2014.08.30 ■甘い夜～ Short pieces さらん

甘い夜～ Short piece 2

あの方に逢いたいと思うのは何故なのだろう。

役目の為に、敵を斬って、斬って、斬り捨てて。
役目の為に、あの方を無理矢理に天界より攫い。
役目の為に、あの方を何度も泣かせ、苦しめる。

そんな俺に資格などないのに。
逢いたいと毎夜想うのは何故なのだろうか。

今回はあの古狸のチョ・イルシンに一杯喰わされた。
自分の収賄が明るみに出ぬよう、こちらに目を向けさせるとはな。
俺は嵌められた罠の中で、足掻くことも策を練ることもなく思う。

迂達赤の役目に支障が出る事のみが気がかりだ。
俺のせいで奴らが動きにくくなっては顔向けできぬ。

俺の事はどうでも良い。
信じぬというなら、それで構わん。
あの方を無事に天界までお帰しししたい。
それさえ成せれば、俺はどうなろうと。

そう考えながら久々に空いた時間、約束の場所、あの東屋へ足を向ける。

「手を見せて」
東屋で落ち合ったこの方が、手を差し出して俺に言う。
先日七殺の征伐時に負った、小さな刀傷のことをおっしゃっておるのだろう。

触って頂きたくない。
散々他人の血に塗れたこんな手を。

俺が手を差し出さずにおると、ご自身の手を揺らして俺の眸を覗き込む。
その瞳が早く手を出せと催促なさる。

その視線に勝てず、黙ってこの方に己の手首を差し出す。
貼っていた天界の白い布を取ると、この方の指が傷の様子を見る。

手首に伝わる、細い指の感触。

「さっき徳興君が手帳を持って来たわ」
治療を施しながら、この方が言う。
書かれていたのは天門の開く日ではないかと。

お帰りになる。お帰し、できる。
此処から離れるのか。

いや、良いことだ。最後の宿願だ。
帰して差し上げる。俺のこの手で。

おかしな事だ。
己の手が血に塗れていると、今まで特に考えたことなどなかったものを。

剣を振るって心から楽しく誇らしかったのは、いつの頃までだったろう。

父上の亡き後家を出て、師父を隊長と呼んだ時。
あの時に隊長に言われた言葉の意味を今、己の胸裡でもう一度繰り返す。

「相手に愛しき者がいると考えるな。迷うな」
何故俺はそれにあれほど簡単に答えられたのだ。
「考えません。迷いません」

笑止千万。とんだ思い上がりだ。
俺にそれが成せると思っていたなど。

愛しいものを喪う真の意味が、あの時の俺には判らなかったからか。
護り切れなかったこの手から愛しきものがすり抜ける意味を。

「できた。驚異の回復力ね。これなら包帯もいらないわ」

あの方の明るい声で我に返る。

たいして陽のない薄曇りの空なのに、眩しく思い眸を細める。

この方が、ただ心配だ。
心配だから、徳興君と駆け引きをした。
天の手帳をこの方に返すようにと。
この方が、ただ心配だ。
心配だから、あの火女に脅しをかけた。
この方が怯えるから姿を現すなと。

この方を。
笑った顔で天界に帰して差し上げたい。
この方が。
守れぬ夢の中で魘されるなど、これ以上起きて欲しくない。

「あなたを探しに行ったときに、これを見つけたわ」
差し出された天界の薬瓶。その中に入った黄色い花。

俺は慌てて無言でそれを取り返す。

殺風景な心の中に、一輪だけの花が咲く。
その花につける名を、俺はもう知っている。

「天界にあなたの歌がある。
黄金を石のように見よ、のお父様の金言を受け継ぎ国に尽くした我が同朋の師、チェ・ヨン将軍」
俺は驚いて目を瞠り、この方を見つめる。
「何処で聞いたのですか、父の言葉を」

この方は俺の想いなど知らずに笑う。
「天界では有名人なんだってば！お父様の遺言まで歌詞になるほど。清廉で立派な大将軍だから」

あなたが父上を知っている。
父上の残して下さった言葉を知っている。

「あなたが賄賂なんてバカみたいな話。天界の人間が聞いたら、笑って一蹴よ」

父上とあなたが時の彼方で繋がったようで、もうそれだけで良い。
たとえ他の人間が誰一人信じなくとも、あなたが信じて下されば。
それだけで充分だ。

俺は掌で顔を覆った。

約束だ。
最後にしっかりと･･･帰して差し上げる。この手で。

どんなに血に塗れていても。
帰して差し上げるから、赦してくれますか。

夜じゃないけど、甘いですｗ

この後、暫くはサブキャラメインの
スピンオフになりそうなので
ヨン病発病しました。

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34 件のコメント

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さらんさん、昨夜は盛り上がりましたか？
若いっていいな…うふっ♪
さて、甘い夜～、ふぅっ―、この頃のヨン切ない!!
でも、そこがまた、いい♥
お父さんとウンスが時を超えて繋がった、きっと本当に嬉しかったんだよね。
小菊の入った薬瓶の見つかった時の表情…
ポチッするとこの画像ね～♪
最高っす(//∇//)
キュンキュンなりお話し、ありがとうございます♥

34 件のコメント

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