曼珠沙華 | 5

 

 

坤成殿の王妃媽媽のお部屋の前に叔母上が立っている。
その姿を認め軽く目礼する。
王妃媽媽付き筆頭尚宮、武閣氏隊長のチェ尚宮に向かい。

チェ尚宮も俺の姿を見ると、同じ分量で目礼を返す。
絶対に一言はあるだろう。俺は肚の内に力を入れる。

 

「あの方を迎えに」
静かに告げるヨンに
「王様とのお話は終わったか」
あ奴の顔を見返して尋ねる。
「ああ」
「何を言われた」
「ああ・・・」

私は大護軍であるヨンアが言い淀むところに、ずばりと重ねて切りこんでやる。
「婚儀の件か、新居の件か」
ヨンアは微かに耳を赤らめて俯き、
「・・・ああ」
と頷く。
何なのだ、この男のだらしなく緩んだ顔は。
見ているこちらの方が、思わず知らず顔が赤らむわ。
兄上やムン・チフ殿に是非ともご覧頂きたいものだ。

「ああしか言えぬか」
「ああ・・・」
「ち、腑抜けが」
私は鋭く舌打ちをする。
「いや、そうではなく。余りにいろいろ、事がうまく運びすぎる」
「いろいろか」
それを聞き、私は薄く笑うと頷いた。

確かに七年も死んだように生きてきたこの男が、医仙と出会って以来の今日までの道。
いろいろどころの話では済まぬであろう。
「いつ挙げるのだ」
「何を」
「婚儀」
「・・・考えてもみなかった」

・・・待て。
お主、今何を言うた。
「医仙と好きおうて、あれほど騒いで一緒になれながら、婚儀を考えておらなんだと言うか」
「そうではない。そうではなく」
ヨンは慌てて、私の訊いた声を否定する。
「では何だ。はっきりしろ」
「勿論一緒にいたいと思っている。その為に戻った。だが・・・」

そこまでヨンアが言うと同時に、王妃媽媽のお部屋の扉がすごい勢いで開く。
ばあんと音を立て、扉が勢いよく跳ね返る。

「やっぱり!!!王妃媽媽、すごい!!!」

 

この方が開けた扉の内で大声ではしゃいでいる。
その後ろから王妃媽媽がそっと御顔を覗かせる。

「何事ですか」
俺は王妃媽媽に頭を下げ、はしゃぐこの方に低くお訊ねする。
「王妃媽媽がね?大護軍が来たようです、って教えて下さったの。
私は話に夢中で全然気づかなかったのよ。でも、声がするから、って」

・・・ほう。
王妃媽媽も気づいて下さった俺の気配。
あなたは話に夢中で気付かなかったとおっしゃるわけか。
成程。俺の気配がどのようなものか、まずはじっくり教えて差し上げねばならんようだ。

俺は王妃媽媽と叔母上の手前、どうにか冷静な表情を保とうと努力する。
王妃媽媽は困惑したご様子で、叔母上と顔を見合わせていらっしゃる。

「それでは王妃媽媽、失礼致します」
「よくぞ無事で戻ってくれました。暫くは医仙と共にゆるりと」
王妃媽媽はそうお言葉を下さる。
「は」

頭を下げて返答すると王妃媽媽はこの方を向き、
「医仙も。しばらくは大護軍とご一緒に」
「はい!でも、王妃媽媽」
「はい」
「明日から、媽媽と王様の脈診にだけは伺ってもいいですか?」
「それは願ってもないことですが・・・」

王妃媽媽は言い淀み、俺にちらりと視線を投げる。
俺がかすかに頷くと、
「王様にも、ご相談申し上げましょう。先ずは医仙、ゆるりとお休みください」

チェ尚宮を伴い王妃媽媽がお部屋に戻られるのを、俺は頭を下げお見送りする。
そうしながら頭の中にまたしても箇条が増えた。

この方には扉の開け方も教えねばならん。
俺に訊く前に勝手に往診の予約を入れるなとも。

 

 

 

 

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18 件のコメント

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    チェ尚宮の質問攻めに「あぁ、」としか答えられないヨンが可愛いと思いましたよ♡
    ウンスより王妃様の方が早くヨンに気付いたと聞いてちょっとムッとしたのも良いです!( ´艸`)
    戦場ではあんなに天下無双状態なのに、ウンスの言動でこんなに普通の男になっちゃうのもキュンとしています。
    今は一人PCの前に居ますが、一人で良かった♪顔が凄くニヤケテいます(-^□^-)
    また覗きにまいりますよ(´0ノ`*)

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    ヨンはもう(///∇//)ですね。
    チェ尚宮でなくても、叩きたい(軽く)感じです。
    頭の中にそんなに箇条書きしたら
    最初の忘れそうですね。
    でも、自由奔放なウンスには無駄のような気がしますが・・・・・

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    「ああしか言えぬか」「ああ…」嬉しすぎて魂抜けヨン。可愛い!何を想像してるのか、覗いてみたいわ。今ですら、こんな状態。いざそうなれば、どんなになるんだろ? それでいて、何気にヤキモチしつつ、箇条書き増やしつつ、幸せですね。

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    さらん様、おはようございます❤
    ヨンの心配は尽きませんネエ(*^^)v
    箇条書きで頭の中に記憶するって...そんなに詰め込んで大丈夫かヨン!!
    ヨンがどんなに教え諭しても、聞かぬものは聞かぬものを...。
    ウンスが戻って、ヨンは本当に今を生きているのですね❤
    どんな、婚儀になるのか楽しみです。
    おそらく、ウンスの美しさを自分以外の誰にも見せたくないなどと思うのでしょうね(*^_^*)
    来日したミノ氏ですが、私も感じていました。
    随分と顔がふくよかになって見え、信義の時の様な尖った表情は一切無く、別人です。
    もともと太りやすい体質なのかも知れませんね。
    でも大好き❤

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    作法なんてウンスには分からないわね。
    ヨンの小言が増えそうで、ウンスが心配なのですが(・・;)
    ヨンの戸惑い。
    ウンスとの婚儀は、何の憂いもなくなった頃に、という事かしら?
    奇皇后の件もあるし、倭寇・紅巾と問題山積みでしたね。
    その辺が、国を守る男の考えと周囲の考えの違いでしょうか?
    一緒には居るけど、婚儀は後回しって、ウンスと揉めるかしら?
    まぁ、現代っ子でシングルのウンスの事、ヨンが上手く説明できれば、同棲という形でも理解はするでしょうけどね。

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    「…考えてもみなかった」ではなくて「まだそこまで考えを詰めていなかった」と 言って欲しいな。だってヨンの言葉をもしウンスが聴いたらショック受けて立ち直れないよ。命懸けで戻ってきたのだから。口下手さんね。
    色々教え込む前にプロポーズして婚儀の打ち合わせしましょうよ!教え込むのは後でいいから。

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    勝手に往診の予約を入れるなと…いい具合にヨンが壊れてきててウホウホです♪
    鬼マネージャーだけど(^-^;
    ヨンの気配の個人教授♥受けた過ぎる…
    その前にヨンの怒り気配をトクマンに教授してあげて、と思うけど
    「お前には一生分からん」
    とか言われそうでもある
    そしてヨンに唯一鋭いツッコミを入れられる尚宮様最強♪大好き!
    読者総ツッコミしたい事をストレートにズバッと切り込んで下さるあたり、流石コモニム武閣氏隊長ですね(*^^*)

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    よいのです。よいのです。
    腑抜けOK~♪です。
    ほう…王妃ママが気付いた俺の気配に貴女は話に夢中で…のくだり笑ってしまいました(^o^)やっぱりヨンとウンスはこうでなくっちゃ♬
    続きが楽しみ~です!

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    ヨンは、ウンスに対する懸案事項が山積みの様ですね。宮殿に戻れば、以前の様な小言の多いヨンに戻ってしまうのかしら?(笑)
    これから、ヨンはウンスとの婚儀の話をどのように進めていくのか楽しみです。

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    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    もう、ヨンは何に関しても、ウンスの一番でないと
    気が済まないのでしょうが、それは無理と言うものです。
    PC前でニヤけて頂ければ嬉しいです( ´艸`)
    私も書きながら、ニヤけておりますから・・・❤

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    >じゅりママさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    箇条にはしていても、ウンスの顔見たら
    どうせ半分も言えないんでしょう。
    :*:・スキ( ̄∀ ̄)スキー・:*:になるんでしょう。
    と、勝手に予想しております。
    ウンスは、聞く聞かぬはともかく
    この時代に戻った以上、聞かねば身の危険と
    それくらいは知っておいて頂かねば
    書く側として困るのですが(w
    どうなることか・・・

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ヨンが想像しているもの・・・
    ウンスとただひたすら近くにいれば、
    今はただそれだけで幸福なのでしょう。
    それ以上の事は望んでいないように思います。
    それを周囲から婚儀だと新居だの、体裁を
    整えるよう言われて、ああ(そうか、そう言う事も
    大切なのか)的な感覚かもですね。

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ミノ氏の「相続者たち」「Song for you」応援に
    こちらでも何か書ければなーと思うくらいには
    ミノ氏を好きなのですが。
    でもやっぱりヨンでないと・・・タンでは・・・
    第一それ書いたら「信義二次」でなく
    「ミノ二次」じゃね?とww
    婚儀はもう、ヨン、笑い&突込み処がたくさんですw
    (すでに格納済みです

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ヨンに説明だの、口のうまさだのを期待するのは
    もう、書き手として諦めておりますww
    全っっ然、駄目です。書いてても「え?」と
    呆然とするくらい、話しません・・・
    婚儀、後回しかなーどうかなーと言うところですが。
    責任はしっかり果たす男ゆえ、役目でウンスを
    待ちぼうけw喰らわすような男ではない事を
    切に、祈りつつ。

  • SECRET: 0
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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    あはははは、本当ですよね。
    口の下手さはどうしようもないですが
    これはもう・・・(;^_^A
    ただ、自分としては「歩みが遅くて」
    周囲のペースについて行けないというか
    周囲が気が早いのか、ヨンが遅いのか?です。
    ウンスオンニも帰ったばかりで、そこまで考えているのか・・・
    まあそれでも、聞いたら激( ̄∩ ̄#ですね

  • SECRET: 0
    PASS:
    >chamiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ヨンの気配授業・・・
    くくく、どんな絵がchami様の脳内に展開されているか
    私はそちらに興味が( ´艸`)
    トクマニには、気配など察する能は、最初から
    無さそうです・・・悉くヨンの怒りにジャストミート故。
    それがトクマニの良きところでも、
    可愛らしいところでもありますが(;´▽`A“
    「おぶって、という事は医仙様に触れてもいいんですね」
    だから腹に蹴り喰らうんだよぅ、トクマニー!

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    腑抜けOK~♪ですか?
    良かった良かったです(●´ω`●)ゞ
    もう、ヨンのヤキモチ加減は
    媽媽にも向けられるほどなので
    何をか言わんやですが・・・
    えええ、そこ?って感じです。
    まあ気配を読む、察するというのは
    この時代には必要な事ですが
    現代っ子の平和ボケなウンスオンニには
    ちとハードルが高いのでは?と思いますが。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    小言ヨンに戻るかどうかは、ウンスがどれほど
    きちんとヨンの話を聞くかにかかっているやもw
    ヨンも、頭の中はいろいろ考えていますが
    どうせオンニには半分も言えませんww
    しかし、自分でその部分を補おうとするでしょう・・・

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