「チェ尚宮殿、今は」
「煩い、そこを退け」
「チェ尚宮様!」
「退けと申したぞ。次はない」
入口の扉を開け放しているせいか。
外から吹き込む強い北風の音に混じり、階下の大声の遣り取りが筒抜けだ。
チュンソクやトクマンでは、あの叔母上を止めることなど到底無理だろう。
怒っている時の叔母上は、闘鶏の鶏ほどに強烈だからな。
階下の大騒ぎの声を耳に、私室の椅子に腰かけたまま苦笑いを浮かべ、叔母上が部屋に来るのを待つ。
今から部屋を忍び出た処で、いずれ何処かで捕まる。
ならば早めに済ませるほうが良い。
足音も高く階段を駆け上って来た叔母上が、私室の扉を力任せに押し開く。
後ろに付いて来たチュンソクとトクマンに
「迂達赤全員、兵舎より出、扉より五十歩離れよ。
いかにこちらが立腹しておっても、小僧どもの気配が読めぬなど侮るなよ」
そう言って奴らの鼻先で叩きつけるように、部屋の扉を閉める。
そこで初めて俺に向き直り、小さい鋭い声で尋ねた。
「北方とは何だ。何があった」
「いきなりか」
前置きなしの問いに少しばかり面食らうが、すぐに合点がいく。
この刻であれば、王妃媽媽の脈診中だったのだろう。
其処から話が漏れたに違いない。
「別に、何もない」
「鬱陶しい。男なら肚を割って話さんか!」
叔母上の怒号に背を向け、俺は椅子から立ち上がる。
「何でもないんだ、本当に。
何か肚があれば、疾うに話している」
「医仙はどうする」
「どうもこうも。役目一番と、常に言っているのは其方だろう」
「ヨンア、いい加減にせえよ」
本気で俺に掴みかかろうとする叔母上を躱し、俺は叔母上の肩に軽く手を置く。
「もう良いんだ、本当に。俺は手を放すと決めた。
だから俺の分まであの方を頼む、叔母上」
「・・・何を言っておるか、分かっているのか」
叔母上の問いに、俺は頷いた。厭という程。
「判っている。あの方を手放すと、今言った」
「何故」
「いろいろ、あるんだ」
「死んだりする権利はないぞ、手を放すと決めたなら」
「そんなことはせん。面倒な」
あの頃は一歩一歩、死に近づくことが救いだった。
死ぬための名分を探すために生きていた。
あの方と出会って以来すっかり忘れていた。
しかし何故だろう。
心は痛むが、あの方を傷つけぬためこの手を放すと決めても、死にたいとは思わん。
ただあの頃のように、影に戻っていつまでもあの方を見守りたいと、ひたすら願う。
その為にも、死ねんのだ。
あの方が元気で生きているせいか。
それとも、あの方のおかげで俺の心が息を吹き返したからか。
将又、二人離れていた時間が長すぎたせいか。
本当に、己の魂の片割れだからか。
離れてもいつかまた逢えるとしか思えん。
あの丘で、待ってさえいれば。
「・・・ヨンア?」
叔母上が茫とした俺に、訝しげに呼びかける。
「ああ」
「良いのだな?あの方が徳興君の時のように、今度こそ本当に誰かの嫁御になられても。
その男との間に子をなしても、二度と会えずとも、後で悔いることは、ないのだな?」
「手を触れずに、大切にしていて良かった。
そうなったとしても、あの方が疵物呼ばわりされるようなこともない」
「阿呆!!」
予期せぬ叔母上の一喝に、俺は驚いて目を瞠る。
「お前は、女心というものが判っておらぬ!!」
「お、女心?」
「甥とはいえ、ほとほと愛想が尽きたわ」
叔母上はそう言って、鋭く息を吐いた。
「話せというから話せばこれか。
叔母上は一体、何が知りたいのだ」
俺が尋ねると
「貴様の肚の内だと、先刻より言っておろうが!」
頭を、凄い速手で殴られた。
相変わらず手と口が同時に出る方だ。
「肚などないと」
「ああ、そうか。それならば良い。行け。
北の元の国境でも、南方の倭寇殲滅でも勝手に行くが良い」
叔母上はそう言って、しっしっと手を払う。
これで良い。叔母上の事だ、必ず守ってくれる。
「よろしくな」
固い横顔の叔母上に告げ、俺は私室を出た。

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すみません!
言わせて下さい!
ヨンのバカ~!!!!!!
正面突破しなさいよぉ~o(`ω´ )o
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小僧どもの気配が読めぬなど、侮るなよ… チェ尚宮かっこいい!小僧どもが渋々退散してる様子が目に浮かぶ。お、女心 ここもナイス。叔母様らしくていい。ヨンにここまで言えるのは、やっぱり叔母様。さてさて次は誰がお出ましになるのか楽しみです。王宮を激震させたんですから、ヨンとウンスはこってり絞られなきゃね。皆二人の幸せを願ってるんですから。
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チェ尚宮でも だめなら もう ウンス本人しかないでしょう…
早くしないと 手遅れになるよ~
ああ~見てる(読んでる)だけって つらいですね…
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さらん様、こんにちは。
私も一緒に叫びました「阿呆!!」
闘鶏の鶏のようなコモにんでもこの頑固な男は…
叱りつけてもダメならば‥
次は誰か(お髭の♪)の泣き落とし作戦でしょうか?「小僧」…妙にツボにはまって(笑)
お仕事大変なのですね?できることなら私が代理で‥(何も役にたたないか)
それともここで!分身の術を‥さらん様1号・さらん様2号‥ってできればいいですね。
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叔母上への賛辞を考えてたら、究極嫁になりたいと…ボキャ貧…
「女心」のキーワードをよくぞヨンに叫んでくれました
これで死んだ魚のようなヨンが息を吹き替えして虎に生き返ってくれたらなぁ~まだ時間かかりそうだけど…話すの無理なら押し倒しても…
ああ、ボキャ貧の上に思考もヤバくなって参りました。反省。
お仕事忙しくなりそうなんですね。
どうぞご無理の無い範囲で…
ウンスみたいに貧血寝不足過労注意です(´・ω・`)
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コモは、如何感じたのかしら?
ウンスの動揺とヨンの覚悟・・・
ヨンが、そこまで腹を括るとは 余程よ(゚Ω゚;)
静かな男は、一旦決めると怖いからね。
女心・・・このウンスの気持ちは、理解し難いから、早く誰かに動いてもらいたい。
ま~ったく、な~んで自分達で解決できないのかしら?┐( ̄ヘ ̄)┌
此方の身がもたないわ(゚_゚i)
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ウンスはこんな情けない男の為に全てを捨てて、命懸けで先生に鍼をうってもらって、ソンジンの腕に身を委ねずにここに戻ってきたの!?
(ノд<。)゜。泣けてきた…
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チェ尚宮~。だめだめじゃないですかぁ~っ!
なんにも解決していない……。
ここは、やはり……( ̄ー ̄)
チュンソク~っ!二人を助けて~(ToT)
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さらんさん、「都忘れ」が始まってからのUPを待ちわびる日々が続いています。
じれったいやら、ヨンもウンスも可愛そうやら、ウンス!いつものようにヨンに直接ぶつかってこい!と思うやら。。。この続きの妄想が膨らんでおります(笑)
今日の夜のUP、楽しみにしています。
…一日3回のUPは無いですよね。。。(失礼しましたー!! )
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足らんのですよ、大護軍!
要らない言葉は一杯出るけど、大事なのが!
そりゃ~、叔母上怒っちゃうわ~。
あの叔母上の事、どんな手に出るのかとっても楽しみです♥
又覗きに来ますね(*´σー`)エヘヘ
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本当に、離れていた時間が長すぎちゃったんですね。
チェ・ヨン 自制心強すぎ
泣けてきちゃいます。
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次なるは…
ずっとドキドキして拝見しております。
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叔母上の次はチュンソク頑張っちゃったりする?
大丈夫かなぁ~昔からタイミング悪い男ですからね~
でもやる時はやる男です!えぇ‥たぶん
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胸が苦しいのは、思い込みとはいへ、ウンスを手放そうともがいているヨンの心に同調したからなのか、分からずや意固地になっているとも見えるヨンに呆れ怒りを向けるチェ尚宮と同調したのか分かりませんが、胸が締め付けられるよう。さらんさん、書いてて苦しくなりませんか?私が感情移入しすぎなのかな?でも、次・・次・・・と気になります。
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涙がとまりません
チュンソク、チェ尚宮
次は王様?
最後は王妃媽媽?
結末はわかっているけれど
もう誰でも良いので この二人をなんとかして
とをいいたくなります。
はぁ
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>みきみきさん
こんばんは❤コメありがとうございます
いや、正面突破玉砕@典医寺ですから
もう正面突破はww
しかし、どの恋愛でも起きると思うのです
こういうすれ違い。
ただ、ある一部をクローズアップすると
こんな風な反応が、と
みきみきさまや皆様のコメを拝読し
しみじみ思います・・・うーむ、深い(*´Д`)=з
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます
コモ、さすがに今は言っても判らぬかと
一旦距離を置くようですw
ヨンの性格を知る故の呼吸。
最後は決めて下さるでしょう。
母代りのこの方でなくば、納められぬ時もある。
今夜はこの後、髭キューピッドが、意外な行動にw
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>ゆきんこさん
こんばんは❤コメありがとうございます
まだ真打登場まで、もういくつかのステップがw
ジレジレ段階は過ぎ、ここから一気呵成の刻。
結論が出るまでの、逆回し再生です( ´艸`)
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ああ、素晴らしや。
分身の術、最高で御座います。
そうなのです、仕事の剣、はっきりすればまた
皆様へお知らせいたしますm(_ _ )m
小僧!
そうです、もう尚宮コモからすれば
どいつもこいつも鼻たれ小僧ですww
髭小僧・・・( ´艸`)・・プ!
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ただ一言!!!じれったい、んもう~~
どうした・・正面突破は\(*`∧´)/
以上(*^ー^)ノ
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何回読み返しても、辛すぎてコメント
やめてたんだけど、やっぱり二人に、
幸せになってもらいたい(。>д<)
胸が、苦しいです。
やっと巡りあったのだから
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>chamiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
尚宮コモの嫁御でございますか?!( ´艸`)
そう、女心こそヨンにとり難解な課題・・・
分かったところで結局は「ウンス心」だけでしょうがw
お心遣い、ありがとうございます❤
私はもう全然大丈夫です(●´ω`●)ゞ
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>mayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ジレ期は終了し、一気呵成の刻なのですが
まだまだ、周囲の力は必要そうですw
もう、ああ!というオチなのですが
それでも、そこに到達し、ヨンの気持ちが
皆様に伝わるかどうか・・・んーです(゚ー゚;
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>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます
皆様のコメを読んでいて、大変興味深いのは
「ヨンが駄目」
というのと
「ウンスが駄目」
というご意見に、結構割れているな、と思うところですね・・・
私としては、度のカップルにも起こり得る
意思疎通の疎外された状況をクローズアップしたのですが
ここに焦点を当てただけで、だらしない
弱腰、となるのが、とても興味深いです。
ううーん、私の周囲ではよく起きるだけに。
大人になると、そう言う事も少なくなるのでしょうか・・・
まだまだ修行が足りません(´・ω・`)
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>kumiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
いえいえ、これはコモが一枚上手です。
母代りとして、そして武人の先輩として
ヨンを理解しておりますww
コモで無理なら、チュンソクなど手も足も出ませんw
何しろ小僧ですから( ´艸`)
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>kacotanさん
こんばんは❤初コメありがとうございます。
うふふ、妄想膨らませて下さいませ( ´艸`)
最終のHAPPY ENDまで❤
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます
アハハ、そうですね。
大切な言葉、これは言えないのはもう性格。
そして、先輩武人として母代わりとして、
ヨンを理解している尚宮様。
そのうちびしっと決めます。
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>あいちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
遠距離恋愛の不思議さですね。
いつかまた会える、と思う。
別れてもその実感すら薄くなる。
今まで会えなかった時と変わらない。
離れていた時間が長すぎ、孤独を友にするとは
そうした危険性も、寂しさも内包するという事・・・
と、語ってみました(;´▽`A“
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>よっしーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
うふふー、どきどきしながら今晩を
迎えて頂けると嬉しいです。
髭キューピッド、暴走いたします( ´艸`)❤❤
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>えみりんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
頑張りますよー
今宵は、タイミングは悪くないですが
ヨンの頑なさに呆れるばかり(゚ー゚;
やる時はやる漢です。チュンソク自体はww
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
苦しいですよー(´・ω・`)
私はお話書きの時、やっぱり自分の実体験を
割合は違えど、どこの部分にも鏤めています。
言ったこと、言われた事、してしまった事、された事。
ここでこうやって書くことは、ある意味
自分のヒーリングでもあり・・・(;´▽`A“
だからやめられないのだと思います。
なので、読んで頂くときは、もう過去の事として
すごく突き放して読めますwww
でもそれがない完璧空想だと、ペラッペラになり
練っている時、ああ、嘘っぽいと・・・
これをせずに100%空想で書ける方々が
きっとプロを目指すのかも、と思います。
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さらん様、こんばんは❤︎
さすが、チェ尚宮様。
迂達赤達への指令も半端ないこと‼︎
気持ちが良いです(≧∇≦)
ヨンも幼い頃より側に居てくれた、叔母様を深く愛し、信頼していますので、この状態に適任なのは彼女だけですね(^o^)
ウンスを手放した後も、彼女を一生影から見守り支える為に、決して死ぬわけにはいかぬ……そんなヨンが愛おしい❤︎
生きる希望も無く、ただ死ねる日を待っていたあの頃とは別人で、これも魂の片割れであるウンスと出逢ったから。
チェ尚宮様、もう一押して、ヨンを落として下さいませ❤︎
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>haruさん
こんばんは❤コメありがとうございます
おお、惜しい!
途中少し順番が違いますが、正にご想像通りですw
もう皆様、ご協力いただいて
ガッツリ首を突っ込んで下さいます( ´艸`)
しかし、それが個人主義のヨンを尚更頑なに
してしまっているのかもしれません。
「俺の事は放って置け」と思うタイプですからww
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>poppuさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
いえいえ、最初に正面突破@典医寺やって
玉砕しておりますからww
タイミングの悪さゆえでしょう。
ジレ期はもう終わり、この後は周囲に任せますww
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>モモさん
こんばんは❤コメありがとうございます
幸せになりますよ、大丈夫です。
ただ、阿吽の呼吸になるには、時間と努力が
必要ですね、というお話ですから( ´艸`)
基本HAPPY ENDしか書かないので、大丈夫❤です
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
もう、尚宮様、策士です。
ここでいったん引くのも計算。
先輩武人として、ヨンの母代わりとして
こやつの性格はよーーくわかっておりますw
最後はビシっと!はい❤