百日草 | 3

 

 

やって来た風変わりな若い隊長。
俺達の実力を試すと言って全兵の手並を確認し、チュソクと打ち合って奴を心服させ。
トルベに至っては何が起きたか俺も分からぬまま、いつの間にやら隊長を慕っている。

それぞれ剣と槍では迂達赤一の使い手だった男達が隊長にだけは頭を下げ、黙ってその命だけは聞く。

一体何があったと問えば
「組んでみれば分かります」
と、禅問答のような答が返る。

酒楼の外で共に暴れた時は、それでもまだ真意は分からなかった。
豪い酒飲みで、部下思いで、喧嘩が強く、頭が回るという事以外。

俺が隊長と共にいたいと、心を決めたのはあの時だ。

禁軍衛隊長が我が迂達赤に踏み込み、土足で隊長の過去を踏みつけた際。

あれを組んだと言って良いかは別として、少なくとも俺は全力で隊長を止めに行った。
俺が手縛で本気に組み、止められない者はいまだかつて一人もなかった。

その俺どころかチュソクにトルベ、十人以上の迂達赤に周りを囲まれた状態で。
それを振り切り払い除け、まだ前へ出ようとした隊長。
だが止める俺達を本気で振り切る気なら、隊長はあの時内功を使う事が出来た。
さすれば今頃禁軍の遣いのあの男は、確実に墓に入っていた。
そして俺達の何人かも確実に。

あの後暫く風呂を使うたび、肚に残る青黒い痣を見ながら俺は心で呟いた。
危地を救ったつもりでいたが、俺達はあの時隊長に助けられたのだ。

仲間を失う恐ろしさは俺にもわかる。ましてそれが不条理な理由であれば。
赤月隊の話は俺の耳にも届いていた。隊長の痛みは俺達の痛みでもあった。

迂達赤という王の近衛で、副隊長を務めてきた。
不条理な理由で仲間を亡くした事は、俺にもうんざりするほど起きていた。
前の王様の斑気の巻き添えに。前任の隊長の判断誤りの為に。
副隊長だからと赦されることではない。
止められなかった俺の責任でもあるのだ。護り切れなかった俺の力不足でもある。

あの騒動後、隊長の留守中を見計らい、迂達赤を集めてこれだけ言った。
赤月隊の話には今後一切絶対に、口が裂けても触れてはならん。
各組頭は責任を持ち、ここに不在の者にも伝えろと。
そこに集った全ての兵が、黙ったままで頷いた。
仲間を失う痛みは、俺達全員がよく知っている。

これ以上誰かを喪う痛みを味わうのも、隊長にそれを味わわせるのも御免だ。
それには隊長の鍛錬についていくしかない。
あの人は、隊長は、俺達に間違ったことは言わん。誤ったことは教えん。
それだけが俺達を支えた。

隊長の態度はいつでも変わらない。
俺達の訓練だけは鬼のごとく厳しく行い、それ以外の時間は寝台で寝ころび。
起きれば酒を喰らい、喧嘩と聞けば飛び込んで。
ごく稀に訓練場か兵舎の隅で、本を繰っている。
作戦と山に入れば猿のようなテマンを連れ帰る。

副隊長という立場からすれば、その隊長と同じ目の高さで物を見ねば、分からないことが多すぎた。

行けと言われれば、何人でどこから。
守れと言われれば、どの陣形でどの角度から。

考え過ぎる俺がようやく隊長の高さに追いつけば、隊長はより高みでより広いものを見ている。
追いつけるはずもない。
戦うほどに、そして勝つほどに、隊長の世界はより大きく、広く、高くなっていく。

普段は極力目立たぬよう、気配を消したままでいる。
時には一日数語しか言葉を聞かん日もあった。
まるで自分は居ぬ者と、そう思えとでも言うように。
穿って見れば、己に万一の事あらば、こちらが困らぬようにとの肚積もりか。

あの冷たい眸も変わらぬままだ。
いくらテマンが懐こうと、俺達が寄って行こうと。

隊長の中のどこか奥底に、全く開かん厚い扉があるようだった。

それでも事あらばその眸で俺に問う。
チュンソク、お前はどう思うのだと。
俺は予想した答を口にする。
それが正しければ顎先で頷き、間違っていれば容赦なく足か拳が飛んできた。
そうして隊長の心の中を見て来た。

居らぬ者と思えとは、即ちいつかこの迂達赤を、皇宮を、去るつもりなのだろう。
俺達が懇願しようが縋ろうが隊長の気持ちは決して翻らんと、俺は確信があった。
そんなものに縛られる人ではない。

何にも、誰にも囚われん。
流れる雲、吹く風がただ一瞬留まるが如く、そこに在る。

そうして隊長が迂達赤に来たあの日から、七年の月日が経っていた。

 

 

 

 

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12 件のコメント

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    いつか、ヨンが皇宮を出て行くつもりだと。
    そして、誰にもそれを止める事が出来ない事も。
    赤月隊の事は、ヨンの生き様を変える哀しい出来事。
    プジャンの心遣い、理不尽な哀しみ背負ってきた者だから出来る事ですよね。
    なんだか、ホロッときました(_ _。)

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    ああ、七年が過ぎましたか
    実はそろそろウンスに逢いたくなっていました
    ごめんねチュンソク、ヨンとウンスの絡みが見たいの

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    そうですね、私の中で副隊長は義と仁の人。
    痛みが分からなければ、ヨンなど
    ただの面倒な若造になっていたやもですw
    そう言うお話にならなくて、良かったわーと
    書きながら、しみじみ思いましたw

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ふふふ、そういう方が多いと思っていました。
    ですので、迂達赤爆裂・秋祭りの後、
    今週末は、甘い甘い飛び石連休です。
    妬くが良い。泣くが良い。そしてLOVEれば良いのです!!
    だって、秋です。子供は夏に発情しますが、
    大人は秋に人恋しくなりますByさらん解釈。
    MAXは冬です。なので、冬物語もあります。
    はーー楽しみ。
    これからも突発祭は続きます。
    だって、10月も11月も連休があるのですもの❤

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    雲は風に流されるまま自分の意思では動かない。意思のない雲の考えを分かるようになるには7年はまだ短いようです。風が止み流れなくなった所でようやく掴む事ができる。プジャンの苦労はまだ暫く続きそうですね(´∀`)
    早く風がやめば良いのに。
    プジャン頑張れ!私は応援してるヨン♥(///∇///)

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    さらん様、こんばんは❤︎
    連休も明け、今日からいつも通りの日常です。 って言うか、毎日ヨンづけなので、実はあんまり変わりませんσ(^_^;)
    さらん様には、ホントにお疲れ様でした❤︎
    ひとつ伺いたいのですが、今まで、読ませていただいた作者様に、ポチはしてもコメさせていただいた事は有りませんでした。
    さらん様のブログに巡り逢えてから、勇気を振り絞り、初コメしてみました。
    さらん様の返してくれるコメが嬉しくて、お気に入りのシーンも分かって下さるので、気が付けば、毎回コメしてしまって…
    私、ちょっとしつこいでしょうか?
    そうだったらごめんなさい(u_u)
    お話に戻ります。
    何事にもとらわれず、だれに対しても態度を変えることが無かったヨンが、7年後に運命のあの方に出逢って…
    ワクワクしちゃいます❤︎
    私は、長~いお話が好きなので、読み応えがあって嬉しい*\(^o^)/*

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    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    苦労人の副隊長、これしきの根競べでは
    まだまだ音は上げませんw
    ヨンと副隊長の関係、現在は完全なる
    副隊長の片思い(爆
    副隊長ふぁいてぃん、と私も応援します。

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    なななにをおっしゃいますかと、
    テマナ風に申しておきます。
    私は、夢夢さまのコメにどれほど助けられ
    どれだけ嬉しく励みに思っているか。
    お願いですから、そのように思わないでください。
    このお馬鹿な書き手のお話で、夢夢さまが
    コメしてやるか、仕方ない、と
    思って下さっただけで、十分すぎるほどなのに。
    願わくば、夢夢さまが心動かして下さった
    その時のヨンの声が、ずっと届くような
    そんなお話を書けたら良いなと。
    ただそれだけを祈ります。
    つながってきましたよー。
    いよいよ登場です。ラスボス・オンニ。
    あくまで副隊長目線ですので、
    ああ、こんなだったの?的な見方かもww
    さあ、どうなりますか・・・
    このお話も、そもそも5話完結だったので
    【長編】表記しなかったのですが
    気が付いたら7まで行ってもまだ終わらず。
    どうすんだよーですww

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    >えみりんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    はい。
    もう皆様、お分かりですねww
    今までの凪が、潮を変えて動き出します。
    副隊長目線でのふたりは、どう見えるのか。
    基本、隊長の事しか見てない副隊長。
    そこに入って来たあの女性は、いったいどう見える?
    楽しみです。わくどき❤❤(〃∇〃)

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    >みゅうさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    何故に。気づかぬうち俺が何かしたのか。
    まさに今、ヨンの心持ち。
    どうなさいました、なにがありましたかと
    チャン侍医の心持ち。
    みみみゅうさま、とテマンの心持ち。
    俺が泣かせた。俺が悪いと副隊長の心持ち。
    漢どもも、これほど心配しております。
    なぜー?!

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