2014.11.03 ■都忘れ【長編】さらん

都忘れ｜ 12

兵舎を出るため階を降りる。

高い明り取りの窓から差し込む光の中。
普段は騒がしい兵舎の階下の吹抜けに一人、チュンソクがいた。

無人だとばかり思っていた。
あのチェ尚宮の人払いの中も残るとは、なかなかいい度胸をしているな。

「大護軍。北方志願は本気ですか」
軽く手を上げ歩き去ろうとした俺の前。
チュンソクが何気なく塞ぐと尋ねてくる。

「ああ」
「まだ他には一切漏れておりません」
「そうか」
チュンソクに頷き通り過ぎようとする。
だがそのまま進路を譲らぬこいつに、俺は目を眇めた。

「･･･何だ」
「医仙と、お話をされましたか」
「何を」
「何故大護軍を避けたか」

俺は黙ってチュンソクを睨む。
「お前には」
「関係あります、大護軍」

どいつもこいつも、余計な首を突っ込んできおる。
宅を決める時からだ。
そもそも王様、そして叔母上。
次はお前か。
それでわざわざ一人残ったか。

「退け」
「退きません」
「退け！」
俺はチュンソクの肩を押し、其処を抜けようとした。それで話が済むと思った。

「退きません！」

奴がその瞬間に俺の手首を取り、肩の関節を押さえに来るまでは。

そのまま力を籠めて俺の膝を折らせ地面に組み伏せようとするチュンソク。
俺は手首を返して肘でその手を払うと逆に奴の手首を取り、腕ごと背に捻りあげて組み伏せる。

「ふざける暇はない」
「こちらも御二方の喧嘩に巻きこまれる暇はない。
今朝、医仙がいらして、愚痴を聞かされました。
あの方が話す事があるなら大護軍が直接聞けば良い。
俺はお二人の伝書鳩ではありません」

そう言うと俺の腰に重く鋭い蹴りを飛ばし、チュンソクは俺の腕から逃れた。

「いい加減にしてほしい。大護軍がいつも言っていることだ。
役目に私情を持ち込まないでください」
「何？」
「あなたの事だ。ご自分が去って、その後の医仙の事だけ考えている。
さぞや準備万端、張り巡らせるつもりでしょう」

チュンソクの聞き捨てならぬ言葉に、俺は奴の襟首を掴み上げた。

「もう一度言ってみろ」
「自分は北方に行き、警護なら俺たちが付くように。
面倒ならチェ尚宮殿や手裏房が引き受けるように。
立場なら王様たちが守って下さるように。違いますか」

チュンソクが逆に、俺の胸座を掴み返す。
「それが私情だというんだ！
何故直接医仙に会って話を聞かんのだ！
守ると決めれば命尽きるまでと、俺達に教えたのは誰だ！
力尽くさぬ者のために貸す兵など、迂達赤に無し！！」

胸倉を掴み合い、面を突き合わせ咆えるチュンソクから眸を逸らし、奴の襟首を放す。

「俺の家族でも、あります」
チュンソクはそう言って俺の胸座から手を放し、己の襟元を正した。
迂達赤の事か、俺の事か、あの方の事か。
恐らく全てだろう。

「大護軍の心ひとつで、大勢の兵が動くのです。
皆は喜んで従います。大護軍を心より信じる故に」

チュンソクがそう言って頭を下げる。

「医仙を護りたいからと言うならば、俺も皆も、迷いなど微塵もありません。
喜んで今まで通り大護軍と共に、北の地の涯、南の海の底まで行きます。
しかし大護軍が医仙から逃げたいから、共に戦場に行けと兵たちには言えん。
大護軍が逃げる代わりに医仙の護衛につけ、俺は、そんな命は下せんのです。
大護軍なら言えますか。俺達に。
ならば俺は大護軍を読み間違ったという事です。
俺に人を見る目がなかったと、諦めます」

なんだ、こいつ。
何時の間にやら、迂達赤隊長だな。
「･･･そうだな」
チュンソクの言う通りだ。返す言葉などない。
「勘弁してください」

俺はそう言った鎧の肩から覗くチュンソクの腕に、かなり強い力で拳を当てた。

「い！」
「済まなかった。俺だけの問題ではない。
一人で行かせてくれと王様にお願いしても、今の俺の立場でもうそれは許されん」

チュンソクが頷く。
「ですから、医仙と仲直りを」
「終わりだ」

チュンソクがそのまま表情を凍らせた。
「大護軍」
「お前までを巻きこむとは情けない」
「大護軍！医仙と、きちんと」
「話す。放して、終わらせる」

そう言って兵舎から出ていく俺の背後から
「大護軍！！」
と呼びかけるチュンソクの声。

俺はそれを遮るように、兵舎の門扉を後ろ手に閉めた。

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頑固者(*｀Д´)ノ！！！
なぜ正直な気持ちを、ウンスに
ぶつけないのか？
お互いに思いあってすれ違ってる二人!
なんとかしてあげて(ノ_・。)

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