曼珠沙華 | 9

 

 

「情報操作だと」
師叔が俺の言葉に繰り返す。
俺はそれを受け、顎先で頷いた。

夕餉の終わったあの方が湯を使う間。
東屋に座り、俺は手裏房たちに申し入れた。
集う皆が俺と師叔の話を、珍しく静かに聞いている。

「あの方が天の医仙と露見するのは絶対に避けたい。
しかしあの通り人目を引く。皇宮に隠すにも限度がある」
「ふむ」
師叔が顎髭を撫でながら頷く。

「もしも露見すればまた政の駒として担がれる。
今回は徳興君が元にいる分厄介だ。
我が身可愛さのみの小者だが、何しろ毒を遣う。
この件で表に出てくればまたあの方に何をするか。
とにかく何か噂があれば、すぐに教えてほしい。
これが一の頼み。
そしてその噂を潰したうえで、あの方を別人として仕立ててほしい。
俺が碧瀾渡の人足市で買ったでも、北方の辺境で拐したでも。
何でも良いんだ。それが二の頼み。
その後は各地を転々として修めた医術の腕を買って、王様が皇宮医官として召し上げられた。それで手打ちだ。
頼まれてくれるか」

頭を下げると
「そんなのお安い御用だがよぉ、ヨンア」
師叔はいささか心配げに俺を見た。

「そんな噂が立った日にゃ、おめぇの名に傷がつくぞ。
清廉潔白、剛直忠臣がお前の売りだろうに、拐したなんぞ」
「糞喰らえ」
この噂で俺の名が流れるほど、此方に目が向くかもしれん。
それしきであの方から興味が逸れるならばしめたものだ。

絶対に露見するわけにも、手放すわけにも、あの方を傷つけるわけにもいかん。
俺の名で良ければ好きなだけ騒げ。

「もう一つ。
暫く休むように、王様に言われている。
その間幾日か、離れを貸してくれるか」
「もちろんだよ」
マンボが確りと頷く。
「好きなだけゆっくりしてきな。クッパもあるし」
「それは感謝するが」

俺はマンボの機先を制す。
「あの方は店には立たせん」
マンボが舌打ちをする。
舌打ちしたいのは此方の方だ。油断も隙もない。

あの方の気配が近づく。
それに気づき、俺は東屋から周囲を見渡す。
手裏房の隠れ家だ。急襲を受けることはそうないだろう。
受けた処で躱す術は幾らでもあるが、あの方の退路だけは常に確保しておかねばならん。

裏庭に続くあの通路。
そこから門への三十歩。

門を抜ければ馬が走れぬ裏道だ。
紛れ込めば一対一で斬り合いに持ち込める。
突当たりにあの方を背負えば、前からの敵のみ集中すれば良い。

よし。
かすかに安堵の息を吐き、あの方の許へ戻ろうと腰を上げる。

去り際にチホとシウルに向かい
「何かあれば、裏庭から門にかけて守ってくれ」
そう声を掛ける。
二人は訳が分からない様子ながらも、俺の声に頷く。

其処まで確かめ、俺はあの方の待つ部屋へと向かった。

 

「あんなに考えて疲れないのか、ヨンの旦那は」
シウルが驚いたように、ヨンの歩き去る背中を見送る。
「疲れないだろうね」
マンボが卓に頬杖をつき、呆れたように答える。

「ヨンにとっちゃそれが普通なのさ。
どう守るか、どう攻めるか。常に考えてるんだ。
虎だって獲物を追っかけてるとき、そう考えてても疲れないだろ。
生きてくために、必要なんだから」

チホが珍しく口答えせず頷いた。

「なるほどな。生きてくためにね」

 

 

 

 

楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

 

 

17 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    全てはウンスの為に、そしてウンスが生きる道はヨンも生きる道。ならば何があってもウンスを護れる術ならばそれが最良ということですかね。
    ヨンがこれから生きる為には呼吸するようにウンスが必要ですから、はい。
    さていよいよ二人きり、今からヨンがウンスに何を語るのか楽しみで仕方ありませんよ!!

  • SECRET: 0
    PASS:
    曼珠沙華に入ってから、戻ってきてからの場面と、過去の場面が想い浮かび…。今日は、真実ゲームの場面が…ヨンの切ない表情、手の動き。あの時伝えられなかった想いを、やっと言えますね。 コメント入れると返事の手間をかけると思い、控えてたのですが、きょうは我慢できませんでした。それくらい、私盛り上がってます。こんなお馬鹿を許してね。

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様、おはようございます❤︎
    ヨンの戦略(?)が小気味良い。
    なんて頼りになる男なんでしょう(≧∇≦)
    いつもいつも、ウンスの安全を危惧し、私もシウル同様に、ヨンが疲れ切ってしまうのを心配していましたが、どうしてどうして、ヨンには当たり前の事なのですね。
    むしろ、ウンスの為なので、いつになく冴え渡り生き生きしているのかも。
    チェ尚宮や手裏房と密談しているヨンが大好き❤︎
    的確に、あの顔とあの声で指示されたら、何でもしてしまいそうな私です❤︎

  • SECRET: 0
    PASS:
    おはようございます(*^o^*)
    毎回コメントのお返事を頂き、誠にありがとうごさいます。昨日のお返事では詩人さらん師匠の圧巻のお言葉に撃沈!させられました(ううっ…)
    ヨンが生きていくとは自分の大切な人を守ることなのですよね~
    ドラマでウンスが「もう私を守らないで」と言った時のヨンの表情が思い出されます。言葉で言い表せないような表情でしたよね~
    ミンホsi反則ですよ。どんな表情しても何を言っても虜にするのですから♪

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨンにとっては当たり前の事。
    確かに、あれこれ思いを巡らし、普通だったら疲れるよね。
    でも、ヨンは、そう言う戦を何時もしているから、苦でもなく自然と考えを巡らすのではないかしら。
    まだまだ、安堵するには早過ぎる。
    情報操作により、ウンスの名が出る事無くば安泰なのですが、そう上手くいくのかな?
    奇皇后は、既に襲ってきてるし・・・
    情報は、もう既に元に漏れてると考えた方が良いわけだし。
    ここは、手裏房のお手並み拝見と致しましょう。
    「ぽち」の意味深な画像が、何時も最後には胸騒ぎを起こさせるのよ。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >あみいさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    あのドラマ本編で、ウンスが言った
    「ここで生きるって事は、そう言う事なんだなって」
    戦う、傷つく、そして護る。
    武士として生き、これしか知らないヨン。
    平和ボケのウンスも分かっていると思いたいです。
    今晩、出張前の最終話。
    怒涛の完結ラッシュで、参ります。

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨンの生はウンスと共にある。どちらが欠けることなどあってはならない。
    そのために考えを巡らせ戦い守る。それがヨンの歩む道なのですね。

  • SECRET: 0
    PASS:
    本編で障子に映ったウンスの影を手でなぞってたとこかな?
    違ったらごめんなさい(そもそもあそこが皇宮からどれ位離れてるのかもよく分かってないけど…)
    でも勝手に設定して場所萌えしました(//∇//)
    あそこのシーン、大好きなのばっかりだから♪
    食いついたのそこかよ!と、自分でツッコミます。ええ、本当すみません(/ー ̄;)

  • SECRET: 0
    PASS:
    お~♪( ´▽`)
    さらんさん、怒涛の完結ラッシュ!
    楽しみでなりません(≧∇≦)
    ヨンのさりげない思いの強さ…
    たまりません(=゚ω゚)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    あの本編で、ヨンの生き方を知ったウンスが、
    どれくらいの危機感を持ったかは不明ですが
    武士として生きるというのは、それはもう
    背負うものは、生半可なものではないと思います。
    それを真にわかってくれていると嬉しいのですが・・・
    そしていよいよ、最終回です。
    ああ、ようやく。
    しかし本編は、Runawayで前振りしたこの後続きます・・・

  • SECRET: 0
    PASS:
    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    うわあ、却ってお気遣いいただいて申し訳ないです(゚ー゚;
    でもでも、本当にどのコメも嬉しく、ありがたく
    心の支えになっておりますから❤
    書いて頂ければ、本当に嬉しいですヨン(〃∇〃)
    いよいよこの後、激白です。
    そしてもう一つ、大きな事にオンニが気づくはず。
    正念場です。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    確かに、あの声で的確指示出されたら。
    何でもしますね。間違いありません・・・
    ヨンに疲れはないでしょう、ただ神経が持つのか
    人間はそれほど張りつめて生きていくことは可能なのか
    いろいろと、分岐点は今後出てくると思います。
    また切ない系か!もう嫌だ!ですがw

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    あれはもうヨンの魔力ですww
    ありましたね。ありましたね、ありました
    (大切なとこなのでリピートです
    はい、ありました。
    そうですね、オンニも言っていましたが
    「生き方を初めて知った」
    生きる事は闘う事、そして護る事。
    人生が全て戦場のように生きるヨン。切ないです。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    今回あの画像を使ったのは、最終話の時と
    あの時が、どれほど違うかを
    皆様に委ねる為でした。
    この後、全てのご判断を頂く刻です。
    ヤバい、ものすごく緊張します。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    そうですね、もう戦場の生き方しか知らぬ
    それが私のヨンなのかもしれません。
    ウンスオンニが、真にそれを理解してくれていることを
    心より祈るのですが・・・
    平和ボケオンニ故、若干の心配も・・・

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ルカさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    怒涛のラッシュ2連発。
    しかしやはりメインは、今回は曼珠沙華です。
    いよいよ告白の刻。
    御読み頂ければと思います。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >chamiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    そうです、あの離れ。
    あれは、城下の手裏房の隠れ家(兼 酒楼
    の敷地内と、私は判断しております。
    ウンスが毒で倒れた時、ヨンたちが隠れていて
    禁軍が探しに来て、その時マンボたちが
    「クッパ食ってけ」と
    うまくフォローし、目を離させていたのでw
    喰いつきどころ、niceです(o^-')b chamiさまGJ!

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です