そんな益体もない事を、刀の手入れをしながらつらつらと思い出していた。
「副隊長が言えぬなら俺が言う。そいつが来たら俺が蹴りでも入れて」
そう言い振り上げたトルベの足はそのまま、入り口から入って来た若い男の手で払われた。
そのまま体勢を崩したトルベが転びかける。
肩から小さな包みをひとつぶら下げ、赤と黒の衣に黒い首巻の若い男。
その黒い首巻に、赤い月の縫取りが見える。
俺は立ち上がり男を迎える。
「お名前を伺います」
男は俺の問いかけには答えず、室内をもの珍しそうに見回している。
「おい、副隊長が訊いてるだろ。お前何者だ」
トルベがこの闖入者に怒りの籠った声を掛ける。
それでも答えぬ若い男に業を煮やしたか
「おい、お前無視か?」
そう言って後ろからその肩を掴もうと、手を伸ばした瞬間。
一瞬早くトルベに向き直った若い男はそのままトルベの伸ばした腕を掴むと、壁に向かい放り投げた。
投げられて気色ばんだトルベがもう一度掴みかかろうとするところを、周囲の迂達赤らに諌められる。
トルベの気持ちも分からずでもない。
確かにこれでは入営というより、喧嘩を売りに来たとしか思えん。
事情を多少聞きかじっていた俺ですらまさかこれが新しい隊長かと、無遠慮にその頭より足先まで眺めてしまったほどだ。
年若のせいか、体つきは柳のようにしなやかだ。
力自慢には見えん。
その丈高さは、ただでさえ丈の高いものが揃う迂達赤隊の中でも一、二であろう。
それにしても名家子息であり、本人は正五位の中郎将である武官が行李ひとつ持たず徒の一人も連れず、身一つで部屋に入って来るとは。
「ここの責任者は」
若い男が部屋を一渡り見回し、ようやく俺に言う。俺はその場より一歩前に進み出た。
「迂達赤副隊長、ぺ家チュンソクです」
男は長い前髪の隙間から覗く黒い目をこちらに向けた。
その時俺は思ったのだ。
たとえ笑みの形になってはおっても、この男とも子供とも呼べぬ年齢の若さには似つかわしくない、冷たく凍るような眸だと。
男はそんなこちらの思惑など知らぬまま深く息を吐くと、やおら俺の肩を抱き締める。
こちらが礼をつくし、型通りの挨拶の途中だというのに。
「どこにある」
・・・何を?
驚いて目を見開いていると男はそのまま、悪そうな笑顔で俺にもう一度こう言った。
「俺に寝床をくれるんだろ?」
そう言い放つと換気の為の切り出し窓の下に仮置きしていた、蓆さえ掛けぬ生木の長椅子の上に担いできた包を放り投げ。
それを枕にごろりと横になり、この男・・・いや、新しい隊長は、大欠伸をした。
俺達が呆れた顔をしている中で、そのまま鼾をかきだした。
そして噂通り寝続けたのだ。
三日目の昼、未だ眠り続けるこの人に呆れ俺が部屋を出た後、トルベがもう一度叩き起こそうと椅子に近寄って行った。
隊長は眠ったまま大儀そうに上げた手で近くの木刀を投げ、トルベの額に台尻を命中させ、寝返りを打つと寝続けたそうだ。
そうやって寝続けた。
結局、四日間も。
楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。
a>
SECRET: 0
PASS:
この最初のどうでも良い感じがしますね~相反してチュンソクの礼に尽くす感じ♥
この二人の最初のズレがどうやったらこの後重なりあってくるのかが楽しみでございますo(*≧∇≦)ノ
又覗きに来まぁす(*^▽^*)
SECRET: 0
PASS:
トルベの態度の方が普通ですよね
でもチュンソクはさすが出来た男
いつも礼儀をわきまえて失礼な態度を取らない
「副」がつくのがピッタリな御方
もちろん悪い意味ではありません
貴方がいるからこそ隊長が破天荒ができるという事ですよ、チュンソク
SECRET: 0
PASS:
>ののさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
この頃のぐれヨンが、私は大好きで。
クソ生意気な話し方、ツボです❤(〃∇〃)❤
ミノ氏の演技力の賜物とは思いますが。
副隊長の、今のおとぼけ(でも本人は超真剣)な
キャラと違って、最初の頃はすごくかっこいい!
大人、な感じがたまりません。くぅぅ。
SECRET: 0
PASS:
>あみいさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
確かに、副隊長は礼と仁の漢ですね。
今回書いていて、しみじみ思いました。
これを迂達赤に入れず、別テーマにしたのは
この後ウンスが出てくるからなのですが
基本は、もう隊長の事しか見てないんだなと
しみじみ、実感しました(今か!
本当に、この方あっての隊長です。
SECRET: 0
PASS:
さらん様、こんにちは❤︎
再勉強のかいありまして、百日草2は、完璧に映像となって見えました‼︎
たとえ、意に沿わない上官にも礼を尽くすチュンソクですが、ヨンを今迄のそれとは全く違う事に気付いてから、どんな風に傾倒して行くのか楽しみです‼︎
ウンスに出逢う前のヨンは、出逢ってのちのヨンとは全く別人ですね。
LOVE要素の強くなって来るあたりからの回は、嫌という程、信義DVDの門をくぐり抜けておりましたが、今回、ホントにジックリと頭から見てみると、ヨンの変化が良く分かります。どの場面も素敵❤︎
さらん様なら、お解りですよね*\(^o^)/*
プジャンは、命令の内容も把握せぬのに、ヨンから言われると条件反射のように返事をしてしまうので、そこがたまらなくプジャンだなぁと、楽しんでおります。
SECRET: 0
PASS:
>夢夢さん
こんにちは❤コメありがとうございます。
確かに、LOVE要素が低めの1~5話くらいまでは
何となくふむふむと見ている部分が・・・
とはいえ、素敵場面は満載です(●´ω`●)ゞ
いや、もう一度目の手術の後、部屋で目覚める
それだけで素敵ですが。
屁を連呼するだけでも良い声ですが。
そこは変態領域になりますので、何とも(爆
あ、私も好きです!副隊長の「イエ!・・・イエ?」