日テマンにも伝えた。冬が終われば恐らく。
心積りはしておけ。
まだ兵には伝えるな。気取られるな。
動揺させる。鍛えだけは抜かるな」
「分かりました」
「以前から伝えていた通りだ。密偵より連絡があれば改めて伝える。
王様にもお伝えせねばならん」
「は」
「ではな」
大股で扉に向かい、最後に振り向いて大護軍は言った。
「今宵は雪が降るかもしれん。歩哨の配置を考えろ。
外套と長沓の用意もな。早めに対処しろ」
そして扉から出て行った。
その声に俺は窓外の冬空を眺めた。

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このギャップがたまらないっ( 〃▽〃)
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さらんさん、風邪どうですか、喉痛いままですか?昨日から急に冷え込んできました。温かくして保湿して休める時間にゆっくりしてください。無理に更新なさらなくてもいいのです。
ヨンも人付き合いについてやっと大人になってきたのではないでしょうか。叔母様、王妃様、王様、チュンソクからの思いやりや心遣いがやっと理解でき感謝する気持ちになったこと良かったです。
ただ嫌な予感が近づいていますね。今はまだヨンとウンスの温かい関係にまどろんでいたいです。
お大事になさってくださいね。
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分かってくれていて嬉しい♥チュンソクも良かった~♥
でも戦が始まるんですね、…えっと、私個人は嬉しいですが♪
ヨンとかウダルチとか♥アクションお待ちしてます゚+。:.゚(*゚Д゚*)゚.:。+゚
ウンスにはとても申し訳ないのですが(;´Д`)´д`);´Д`)´д`)
また覗きに参ります♥
(昨日あちこちでブログ消えちゃう事件があったみたいですけど、9が消えちゃったのも、そうですか?一体なんだったんだろう~( T∀T))
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風邪ひかれたんですね。喉の痛みは辛いでしょう。看病に行きたいくらいです。土日はゆっくりしてくださいね。 周りの人とのかかわりで、今まで知らなかった事に気づき成長するヨン。戦を勝ち抜くには武術だけではダメ、後世にまで名を残す将軍になった過程を見ているようです。 韓国・中国では人気がなかった信義が、放送から二年経った今、日本で人気があるという不思議な現象。この話題で益々信義のファンが増えるといいですね。
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さらん様、こんにちは❤︎
昨日、9話が無くなって驚きました。
今は普通に戻っているので安心です。
いよいよ、戦が近いのですね。
その前に、お互いを確認出来てホントに良かった。
ヨンは、早くお家に帰りましょう(*^_^*)
やっぱり、さらん様の書くテマナに、ヨンは警戒していなかったのですね‼︎
納得です❤︎
Yahooの関連サイトで、GYAOと言う動画サイトを見ていたところ、無料配信もあるのですが、信義は有料配信で、第1位を獲得したらしいとの記事を見ました。
ここに来て、ミノ氏と信義の話題に触れられるのは、とても嬉しいです❤︎
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こんにちは!さらん様。
チュンソク忘れられてなくて
よかったですね~(*^-^*)
ヨンからの感謝の言葉に、
ホッと胸をなで下ろしたのも束の間
「戦」の言葉に、緊張感が走りましたね。「戦」…私も参戦するかのようにだんだんと緊張してまいりました!
心の準備‥しておきますよ!
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>トネリコさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ギャップはたまらないのですが、
チェ・ヨン戦闘の十年がそろそろ、やって参ります・・・
書くにもどうか、と悩みます(ノ_-。)
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>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、周囲が二人に対しとても協力的。
都忘れでは、その変化にヨンが苛々している部分も。
周囲の動きに戸惑いながら、ウンスに手を引かれ
明るいところに導かれる@さらん設定で御座います。
ただここからは、激動の数十年。
戦わせてばかりで、書く方も迷い、
未だに年表にUPしておらぬ状態です。
幸せなものは、どんどん上げてしまっていますが
あれだけでは明らかに終わらぬ模様・・・(ノ_-。)
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうだったのですか!
コメを承認UPしようと思いページを見たら
「あれれれー」状態でしたw
下書きで残っていたから良いものの、消えていたら、
皆さまのコメもすっ飛ぶところでした(゚ー゚;
前半はアクションはなしですが、後半は白兵戦
ヨンの鬼剣もトクマニの槍もテマナの手刀も
チュンソクの手縛も、冴えわたる・・・予定・・・未定・・・です。
余計な奴らも、もろもろ出て参りますが。はい。
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、確かになぜ日本でこれほど・・・と。
アメリカで受けるなら、まだ理解できます。
あちらはサムライ(ではないが、奴らにその違いは
全く理解できぬでしょう)もの=SO COOL!な
風潮が、未だに確実にあり。
着物(らしきもの)を着、刀(状のもの)を振れば
それは彼らにとってはOH サムライ!なわけで。
百歩譲って、中国はまあ、信義の中での
元の立ち位置に複雑な心理があるやも、と思えます。
でも韓国は、お得意のヒーローものです。
内功ぶっ放す、韓国軍戦艦:崔瑩の由来の方。
なのになぜ駄目だったの?うぇよ?です・・・
けれど日本での信義の人気再燃、
町行く女性の方(のみならず、男性にも)全員に
ヨン、いいっすよ!と言いたくて堪らぬ私としては
これは嬉しいです!!
有料無料にかかわらず、地上波でもCSでも
無料動画サイトでも
YOUやっちゃいなよ!と、ジャニーさんばりに
放送をお願いしたいです、本気で。
はあ、嬉しすぎ&風邪の熱で、興奮いたしました・・・
突然の熱弁、まことに失礼いたしました(*v.v)。
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
はい、うちのテマナは、天地がひっくり返っても
ヨンに弓引く男ではないので、ヨンにとっては
もう既に、ウンスと並んで家族なのだと思います。
あの悋気男・ヨンが、テマナに関してだけは、完全に武装解除( ´艸`)
ただ、やはりテマナはヨンの唯一の私兵、ウンスオンニを守るより
させねばならぬ役目も、いろいろあるのでしょう・・・。
おおおおお、そうなのですか!
やはりヨンには、一位、とか最上、とか無敵、とか
そんな言葉が似合います・・・:*:・( ̄∀ ̄)・:*:
さあ、今日もこの貴重な情報で検索検索!
夢夢さまや皆様からのこうした情報だけが
日々の私の殺伐とした暮らしを、支えて下さいます❤
さもなくば、多忙に紛れ、ミノ氏の情報も検索せぬ私。
全くダメダメです。反省です。
お話書くばかりでなく、もっと建設的にならねば!
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
私も書いて、身裡にびりと緊張感が。
前半はそれでも緩やかです。
そして次からの新章は、今までとは全く違う形態で進行します。
確実に、年表に添っているので、ヨンがひたすら
血を流し絶叫する、という方法ではなく。
他のお話と絡みながら、序破急を成す形態になります。
今こうしてお伝えしても、何言っちゃってんのこの子?状態ですが・・・
読んで頂ければ嬉しいです。
しかし、その前に、まずは一服処最終話を。
次回からは、一服処はアメンバーさま限定に戻さぬと、
とんでもない事になると、身に染みて、実感いたしました。
全く一服できず・・・練らぬまま話は延び・・・不覚・・・っっ!(´Д`;)
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>さらんさん
ヨンのすべてを知りたいです。
すべてを受け止めたいので書いてほしいです(⌒‐⌒)
ありがとうございます
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コモも、ワンビを思って諌めなかった。
ワンビは、本当にウンスを慕っているのですね。
そして、チュンソク、ヨンに感謝されつつもしつこいほどの「蹴り飛ばしてくれて・・」に笑った~
何か含みがありそうで、チュンソクにしたら怖いよね(笑)
二人が元に戻れたのは、チュンソクの思いが通じたからよ。流石チュンソク、髭女房殿でした。
天候を読み指示も的確なヨン。部下を思い遣る心は、慕われている事からもしっかり伝わってきます。
戦は、避けられそうにありませんね。
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>トネリコさん
こんばんは❤コメありがとうございます
うう、ありがとうございます(ノ_-。)
中国の元時代の資料に、崔瑩将軍は
「鉾で突いても突いても死なず」
という一節があると、何処かの文献で読みました。
えらく強い武将だったのは、事実のようです。
今は、そこに至る通過点という感じです。
書けたら良いなー、と、願っています(*v.v)。
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>mayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます
戦はもう、歴史にも残っているので
書かないわけにもいかず(;^_^A
そもそも最終話を、1388年に設定したからこそ
書かなければならぬわけですが。
もう結婚とかでやめておけば
超HAPPY END❤めでたしめでたし、で
終わったはずなのですが・・・。
あれです、ヨンは「某は、執念深い性質(たち)でして」
次回人間兵器・戦版でも、こりゃー執念深いわ・・・な場面があります(゚ー゚;
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>さらんさんへ
そうなの?
楽しみにしているわ(^O^)
何があろうと、70歳以上生きたんだから凄いと思います。
そんなヨンの生き様を書いて下さるんですね。
読んで、色々教えて頂くわね(^人^)
月・火は、横浜時代の友達が遊びに来るし、ホテル泊まりで遊ぶのでコメが遅れます。
ガラケーで登録していないので、残念!
・・・と言うか、PCと上手くリンク出来ないのよね(-。-;)
何時も力作、お疲れ様ですm(_ _ )m
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>mayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ふふふ、そうなのです。
おお、お友達との邂逅、楽しんで下さいね❤
私も久々に、友達と会いたいなー・・・
我慢して、skypeでもしもしします(;^_^A
ガラケーリンク、スマホとはまた違うのですね、きっと。
週明けにでもお時間があれば、また覗いてみて下さいませ❤