「ここ困ります」
「そう言われましても、王妃媽媽よりの御使い物で」
「ででも、困ります」
「私共もこのまま帰る訳には」
手裏房の酒楼より折り返し宅の門まで近づく頃。
押し問答の声は、此方まで届いていた。
テマンが何かを懸命に断り、それに対して使者が何か告げている。
「どうした、テマナ」
「大護軍!お帰りなさい」
「大護軍、お邪魔いたしております」
媽媽の坤成殿で幾度か見かけたことのある武閣氏隊員が数名、此方へ頭を下げた。
後方の武閣氏は大きな荷を抱えている。
「何の騒ぎだ」
「王妃媽媽とチェ尚宮様より、御使い物です。この文を大護軍にお渡しするよう言付かりました」
先頭の武閣氏が俺に一通の書簡を渡す。
俺が指先で開けば叔母上の手蹟にて
「医仙への御使い物、断らぬように」
そう書かれているだけだ。
「御使い物」
「はい、故にお受け取り願えませぬか。先程よりテマン様にそうお伝えしているのですが」
「で、ですが大護軍がいないのに、勝手に受け取るわけにもいかずに」
「判った。感謝する。有難くお受けするゆえ、今回は引いてくれるか」
俺がテマンと武閣氏に平等に声を掛けると、奴らは全員ほっとしたように頷く。
そうだ。静かに帰ってくれ。
俺のあの方が起きて騒ぎ出さぬうちに。
武閣氏から渡されたその荷の尋常ならざる重さにも驚いたが。
取りあえずテマンと手分けし受け取ると、俺達は母家の居間に荷を運び入れた。
開けてみると中からは、惣菜や菓子や果物が詰まった重箱が出てくる。
それも普段開京の市に並ぶようなものではない。
王妃媽媽や王様が召し上がる為に水刺房で拵えるような、民には縁の無い菜や菓子や、遠方の地の果物。
その他にも茶葉や紅参、精のつくものがぎっしりと詰まっている。
恐らくトギか侍医経由で、あの方の食欲のなさが露呈したか。
しかし召し上がるのはあの方一人。
幾らあの方が旨そうに召し上がるとは言、馬や牛でもあるまいに、これほどの量、どう消費せよと。
いや、王妃媽媽の御心遣い。
下賜されたものを無駄にしようとは決して思わぬ。
畏れ多くもこの量の多さが、王妃媽媽のあの方への御心遣いに比例していると思う。
テマンも同じ事を考えたのだろう。
今の卓の上に華やかな彩で並んだ品々を見て仰天している。
「大護軍、これ、医仙一人で」
「これほど喰える訳がない。あの方が腹を壊す」
「はい」
「・・・・・・」
この上、マンボの粥が届く。
良い事だ。良い事だがしかし、俺達だけではどう考えても喰い切れん。
考え込みながらひとまず重箱に蓋をし、寝屋を伺いに行く。
扉の数歩前より気配を殺し静かに扉を開けるとあの方は布団の中、小さな寝息を立てている。
部屋を進み寝顔を確かめ、そっと額に触れるが熱いとは感じぬ。
布団から出ている手を握り、己の頬に、頸に当てて、初めていつもと同じ温かさを感じる。
その手を布団にしまおうとそっと握ったその時。
この方がううん、と小さく呟き、俺は身を固くして、じっとその寝顔を見つめる。
大丈夫か。よし、大丈夫だな。起きてしまうなよ。
もう一度息が深く緩やかになるのを確認し、息を殺して立ち上がる。
部屋を横切り扉でもう一度振り返り、ゆっくり眠れと胸内で呟いて、扉より滑り出る。
「ヨンア、粥だよ」
「済まんマンボ。感謝する」
粥の鍋を受け取ると、俺はマンボに頭を下げた。
「礼はいいから。天女はどんな具合だい」
「先程覗いた時は、静かに眠られていたが」
「そうかい、ちょっと失礼するよ」
厨の三和土で沓を脱ぎだしたマンボに、俺は小声で頼みこむ。
「静かにな。起こすなよ」
「分かってるよ。何だいヨンア、あんたも随分とおっかながりになったもんだ」
「当然だ。愛する女人が目の前で紙のように白い顔で倒れてみろ。
あの毒の際と言い、此度と言い。毎度此方の心の方が止まるかと思う」
「・・・そうかい」
マンボはそれを聞いて、珍しくそれだけ言った。
「そうだったのかい」
「・・・おう」
俺が頷くと妙に晴々した顔で
「さて。じゃああたしはちょっと、天女を見てくるよ」
「ああ、頼む」
部屋に入ると、静かなもんだ。
天女は罪のない顔でくうくう寝てるし、部屋をざっと見渡しても不足はなさそうだ。
枕元にはご丁寧に、水盆に入った水やら手拭いやらが置かれている。
まだまだだね。
心配なら部屋で堂々と看病できるくらいにならなけりゃ。
起こすのが怖いなんて言ってるようじゃあ、まだまだだ。
「ヨンア」
一応は気を利かせ部屋の外に出て呼ぶと、奴が居間から急ぎ足でこっちへ来る。
「何だ!」
「何声を顰めてるんだい、あんたの天女は後生楽にくうくう寝入ってるよ。
部屋の中にいてやんな。うろうろされる方が却って気配で起きるってもんだ」
「起きたらどうする。まだ休めと言われておるのに」
「あんたがまた寝かしつけてやんな」
「邪魔かもしれんだろ」
「邪魔だって言われてから考えな」
「・・・そうだな。判った」
柄にもなく、素直だねえ。
「そうだ。マンボ、今暫し話せるか」
「構わないけど、何だい」
答えたマンボを、俺は居間へ呼ぶ。
「あの方が起きてから相談する故、本決まりではないんだが、人を雇おうと思ってな」
互いに腰を据えるなり持ちかけると
「そりゃ良いね、あんたも天女も忙しい御身分だ。こんなでかい家が昼間無人じゃ、物騒だしねえ」
「ああ。留守を守る働き手が欲しい。いつもテマンに頼るわけにもいかん。
あいつにもこなしてほしい役目がある」
マンボはその言葉に深く頷いた。
「離れもたっぷり部屋が空いてるし、良いじゃないか、いろいろと。
取りあえず声を掛けておいてやるよ」
「ああ。但しあの方が納得したらだ。故に三日、待ってもらえんか。答が出れば伝える」
「はいよ、分かった」
そう言って立ち上がったあたしに、ヨンが
「マンボ」
声をかけ立ち止らせた。
「何だい」
「判ってるとは思うが」
何だろうね。身元が云々だのという下らない事なら文句の一つも言いたいねとヨンを見れば。
この男は至極真剣な面、その目で言った。
「女人か、家族連れを探せ。男一人は絶対にやめろ。
力仕事なら俺かテマンがやるから」

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女人だけ雇ったらウンスが嫌がるとは思わないのかな?私は私のいない家に夫と女性の二人きりは考えたら嫌ですよ。
大丈夫?問題ない?
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食べきれない位の食べ物たちはいったどうなるなかな~?やっぱり、ウンスのお腹に入っちゃう?
食いしん坊の私の興味は今そこんところがとても知りたい❤
また覗きにきます( ̄▽+ ̄*)
マンボ姐さん、いい仕事してますね~♪
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私もお見舞いに行ってオタオタしてるヨンを見てみたい。いや、使用人になりたいです。女の人が病気になったら大変なの身にしみたでしょう。頑張ってるヨンにまだまだと言えるマンボ姐さん楽しそう。素直なヨンが素直すぎて、反省したのがよくわかる。一緒に暮らしていく、生活していくんだから、男の人には苦手なこともわかってもらわないとね。
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ヨン~~、ご馳走さま!
素直になったわね♪まあ、もともとが真っ直ぐな男だものね(^∇^)♪
こんなヨンアは大好きよ♪早くウンスが元気になりますように……。でももう暫く、ウンスの看病を甲斐甲斐しくするヨンが見たいなぁ~( ̄ー ̄)ふふ
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1人でアタフタと、右往左往している様が浮かんできますが(笑)
なんだか必死過ぎて、笑えてくるwww
そして、様子を見るのも抜き足差し足状態?( ゚ ▽ ゚ ;)
幾ら静かに寝かせておきたいと思っても、子供じゃないんだから~(^o^;)
いやに落ち着きなくなってる。
マンボ姐さん、良いこと言ってくれましたね。
まぁ、人を雇うなら、ヨンはそう言うでしょう!納得です。それは理解しますよ。
そして、箍が外れ素直に溢れる愛(//・_・//)
褒めてあげますよ、いくらでも!!!
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都忘れの続きが拝見出来て 凄ーく嬉しいです♪
ヒドヒョンが出てきて またまた感激。
ヨンの素直さに思わず微笑んでしまい、家族に白い目で見られつつもニヤケ顔が治りませんでした(笑)
読める様にして下さって ありがとうございます。
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“都忘れ”が終わり…と思っていたら、続きが読めるなんて嬉しい限りですo(^o^)o
ウンスの甘え&ヨンの慌てっぷり…う~ん、楽しい! ましてやヒドまで出てくるなんて!!
王妃様からの贈り物も凄いですね~。あれもこれも…となっちゃいますからねぇ。
とりあえず、どんな話しをするのか三日後が楽しみです!
なかなかコメント出来なくて今になりました。すみません(>_<)ゞ
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王妃様とチェ尚宮からもお見舞。やっぱりまだ誰も雇ってなかったんですね。チェヨンくん、手落ちです。テホグンにペケ1つ。ウンスちゃんの看病で、取り返して下さい。
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王妃さまからの差し入れ,食いしん坊ウンスは喜ぶでしょうね。
沢山あるからお裾分けするのかな。
使用人がいないのは不便じゃないかと思っていたら,ヨンはちゃんと考えていたんですね。
お屋敷って宮廷の外じゃ無くて,王様達が用意してくれたから敷地内でしたよね。
外じゃ無いから,雇えないのかなと思っていました。
最後の「女人か家族連れ・・・」のくだり笑ってしまいました。
年配のご夫婦とかが良いかしら。
どんな人が来るのかな~
ヨンはマンボ姉さんに言われたから,ウンスのそばで休むようにするでしょうね。
目が覚めた時,そばにいてくれたら安心しますよね。
病み上がりだと特に。
続きのお話又楽しみにしています♪
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さらん様、おはようございます❤︎
ヨンも素直になりましたねぇ。
マンボ姐さんの問いに、戸惑いもせず、愛する女だの、なんちゃらかんちゃら。
手裏房や、マンボ達がヨンの側に居てくれて、本当に良かったと思います。
みんな、口は乱暴でも情に厚く、ヨンを心から愛してくれていますので。
ウンスには、もう少し眠っていてもらいましょうか?
ヨンのバタバタをまだまだ見ていたいので❤︎
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こんにちは!さらん様。
さらん様のコメの絵文字…あ~一服処、リラックスされているかんじで嬉しい♪
もちろん、私も少しニヤつきながら褒めてあげますよ♪
「愛する女♡」なんてさら~って言えるようになったんだもの(*^o^*)
それにしても手裏房のみんなは、家族ですよねぇ…私もあの中に入りたいくらいです(*^-^*)
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男一人はやめろ・・・はい、そことっても大事なポイントですからね(笑)
今のヨンはおっかなビックリさん。
その分素直だから可愛い(笑)
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何処をとってもヨンがかわいらしいです。抜き足、差し脚、忍び足・・・。まるで、ぐずった赤ちゃんをやっとの事で寝かせた後の新米パパの様ですね。熱を測る時も、ウンスの額だけでなく、いつも自分が障られている感覚で確認するなんて。身にしみて体感してるって事ですよね。も~ごちそうさま❤って感じです。見ているこちらがにやけてしまう。
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>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ウンスはそう言う部分は心配しないかもですね・・・
何しろ「そう言う心配をさせないのもあなたの良いところ」
と言い切る女ゆえ(笑)
そしてヨンに何か、というのは、まあもう
天地がひっくり返ってもないので、
自身でも、そう言う事が言えてしまうのでしょうねww
結果:問題、ないですヾ(@°▽°@)ノ
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます
牛や馬、とヨンは申しておりますが
さすがにそこまではないと(;´▽`A“
ただ、相当量があるので、各方面にお裾分けがありそうですw
マンボも決める時は決めますね。
さすが、チェ尚宮のつながりだけあります。
皇宮の耳がチェ尚宮なら、市井の耳はマンボ姐。
何方も切れ者・・・ww
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヨンは基本、めんどくさがりですから
誇りでは死なぬ、飯は食いに行けばよい、的なw
しかしこれからは、そうも言っておられませぬ。
この臨時休暇中に、差配をするようです( ´艸`)
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>kumiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
それはもう甲斐甲斐しく、そして艶っぽく、
そして情感溢れる看病をする所存(爆
何してる!とツッコミどころ満載です(゚ー゚;
もう少し、寝かせる予定です。
何しろ3日はおとなしくww
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>mayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます
まあもう、起こすのが怖いのでしょうね。
寝かせておけと言われたのだから寝かせねば!と。
俺には医の心得はないのだから、医者の言う通りに!
というような、真っ直ぐさなのでしょうww
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>ぐりっちさん
こんばんは❤コメありがとうございます
いえいえ、とんでもない。
元はといえば、第二話を全員公開にて
一瞬でもUPした私のミスで御座います・・・(゚ー゚;
練らずに書き散らすページゆえ、
本編との完成度の差は、大目に見て頂ければw
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>えびにゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
もう、読み専全然問題御座いませんよ❤
読んで頂けるだけで、とても嬉しいです(*v.v)。
凄いですね、そして実はこの後も
この贈り物攻撃は続きそうです。
高貴の方でおわず媽媽にしてみれば、
毎日食事が並ぶのが当然、韓国で言う
「机の脚が折れる程」の量があって当然なので
明日も明後日も送って来て下さいます・・・(゚ー゚;
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>ポチッとなさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、ヨンも今回は猛省だったのでしょう。
忙しさにかまけた自身も、そして無理をする
オンニに対しても、ようやく目が回り始めた様子。
このあと、どうなりますか・・・( ´艸`)
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>すんすんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヨン屋敷は、厳密には皇宮敷地内ではないですね。
城下の、皇宮よりほど近い立地(馬で10分ほど)という
通勤には最高の場所にある設定です。
今まで人を雇わなかったのは、偏にヨンが
あまりに忙しく、時間がなかったせいかとw
そしてテマナが、余りに甲斐甲斐しく
周囲のお世話をしていたおかげかとww
今回猛省の中、この臨時休暇中に
ようやく重い腰を上げそうですね
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
素直ですね・・・ヒドも申しておりましたが
赤月隊当時の、真っ直ぐなヨンに戻るのでしょう。
そして、Love, like you've never been hurt
なのだと思います。
生き方については、元々迷いない男ゆえ。
そろそろ一回は起こします。
お薬飲んで、ご飯を食べねば( ´艸`)
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
おぉぅ!わいやーさまにはバレておりますねw
そうです、あの最初の
「絵文字だって使っちゃいます、顔文字だって!」
の宣言通り、使っております。
さすがにお話内に
∑ヾ( ̄0 ̄;ノ とか ヾ(▼ヘ▼;) とかは
(使いたいけれど)行き過ぎかと
己の一抹の理性が押し留めておりますww
手裏房、皇宮、そして今後出てくるアン・ジェの禁軍、
巴巽村一行、国境軍。
何だかヨン&ウンス中心に、えらい纏まりになってきております。
さすがに逝去の際、民が皆、家の扉を閉ざして
その死を嘆き悲しんだだけあります。
(これは史実に残っておるようです)
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>みわちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヨンにしても、ウンスに対する疑心は一切なく
ただ「俺がおらぬ間に一緒にいるなど!」という
悋気ゆえの、病で御座います。
お馬鹿としか、申し上げられませぬ・・・≧(´▽`)≦
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、今回の倒れる発端も
あそこまで拗れて、当てられた手で気付いた
敏いんだか鈍いんだかのヨン故に。
本編から一貫して、手はとても大切に思っています。
積極的に触れあうことの無かった二人の、大事な伝達ツール。
これからも、きっとそうだと思います。
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ヨンが、可愛い過ぎ!
読んでて嬉しく楽しく、ニマニマしちゃう。
目覚めたウンスも可愛い女(ひと)にして下さい。
意地っ張りじゃ無く、はにかみながらも甘える
蜂蜜のような(ハニー)って事で。
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>まめぼーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
起きたら、まず頑張りすぎを、まずは反省。
そして、美味しくいろいろ食べることでしょうw
きっと可愛くなると思います。
すでにヨンは、大反省しておりますからww
次はウンスオンニの番です。
よろしければ また覗いてみて下さい♪