この人と一緒に媽媽のところへご挨拶に伺おうと、坤成殿の回廊を歩く。
媽媽のお部屋の前にはチェ尚宮の叔母様が、相変わらず真っ直ぐに背を伸ばして立っている。
「おはようございます!」
私が小走りに寄って声を掛けると、叔母様は微かに口元を綻ばせる。
「医仙、本当にいらしたのですか」
「はい。だって離れている間の媽媽のお体も、王様のご様子も全然分かりませんから」
私が言うと、叔母様は私の後ろのこの人に痛い程の視線を投げて
「医仙がゆっくりお休みになるよう、参内は止めるべきではないか。大護軍」
厳しい声であなたに向かって小さく言った。
思わぬ方向へ向かった叔母様の矛先に、私はドキドキしながら慌てて手を振る。
「違います叔母様、この人は止めたんです。でも私が無理を言って出て来たんです」
それは本当だもの。
私はここに来るまでの、この人との遣り取りを思い出す。
******
私が坤成殿に行こうと着替えて顔を洗ったら、この人は疲れたように、椅子に腰かけたまま
「イムジャ、昨日の王妃媽媽の御言葉を聞きましたか」
って言った。昨日の、媽媽の御言葉。
「王様にもご相談申しあげましょう、ってあれ?」
「そうです」
「聞いたわよ、だから今日お返事をもらいに」
「・・・イムジャ」
あなたはため息を吐く。
「御相談申し上げるとはつまり来るな、と。王妃媽媽は遠回しにそうおっしゃったのです」
「え」
ポカンと口を開けた私に、重々しくこの人が頷く。
「ですからせめて今日明日は、俺と共におとなしく」
今日皇宮に行くわけには行かぬ。
是が非でもこの方を止めねば。
さもなくば昨日の王様のご様子では、本当に直ぐにでも我らの居所を手配されぬとも限らん。
「だって」
「イムジャ」
「媽媽にあんなことがあったもの。あの頃の私、媽媽の脈診も、満足にできていないもの。
離れてから4年だって、もう知ってるわ。
4年で媽媽のお体がどんなふうに変わったか、ちゃんと知っておかなきゃ心配だもの」
「イムジャ。頼むから」
「お願い、今日はご挨拶とお許しだけ。そしたら残りの時間は、ずうっとあなたと一緒にいるから」
「皇宮に行けば、王様から居所を押し付けられます」
「・・・」
判っている。
この方が今懸命に、下界の医術に馴染もうと努力をしているということは。
しかし王様から居所まで賜れば、俺達にとり分不相応な厚遇だ。
そのようなものに興味がないばかりでない。
そのような金があるなら民に回すか、さもなくば王様の為、国の為に使うべきなのだ。
ようやく元の支配から抜け出られそうな今、その手を、その歩みを緩める事はならぬ。
王様は王妃媽媽のおっしゃることならば、大概の事を微笑んでお許しになる。
そして王妃媽媽は、畏れ多くもこの方を、本当の姉のように慕っておられる。
その王様と王妃媽媽がお二人で居所を与えようとされれば、何処まで断れるか。
多勢に無勢だ。
確かにこの方を夜天の許、野晒しにする気はない。
それでも小さな庵で十分なもの。
何が不満で人の姿も碌に見えぬような、でかい屋敷に住む必要があるというのだ。
「・・・分かった」
茫と考え込んでいる俺にそう言って、目の前のこの方がうんと頷く。
「なら先に物件探しをしてから行けばいいのよ!物件を先に決めてから、王様に断ればいいじゃない」
そう言うと腰を上げて俺の腕を引き
「ほら、そうと決まれば早く行こう」
と上機嫌で、手裏房の離れを出るこの方。
それほど容易く見つかれば良いが。
まずは当たるしかないか。
横に並ぶと、その瞳が嬉しそうにこの眸を見上げて笑う。
「広くなくていいから、お風呂は立派なのが良いな。水回りは大切よね、衛生的にも」
頷く俺に、東屋から師叔が声を掛ける。
「ヨンア、天女」
俺とこの方が声に立ち止る。
「何処に行くんだ」
「新しい居所を探しに行く。師叔は何処か城下に目ぼしい処を知らんか」
「はあ、お前何を言ってるんだ」
師叔が目を開いて呆れたように俺達を眺める。
「お前らに貸したくても、誰も家は貸せねぇ」
「・・・何故」
師叔が可笑しそうに肩を揺らす。
「お前の王様も考えたな。大護軍たる者、瓦屋に住まわせなきゃあ体裁が悪いんだろうよ。
城下で空家は貸すなと、触れが出てるぞ」
「・・・何?」
「表向きは国庫の税の算の為、城下の家の売買や貸し借り、住まいの移動を禁止する、だとさ。
お前のせいじゃねえのか」
「いつから」
「今朝早くには張り紙が出たぞ」
・・・王様。少々、悪ふざけが過ぎていらっしゃる。
「イムジャ、参りましょう」
「どこ、どこへ」
「坤成殿です」
俺はこの方に言い、出来る限り足早に歩き出した。

大護軍のリハウス。
早速躓いております。
楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。
SECRET: 0
PASS:
長く時を同じくするとなんとなく考えも判ってくると言うものですね。
王様、心得ていらっしゃる。
否が応にも王様の前に行かなくちゃ~。
もしくは、家を貰わなくては~♥
また覗きに来ます(≡^∇^≡)
SECRET: 0
PASS:
うーん、そうですかぁ~っ。くれるなら、貰っとけば良いというわけにはいかないのですね~っ。
『黄金を石のように~……』でしたっけ?
ヨンとウンスの物件探しはたいへんだなぁ~っ
( ̄^ ̄)
SECRET: 0
PASS:
さぁヨン様どうでる?
さぁ王様はどうでます?
無事すんなりとはいきそうもないのかな(笑)
SECRET: 0
PASS:
さらん様、こんばんは❤︎
ヨンが欲しいのは、イムジャだけ。
官職も立派な屋敷も興味は無いのに、周りは放って置いてはくれませんね。
このまま、普通に一緒になれるとは、とても思えませんし…。
なにせ、さらん様は、随所に巧妙なトラップを仕掛けるお方ですので❤︎
私はそれをことのほか楽しんでおりますが(*^_^*)
気になるのは、サブタイトル。
やっと自分の腕の中に戻って来たウンス。
ウンスを失ったら、おそらく正気ではいられないであろうヨンに、何がおきるのか?
う~ん…気になります(; ̄O ̄)
SECRET: 0
PASS:
「黄金を石のごとく見よ」亡き父の遺言に忠実に生きてきたヨン。そんなヨンのことだから…と王様は先手を打ったのでしょうか?
物件探しが大好き~♪なウンス。
借家禁止令が発令されたとなると…
居所問題、2人がどう打開していくのか?楽しみです(*^o^*)
SECRET: 0
PASS:
大護軍のリハウス~♪思わず歌ってしまったではないですか。
王様、手配が早い。いつからヨンより先読みするようになられたんですか。折角ウンスがいい提案をしてくれたと思ったのにね。
ウンスとヨンの望む家は、寄り添えるだけのスペースとお風呂(これ大事)があれば十分なのね。王様の思惑とふたりの希望。どのくらい歩み寄れるかは交渉次第?
SECRET: 0
PASS:
王様、王命をこんな使い方なさるなんてお一人の考え、それともお二人で?
でもそれだけヨンとウンスを大切に思ってくださっているということですね。
ヨンと違いウンスは元は現代人ですから自分の考えを率直にお二人に言うのでしょうか。続きを楽しみにしております。
SECRET: 0
PASS:
普通の人でも結婚前って色々ありますから。大護軍という立場、習慣やしきたり、韓国って日本より厳しいような?深読みできない天然ウンス、そして王妃様、育ちがいい上に暴走キャラ。まさに多勢に無勢。クソ真面目な頑固一徹ヨンが戦以外で一番苦手そうな問題かも?ヨンって育ちがいいから言葉遣いがいいけど、怒るとタメ口になって怖いですよね。そういう場面もででくるのかな?
SECRET: 0
PASS:
>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
チョナは、この4年でぐっと成長しています。
私の中では、【秋菊】の一件以来
王妃媽媽と心がつながり、男性らしさも
人間味も増した・・・という小設定ありww
その辺もそのうち書きたいですが
今回は盛り込みは無理そうです。とほ。
SECRET: 0
PASS:
>kumiさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
もう絶対無理ですね。
詳細は、3にて書きましたが・・・
頑固一徹なヨン V.S. 搦手の王様。
まあ、王様の場合、媽媽がいらっしゃるのでww
SECRET: 0
PASS:
>üKöさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
もう既に結果が出ているので、こちらにコメを
返すのも、野暮ですねww
あのような結果になりました。
王様&媽媽 V.S. ヨン。結果は火を見るより明らかです❤
SECRET: 0
PASS:
>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
そうですね、これはあくまで序章なので
こんな賑やかな、楽しい時間もありかと
このあたりは、うんと賑やかしてみました。
でも、この時間を経ても、今二人が共にいることが
事実なので、大丈夫ですよーー(〃∇〃)
SECRET: 0
PASS:
>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
3のように打開いたしましたw
もう、今からのコメ返では、後出しじゃんけんですね(*゚ー゚*)
この後少しずつ。ぬーん、です。(´д`lll)
SECRET: 0
PASS:
>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
きっとウンスオンニは、正直綺麗で便利で
大きなおうち、好きだと思いますww
ただ、もうヨンがね。ヨンが、です(;´▽`A“
そして結末は、3のようになりましたww
SECRET: 0
PASS:
>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
王様、悪くなってますねー∑ヾ( ̄0 ̄;ノ
ただそれを発令した裏も、今晩判ったり
するかもですww
そして、ウンスオンニも言葉を挟むどころではなかった
王様&媽媽の連携プレイ。さすが夫婦歴長いだけございます(〃∇〃)
SECRET: 0
PASS:
>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
さすがに、王様に向かってたタメ口は、なしかもですね( ゚ ▽ ゚ ;)
もしそんなことが起きれば、ぶち切れて
大暴れした後でしょう・・・コワッ!((((((ノ゚⊿゚)ノ
SECRET: 0
PASS:
しかし石鹸は作っても、私の覚えている範囲でヘチマたわしを作って使う話はまだないような。
手拭いではそんなに泡立たないだろうから、ヘチマたわしおすすめです。
作る過程でかなり匂うらしいですが。