百日草 | 7(終)

 

 

「先に手を出したのは、医仙だった」

医仙が密かに皇宮から抜け出した。
もう今となってはそんな医仙に腹もたたん。また隊長となにかあったのだろう。

気付いたトクマンが手を出せぬまま後をつけ、追いかけて来た隊長と合流した時。
隊長がどのように医仙を連れ帰ったか。
控えていろと言われ見ていたトクマンが一部始終を面白おかしく、そんな風に伝えたという。

トクマンが皆の前で身振り手振りを添えて話し続ける。
「隊長が医仙のその手をこう、ぐっとつかんで、こうやって」
トルベの手を握り、その体をぐいと引っ張る。
「嘘だろう、俺達の隊長が」
「そうだよ、まさか隊長が」
「隊長が・・・」

トルベが呆気に取られて呟く。
女人の手を掴む隊長。到底信じがたい。

「ふざけるなよ、お前。誰も見ていなかったと、言いたい放題だ」
チュソクがそんなトクマンの頭を叩く。
「本当ですよ」
叩かれた頭をさすりながら、トクマンが口を尖らせる。
「隊長が女人の手を・・・しかも、あの医仙の」
トルベはまだそう呟いている。
チュソクが在り得ぬと手を振る。

トクマンが側にいたテマンの腕を掴み
「なあ、お前も見たよな?医仙の、手を引っ張ったろう?」
テマンはその問いに
「見てない」
けろりと答えて、その場から立ち去ろうとする。
やはりな。適当な事言いやがってと、トルベがトクマンを小突き回す。

しかし何を思い出したか、去ろうとしていたテマンがふと足を止め、皆の前に戻って来て
「でも、あれは見た」
と嬉しそうに言う。
「何をだ」
チュソクの問いに
「医仙が、隊長を生き返らせるとこ」
そう言うテマンの襟首をトルベが掴み
「何だよ、もっと分かりやすく言え」

そう言って締め上げる腕を抜け、テマンは殊更嬉しそうに
「う医仙が、隊長に接吻して息を吹き込むとこ。数回どころか何回も。
それで隊長が息を吹き返すのを、目の前で見た」

思い出す様に言って笑う。
テマンはただひたすら、隊長が息を吹き返したのが嬉しくて言うたのだろうが。
トルベもチュソクもトクマンも、その言葉に思わず己の唇を押さえ、途惑い狼狽え赤面したという。

それを後からチュソクに聞かされて、迂達赤の口の軽さにも俺は呆れた。
浮かれた若い女人でもあるまいに、そんな話で大の男たちが盛り上がるなど、恥ずかしいと思わんのか。

あいつらもまだ餓鬼だ。本当にどうしようもない。
お前らとていつか隊長のように、己を見失うほど、己よりも大切な誰かと出逢えた時。
その時初めて、今の隊長の想いが分かるようになる。

それがどれ程幸運で、どんなに己の身を焦がすか、味わってみて初めて知る。
それまではせいぜいそうして噂をしておけ。
どうせ止めたとて、人の口に戸は立たん。

何れ隊長の耳に入って、足腰立たぬほど激しいお叱りを受けるが良い。
隊長とてそれくらいの気晴らしがなくば体も心も参ってしまうと、俺からは敢えて何も言わぬことにする。

心のみに従うと決めたような、何かを吹切った様子。
最近隊長は人前であろうと医仙に触れ、平気で口論する。
さすがに王様の御前でそのような無体に出たとは、この時の俺には知る由もなかったが。

それは決して甘い雰囲気ではないが、隊長は医仙と一緒で嬉しいのだろう。
そしてその機会が増えるほど想いが募るのか、近頃では己の視線の先を隠そうとすらしない。

俺達の隊長がようやく笑顔を見せるようになったこと。
ようやく流れるのではなく己で歩き出したことが、俺も皆も、嬉しくてならんのだ。
まあその分、医仙に何かあれば荒れ狂うのも恐ろしくてならんが。

頼むから早く帰ってほしいと願っていた医仙に、今俺は心の中でこう手を合わせる。

頼むから、今お帰りになるのはやめて頂きたいと。

人間は何と勝手なものだ。困った時の神頼みとは。
医仙は神ではないだろうが、天界の御方であれば俺にとっては似たようなものだ。

流れる雲、吹く風が一瞬の間留まって在るように見えたあの隊長。
若さに似合わぬ凍った眸で、風のように迂達赤を訪れたあの隊長。
寝るか、呑むか、喧嘩をするか、俺達を鍛えるかだったあの隊長。
赤月隊での傷に触れられ、相手を殺すと突込もうとしたあの隊長。
己はいぬ者と思えと、俺達の誰にも心裡を見せなかったあの隊長。

しかし今、医仙に対してだけは違うのだ。
生きた人間として心を開いて接している。

我らが命を懸ける隊長がこれほど大切に守っている方だ。
その方がここにいる限り、我らも隊長と共に医仙を守る。
それが迂達赤の、そして今の俺の、正直な気持ちだから。

ですから、安心して笑っていてください。
隊長に頼り、信じて心を開いてください。
天界に戻られるその日まで。
ご自身のために、俺たちのために、そして誰よりも隊長のために。

隊長には医仙しかおりませぬゆえ。
お分かりください。
隊長を生きた人間に戻してくれたのは医仙、あなたなのですから。

いつまでも共にと願うのが俺の我儘だったとしても。

俺は医仙に、心の中でただ祈る。

お相手は高麗の医仙、天界の女人だ。きっと霊験あらたかだろう。

 

 

【 百日草 ~ Fin ~ 】

 

 

 

 

【百日草】終了です。
ヨンで頂き、ありがとうございました。

楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

 

 

18 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    この時は、ヨンに言われただけではなく、ウダルチがちゃんと護っていましたよね。
    チュンソクの様に、深く思慮している者はいなくても、ヨンの生還と態度で護るべき者が分かっている感じでした。
    きっとヨンの感情を、身体で感じていたのでしょう。
    さぁ、ウダルチも終わりました。
    お話がどんどん進み、次が待たれます(^∇^)
    何時も有難う☆-( ^-゚)v

  • SECRET: 0
    PASS:
    もうどう聞いてもお父さんにしか見えない。若いんだろうけど…(*≧ω≦)
    他の隊員を餓鬼といっていたけど、彼の大切な人はいるのだろうか…ちょっと気になる♥
    チュンソクのお話、有難うございました(///∇///)
    とても潤いました♪
    今日一日、浸っていようと思います
    又覗きに参ります:*(〃∇〃人)*:

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん、私はそこを突っ込んでみたいです
    そこってどこ?
    テマンが見たって言った後ですよ
    これでは知らぬはヨンばかりですよね
    誰も教えてあげないの?リアクション見たいのに~って思っていたけどチュンソクもやはり教えない派だったのですね
    しかしチュンソクってどこまでヨンのことを大切に思っているのかよーくわかりました
    ありがとうございました
    飛び石連休甘ーい甘ーい話をお待ちしております

  • SECRET: 0
    PASS:
    チュンソクはやっぱり素敵!
    男らしくで他人を思いやる気持ちもある素敵男子♪
    さらん嬢が描かれると更に魅力的だわ!
    次のエビソードも楽しみにしていまし!

  • SECRET: 0
    PASS:
    今回も
    『激しいお叱りを受けるが良い』
    『何かあれば荒れ狂うのが、恐ろしくてならんが』
    『霊験あらたかだろう』
    等々、クスっと笑えるところもたくさんあって楽しかったのですが、後半畳み掛けるように(隊長の想う)ウンスへの思いがふつふつと感じられて、やっぱり最後は涙ぐんでしまいました。
    チュンソクどうしてくれようwww
    ひとりでいたウンスに(隊長の部屋に)お送りしますと声を掛けたり、気まずければ別の部屋を用意させましょうかと言ってみたり…あのシーンが思い浮かびました。
    チュンソク優しいんですよね。
    さてさて、次のお話も楽しみです(*^□^*)
    今回はリアルタイムで楽しめそうです♪
    号泣物でも甘々なのでもどんと来いっ!ww

  • SECRET: 0
    PASS:
    とっても良いですね♪
    このシリーズでトクマンの心情、心の動きがよくわかって
    ドラマを見ているようでした
    またドラマではわかりにくかった面もさらんさん的な解釈で
    私は好きです
    さらに信義がおもしろくなってきました
    今後はどのような展開になるか楽しみにしています

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様、こんにちは❤
    プジャンの昨日までの硬さと打って変わり、ヨンとウンスのLOVELOVE容認モード全開ですね!!
    プジャンの話の流れも、ふたりのLOVE色が強くなって来た頃なので、ヨンのウンスに向けた視線、感じちゃいました~(*^_^*)
    浮かれる迂達赤の面々には、ヨンの恐ろしい鍛錬が待っているのです。なんか嬉しい(*^^)v
    幼い先王と三人で休んだ荒家で、雷光に照らされたウンスの横顔の美しさに釘付けになり、見とれたまま目が離せないでいたヨンの顔...なんて切なくて素敵なの❤
    さらん様、甘~いヨンに早く逢わせて下さいな(*^_^*)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    やっと迂達赤初期が終了。
    これからヨンが国璽を盗み、迂達赤たちと戦い
    そしてそして・・・
    と考えると、軽く眩暈のすることですww
    週末は甘く悲しく。
    こちらこそ、いつもありがとうございます❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    うふふふふー
    年齢は、私の中でチュンソク&チュソクが
    同年代、少し離れてトルベ、その下にヨン、
    その下がトクマンでテマン。
    な感じで、書いております。
    チュンソク副隊長。
    恋をさせねば。どれほど幸運で、身を焦がすか
    見てみたい( ̄▽+ ̄*)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    当然教えないです。
    隊長の体面は、皆にとって大切ですから。
    ただしテマンは、ペロッというでしょうね、
    ヨンに聞かれれば。
    訊かれないので言わない。できる子テマナ❤
    甘ーいですが、うーんなお話です。
    楽しんで頂けると嬉しいです(≧▽≦)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >まあもさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    チュンソクはもう、生まれついての参謀。
    カリスマはないが、補佐役としては一流、
    是非部下に1人は欲しいタイプですw
    安心してお付き合いするなら、
    迂達赤で誰よりも良いかなと。
    くー・・・恋させたろ(〃∇〃)❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >みゅうさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    読んで頂けて、嬉しかったです❤❤
    最初は、あそこまで書くつもりでした。
    チュンソクとウンスオンニがしみじみ長く話すのは
    あそこくらいしかなかったし。
    でもそれを書くには、悲しい別れを書かねばならず
    辛すぎて今はムリー!と。
    そのうち、書きますきっと❤
    あの裏にある気持ちを、いろいろ想像しています。
    どんと行きます❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >wanwanblueさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    この後は、二次らしい二次が続きます。
    まずは、悲しい甘い話が。
    でもきっと、途中迂達赤やら、チャン侍医やら
    出てくるんだろうな・・・
    もうそっちを書いてる状態ですww
    楽しんで頂けたら最高に嬉しいです(●´ω`●)ゞ

  • SECRET: 0
    PASS:
    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    まあ、トクマンには華麗な蹴りが入りますね。
    トルベとチュソクには、凍るような睨みが。
    そしてテマンには・・・ひっそりとした探りが(爆
    今日からのお話は、久々二次らしい二次。
    楽しんで頂ければ、最高に嬉しいです。

  • SECRET: 0
    PASS:
    あーすみません!
    これは、こちらのお年寄りがつかう夜の挨拶です
    ちょこっと、マンネリを脱してみました!(笑
    ところで、お話終わりましたね。
    ドラマでしか見れなかった部分をチュンソクさん目線で読めてありがたかったです。
    今回の話で改めて思うことは・・
    どの世界にもトップはいますが・・
    どんなに才能があるトップであろうとも、
    部下が、すばらしい部下がいなければダメなのだという事です。
    その点、ヨンには多くの人の良い部下がたくさんいてよかったですよ。
    さらんさんも今後書くことが続くでしょうが
    さらんさんにも、素敵なファンがたくさんいます
    きっと、大変でもさらんさんの力が出し切れると思っています。
    朝寒くなりましたーー体調管理に気を付けられてくださいね。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >カンス百合子さん
    おばんでやんす❤コメありがとうございます。
    私もまさにそう思います。
    ヨンの一番の才能は、人に恵まれる事。
    そして私の一番の幸運も、百合子さまや皆様に出逢えたこと。
    感謝してもしきれません。
    ヨンも、同じように感じていることでしょう。
    お話だけが沸いてきて、うぃんぱち君の
    wardファイルが大変なことになっています。
    イタコ状態はまだまだ継続中です。
    その間にきっと、小説の三巻が出ること
    そして信義の再放送があることを祈って
    今宵より、新章発動です❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    このドラマはヨンとウンスだけでなくウダルチ達の活躍が本当に大きかった。ヨンをさした時のテマンやウダルチ達の思い それがだんだん変化していく。そこも魅力だったと思います。
    その心の変化、心境の変化 ヨンとのからみ、 とても丁寧に書いて下さり 心に響きました。とってもよかったぁ

  • SECRET: 0
    PASS:
    >mirukuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    そうですね。迂達赤がなければヨンはただ
    強いだけの俺様だったかもしれません。
    これから先も、書きたいことがたくさん。
    とにかく、このお話は大河なのでw
    書き終わりは何時になるやら・・・(〃∇〃)

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です