一服処 | 珠の匣・7

 

 

大護軍の御屋敷を後に迂達赤兵舎への道を駆け戻りながら。

頭の中で一つだけの言葉を繰り返す。

戦が始まる。

大護軍は言った。遠くはないと。
いつだ。相手は北の元か、南の倭寇か。

だからか。だから大護軍は。

冬の冷たい空気に、走る俺の胸が詰まる。
そういう事に、しておこう。

 

テマンはあれで解するはずだ。

戦は近い。

元の推進力は結局のところ、我ら高麗にとり諸刃の剣だった。
強大になればその支配より抜け出せず、衰退すればその国内が乱れが波及する。

数頼みのあの国の、目下の敵は紅巾族。
いくら密偵を送り内情を探ろうと、どういった奴らか。
実際ぶつかってみねばその戦法も戦術も見当がつかん。

長い戦になる。

それまでにどうにかこの宅を、不足なく仕上げておかねばならん。

掌中の珠のこの方に俺の不在中、万一にも何か無きよう。
この宅は俺の珠を据える匣。
その珠に瑕などついてしまわぬよう、今の内に可能な限り準備を整えておかねば。

「どうしたの?」
その声に俺の眸が一気に焦点を結ぶ。
心配げに俺を覗き込む目の前の瞳に。

「今はまだ」
この方にはまだ言えぬ。
はっきりした事を何も言えぬ今、無駄に心配だけを掛けたくはない。

「今は、言えないのね?」
「はい」
頷くとこの方が立ち上がり、俺の前まで寄ると膝を着く。
そしてそのまま俺の頭を、その胸の中に優しく抱え込む。

「元気になあれ」
俺は眸を閉じる。
「はい」
「いつでも一緒」
「・・・はい」

この方の前に恋しいと思った女は俺と同じ、夕焼に警笛を鳴らす女だった。
夢の中で逢うのではなく、闇夜の戦場の中で共に戦う女だった。

この方にはそんな思いをさせたくはない。
夕焼けを楽しみ夜の夢を慈しめる、そんな女人でいてほしい。

「ウンスヤ」
眸を閉じたまま名を呼ぶと
「なあに?」
頭の上から優しい声が返る。

「夕焼を見れば、あなたの許に帰りたくなる。きっとこれからは」
「いつでも待ってる。あなたがどこにいても」
「眠るたびに夢で逢いたくなる。きっとこれからも」
「私もそう思う。毎晩。離れてても、一緒にいても」

そう言ってこの方は俺の頭を離し、そのまま俺の前にぺたりと尻をついて座り目を合わせる。

「あなたを護りたい。一緒にいたい。だから、考えてることがある。
私の心を決める時にはちゃんと相談する。その時は怒ったりしないで、聞いてくれる?」
「・・・約束します」

俺は真直ぐな瞳に頷いた。

 

 

 

 

楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

 

 

31 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    これだけ甘い話が続くからもしやと思ってたら、やっぱり戦が近いのですね。ヨンとウンスそれぞれが思っていること、今は言えなくてももう二人がすれ違う事はないでしょう。戦闘シーン好きなので楽しみではありますが、はああああああああああああです。あっ、でも闘い続けるチェ・ヨン、戦のシーンは初なので嬉しいです。武士のヨンを支えるウンスも。

  • SECRET: 0
    PASS:
    ウンスの考え‥怒らないでって事は、怒るような事なんでしょうね(笑)
    紅巾軍の侵入?開京陥落?‥
    あ~胃がキリキリしそう
    こちらで暫しコーヒーブレイク

  • SECRET: 0
    PASS:
    ウンスは軍医になってチェヨンと共に居ようと、チェヨンやウダルチの皆を護ろうとするのではと考えざるを得ません。
    このお話の中の二人はまだ、ぎこちなく遠慮があるように思えます。これからもっと心を通わせて寄り添って欲しいと思うのは私だけでしょうか?

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん、おはようございます(*^_^*)
    ソウルから戻りました。
    天門や、鍛冶屋村行ってきましたよ!
    あー、ここで大好きなあの物語が出来たんだと 何だか感無量でした。
    ヨン役、ミノもすごく優しくて素敵で益々夢中に^_^;
    ソウルに住みたいと、心から思いました★

  • SECRET: 0
    PASS:
    子供にしてもらえるようなかわいいおまじない、初めて言ってもらったのではないでしょうか。
    長い戦いが史実であるのですね。立ち向かわねばならないのですね。ヨンが向かうのは高麗を狙う敵だけでありますように。
    いつも優しく笑顔で迎えてくれる人と場所が変わりませんようにと祈ります。

  • SECRET: 0
    PASS:
    お互い未だ口には出せないけれど、護ろうとする心は同じ。
    不穏な空気が、色濃くなってきましたが、今二人の間には伝え合った互いを慈しむ想いがあります。
    それだけでも、離れている間の不安・心配・恋しさを幾分かは、薄めてくれるのではないでしょうか?
    ウンスの考えている事が、私の想像と違う事を祈るのみだわ。

  • SECRET: 0
    PASS:
    とても素敵な雰囲気です♡
    いいなぁ、本当に好き合ってるのが分かる感じ♪
    でもそろそろウンスも元気になって来た!
    楽しみ楽しみ♡
    もう一回チュウしてくれんだろうか・・・
    ( ̄▽ ̄)=3すいません・・・
    また覗きにまいります~♡

  • SECRET: 0
    PASS:
    今までの甘甘から一転、緊張が走りました。戦が始まるんですね。それも近いうちに。
    ヨンとウンスの心の繋がりは万全だから、後は実質的な外堀固めに徹するヨンかしら。
    ヨンを囲み抱くウンスは何処までも優しいですね。でも、最後の心に決めた聞いて欲しい事って何だろう。ともすれば、ヨンが怒りそうな内容なのかな。一緒になんて言ってるし・・・・。 

  • SECRET: 0
    PASS:
    ウンスヤが、考えると騒動が巻きおこちゃうっと、早く本人に気づいてもらいたいですー でも、そこがウンスヤで、なんとかチェヨンを守りたいと一所懸命できることを考えちゃうんでしょうね。

  • SECRET: 0
    PASS:
    こんにちは!さらん様。
    なんかジーンとしましたよ。
    さらん様の2人はなんでしょうかね…
    一緒にいて、こうやって頭を抱いていても
    なんかジーンと切ない感があるのですよね
    ヨンの心の声がするから?
    今までの事があったから?
    これから戦があるから?
    あまあまもあったのになぜ?と思うのは私だけ?でしょうかね…

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様、こんにちは❤
    ホントに、ヨンとテマナは、テレパシーでも使えるのか?
    ヨンの一言、ヨンの顔色や眼差しで、テマナは全てを理解するのですね。
    またまた、大好物な設定でございます。
    反して、ヨンとウンスは、デレデレ甘々が続いており、読み手の私も神経が休んでいる状態です。
    まぁ、この後、鬼ごっこやら何やら有るのですが、せっかく戦の前に解けた二人、甘~いヨンをもう少し見ていたいです❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >モモさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ウンスオンニの場合、考えは分かるけど
    後先考えずに突っ走り気味なので・・・
    ああ、やっぱりねーな事を言い出しかねませぬ。
    どうなることか・・・!!(^▽^;)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    近いですね・・・悲しいですが、この頃
    (1550年代中盤~1960年代中盤)は、崔瑩は
    歴史上、凄い数の戦場に出向いております・・・
    全ては書けませんが、イムジャカポーの
    分岐点になる数話は書かねば、と。
    戦闘シーンは、YouTube画像の文字起こしで
    勉強に励んでおりますww
    テマナは戦場でも良い仕事致します。相変らず
    愛い奴(●´ω`●)ゞ

  • SECRET: 0
    PASS:
    >えみりんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    開京陥落は1561年なので、もうちょい先ですね。
    とりあえず、とんでもない奴が出て参ります。
    この辺は歴史に準じぬと、ばらけそうなので
    只今練り中で御座います。
    ウンスオンニのは・・・怒りそうな、事です(゚ー゚;

  • SECRET: 0
    PASS:
    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    そうですね、違うことを・・・どうぞ祈ってやって下さい(゚ー゚;
    私も終息に向け、いろいろ練り中ですφ(.. )

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    再度のkissは、もうないかとw
    本編でも一度きり(除:人工呼吸)の
    あの儚さじれったさも、また味かなーと思っておりますw
    今はもう二人とも、互いしか見えないのか、
    放って置くととんでもない事になりそうなので
    自己規制です(〃∇〃)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    始まります。まさにおっしゃる通り、
    ヨンとしては自分がいない間の事を
    それはもう憂慮しているわけで・・・
    この後、もう少し詳細が出て参ります。
    ヨンは、ウンスオンニの件は、聞けば
    怒るでしょう・・・難しいところです(゚ー゚;

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ウンスオンニの場合、やはり感覚的には
    どうしても現代人なのですね、悲しいかな。
    高麗の常識や、ヨンの中の陰の部分に対して
    どうしても現代的、かつ医師としてのアプローチを
    やはり試みてしまうのでしょう・・・
    この辺りの距離を埋めていくのが、共同作業と共に
    時の流れなのだろうな、と思っています。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ううう、切ないですか・・・
    何故だろうとつらつら思うに、
    書いている私が切ないから?と(;´▽`A“
    ヨンをどれだけ書いても、どれだけ明るく笑わせても
    切ない欠片がどこかに残っているような気がするのです・・・
    スカッと爽やか、一点の曇りもなし!なヨンを
    書いてみたいとも渇望するのですが・・・
    厳しいです(ノ_-。)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    真っ直ぐに言葉を聞くテマナ故、
    多分、いくつかキーワードがあるのだと思います。
    それに反応するのでしょう、恐らく。
    そうですね、戦になれば皆またピリピリに戻ります。
    イムジャカポーの行く末は安泰であっても、
    環境に振り回され戸惑うこともあるでしょう。
    思った通りに進まぬ状況への閉塞感や苛立ちも。
    そのあたりの心理戦になるやもですね、今後は・・・

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様こんばんわ。
    ヨンの準備の裏には、戦があったのですね…
    韓国歴史は詳しくないので、私も勉強しつつ拝読させてもらいますね!
    ウンスのお願いが気になるところですが…
    今日も更新ありがとうございます(*^-^*)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ツマ吉さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    遠慮は、あると思います。
    多分私自身が、遠慮のない関係=ベターな関係と
    思えないからかもしれないです(;^_^A
    心は通い合っているので、それで良いかな、と。
    ただ、通い合った心がお話の中で伝わらないのは
    これ全て、書き手の未熟さです。
    大変、申し訳なく・・・m(_ _ )m

  • SECRET: 0
    PASS:
    >★sachi★さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    うわーん!羨ましいです(〃∇〃)
    ソウルに行かれたのですね❤❤
    ミノ氏も同席?ファンミーティングでしょうか?
    情報に疎く、話甲斐のない聞き手で、
    心より申し訳なく・・・・°・(ノД`)・°・
    ソウルはもうかなり寒かったと思います。
    旅のお疲れでお体など壊さぬよう、
    楽しい御旅行のお土産話を、また聞かせて頂ければ
    心より、嬉しいです❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    こんばんは~
    「夕焼けを見れば、あなたのもとに~」
    「いつでも、待ってる。あなたが~」
    あ~素敵と思ておりました。
    ちょっと 脱線しますが
    先ほどテレビで レース鳩の話をしてました。
    鳩? あまり好きじゃないけど・・・
    鳩はつがいになったら 15年 一緒にいて
    相手をかえない。巣も変えない。
    300キロ 離れた場所から 帰ってこれるのは
    メスに会いたい一心でだそうです。
    レース前には メス オス 離れ離れにされる。
    オスは パートナー以外のメスが近寄ると
    追い払う! おぉ~
    レース前に 久しぶりに 会えた!と思ったら
    引き離されて 連れてかれちゃう。
    レースがはじまったら メスの待つ巣に 一直線
    これを見て 「ヨンとウンスだ!!」 と 思った私でした。
    鳩と同じにしてごめんなさい。
    鳩が オス、メス寄り添って 互いを確認してる姿を見て 人間も鳩も 変わらないのねと思ったので 思わず コメしちゃいました。
    失礼しました。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >びったんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    私も、李氏朝鮮なんて学生時代の歴史で
    それも触りをやったくらいで、
    まして高麗の歴史なんて全くww
    信義に興味を持ってから調べ始め
    いろいろ面白くて、勉強中です(〃∇〃)
    今もし学生ならば、きっとこの情熱で
    世界史はかなりいい成績が取れたろうに・・・とw
    今日も読んで頂き、本当にありがとうございます。
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

  • SECRET: 0
    PASS:
    >くるくるしなもんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    何て愛しい・・・
    まさにヨン。前世は・・・鳩?
    俺は御二人の伝書鳩では、あのチュンソクの言葉は
    何かの予言だったのでしょうか(まさか!
    そう、愛しき女人の未だおらぬそなたに
    伝書鳩を名乗る資格などなし。
    髭キューピッドあたりで我慢せよ!

  • SECRET: 0
    PASS:
    >さらんさん
    とんでもないです!さらんさんのお話の書き方は、すごく好きです。
    変に思わないで下さいね(^_^)私の方こそ、いつもステキなお話を読ませて頂き、感謝してます。これからもよろしくお願いします。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >さらんさん
    おおおおぉ~
    そうでした!! 予言的中!!
    なぜか
    人面鳩(しかも髭つき)を想像
    (((゜д゜;)))
    怖すぎる・・・かも
    髭キューピッドの想像図も・・・
    あっ あまり想像しない方が・・・(;^_^A
    いつも失礼なコメントですみません。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ツマ吉さん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    いえいえいえ、私こそ、何時も読んで頂き
    嬉しいばかりです、本当に。
    これからもよろしければ また覗いてみて下さい♪

  • SECRET: 0
    PASS:
    >くるくるしなもんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    髭付き鳩。チュンソクよ、何処まで・・・!
    しかし次回より、漢たちのどえらく格好良い
    そんな姿を、書く予定です。
    イメージ崩壊を修正せねば・・・(x_x;)

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です