曼珠沙華 | 8

 

 

典医寺を出る頃には秋の日暮れは、駆け足でそこまで迫っていた。

今日の最後の太陽が、空を燃えるような茜に染め上げる。

「迂達赤には、明日」
俺の声にこの方が頷いた。
「じゃあ、マンボ姐さんの酒楼に行く?」
その問いに頷き、二人で酒楼に足を向ける。

「師叔!マンボ!」
門をくぐると同時に奥に向かって叫ぶ。
「戻りました!」
その声にマンボが奥から走り出てくる。
「国境制圧の大護軍のお帰りだね!クッパ食ってくか?」
そこまで言って、俺の隣に目を向けて

「天女、全く呑気だね。どこで油を売ってたんだい!!」
まるで何事もなかったかのように大声で呼ぶ。
「マンボ姐さん、ただ今!!」
マンボに駆け寄ったこの方がマンボの手を取り、嬉しそうに上下に振って

「クッパ、下さい!!」

そう言った。

 

「美味しい」
クッパの椀を目の前に俺を見てにこにこと笑うこの方。
「やっぱりマンボ姐さんのクッパが一番美味しい!すごいなあ、私も弟子入りしようかな」

手放しの誉め言葉に向かいのマンボが破顔する。
「いいねえ、天女がいてくれりゃ千客万来だ」
そして俺を見ると
「どうだいヨンア。ここに住んで、お前さんは皇宮に出仕して、天女はうちで料理の弟子入りってのは」
と流し目をくれる。
「ふざけるな」

その短い声に
「取り付く島もありゃしねえ」
マンボが不満げに鼻を鳴らす。

「仕方ないよ姐さん、ヨンの旦那が天女を店に働きになんぞ、出すわけねえだろ」
酒楼の客席の東屋の欄干に腰かけて、矢尻を磨きながらシウルが笑う。
「そりゃそうだ、何しろ病持ちだからな」
チホが立てた槍に寄り掛かりながら、意味ありげに此方を眺める。

「黙れ」
「病か、違いねぇ」
「師叔まで何なんだ」
その遣り取りを笑って眺めるこの方。
あなたの所為で困っているというのに。

俺は咳払いし話を変える。
「ヒドは」
「ああ、別件でもう出たんだ。今回はいろいろあったらしいな」
師叔の言葉に小さく頷く。

あの方とマンボは料理の話でわいわいと盛り上がっている。
俺が師叔に向かい小さく目を動かすと、気づいた師叔が静かに席を立つ。

客席の東屋の下。少し離れた処で、俺は師叔に告白した。
「ヒドから聞いたか、雷功の事」
「細かくは聞かねえが。おめぇ、師兄からも訓練は受けてないだろう」
「基礎しか修めていないはずだ。何故成せたのか、俺にもよく判らない」

戸惑ったように告げる俺を見て、師叔は俺の肩を叩いた。
「師兄がよく言ってた。我欲のための内功、即ち内功に非ずってな」
そして東屋のあの方に目を遣ると呟いた。
「おまぇには天女がいるからだろ。そのままでいいじゃねえか。難しく考えるな」
俺はその師叔の言葉に、曖昧に頷いた。

隊長。
このままでも良いですか。
隊長に育てられた俺の全てで、あの方を護りたい。
これから先はあの方のためにだけ、生きても良いですか。

東屋の下に、赤い花が群れ咲いて揺れている。
秋の夜の月明かりの下、あの三日月のように赤く。

あの赤い月。
俺の武技の師父だった方を、初めて隊長と呼んだ日。
隊長は俺に言った。

明日も明後日も人を殺めるようになる。
相手に愛しき者がおると考えるな。
奪った命、全て自分が負う事になると。

俺は答えた。
構いません。
考えません。
背負いますと。

隊長。
俺は今でもそう答えるでしょう。
あの方がいらっしゃる。
俺が先に、あの方を残して逝くわけにはいかぬ。
あの方を護るその為にのみ、俺は隊長の残したこの剣を振るでしょう。

家族を、お前が守ってくれ。

最期の隊長の声が耳に響く。

そうだ。あの方は俺にとって今まで得た、どの家族よりも大切な家族になる。

俺が護る。あの方を。

赤い花が風に揺れる。

己の道を行けと言うように、一斉に首を、同じ方へと傾けて。

 

 

 

 

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24 件のコメント

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    おはようございます さらんさん
    曼珠沙華8のアップありがとうございます
    こちらにお邪魔してアップされてるのを
    確認すると ワクワクしながら読んでます
    この先どうなるのか 楽しみに待ってます
    今日私の街は雨です 肌寒くなりましたね
    よい一日になりますように

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    ☆-( ^-゚)v
    実は私隠れスリバンファンなんです。(‐^▽^‐)
    だから、さらんさんのお話では、スリバンに出番が沢山あるのでо(ж>▽<)y ☆
    出来たらもっと、絡まして下さい。
    宜しくお願いしま~す。

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    まだまだ再会する人達がいましたね。二人きりになれるのはこの後かしら。
    ヨンの病は悋気病かな?それとも愛情過多独占欲病?結局は一緒ですけど(笑)
    曼珠沙華の花のもとムン・チフを思い出す。新しい未来の為に抱く心構えを考えさせてくれる大切な一時ですね。

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    以前と変わらない会話。変わらない態度。当然のように受け入れられるウンスの帰還。
    全てが暖かくて、笑っちゃうウンスとマンボ姐さんのやり取りなのに、何故か目頭が熱いです。
    ウンスはこうやって帰ってきた事を実感する事で、ヨンとの幸せを心底噛み締められるのではないかと。
    開京に帰還してからのお話は、まるでヴァージンロードです☆
    見えない赤い絨毯の上を、二人が歩いているよう(*^^*)
    みんなに祝福されて、フラワーシャワーを撒いてもらってる私の勝手なイメージ♪ホワーン☆
    こうなりゃヨンも困ってる場合じゃないよね!
    今宵は一からウンスに語ってあげてね( 〃▽〃)ヒャッホー♪
    あ、ムンチフ隊長かこいいーっ!
    曼珠沙華似合い過ぎ…血の涙が思い出されます(T-T)

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    ウンスを生涯護り抜く事。
    それが、ヨンの家族を護る事!になった。
    今までの家族とは違う、自分の命も差し出せるほどの、強い意志と想いが其処にはある。
    重いですね。
    それに反して、ウンスは、トギやマンボ姐さん達に逢い、以前と変わらぬ屈託の無い様子。
    そんなウンスに癒され、また愛し合うことでヨンは生かされていく。
    護る者が出来ると言う事は、弱点でもある。しかし、それを跳ね除けるほどの力を、これからも付けていくのだろう。
    それは、自分でも推し量れない、途轍もなく大きな力であると思う。
    その決意を、花に乗せ応援しているようです。

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    昨日は何だか睡魔に取り付かれ今日やっとコメントできます。
    トギにも会えて師父にも会えて、あぁ、都に戻ってきたんだな~と改めてじ~んとしてしまいました。
    雷功大爆発も愛の成せた技。ヨンにしては本当に驚くべき事だったのだと思いますが、本来内功とはそんなものだったのではないのかな?と、思います。
    また、覗きにきます。(≡^∇^≡)
    昨日も今日も以上に眠い・・・冬眠でもするのかしら・・・私。

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    さらん様
    承認頂きながら今日迄、お礼もせずにすみませんでした…>_<…
    向日葵1を読んだ後にコメント欄にてお礼させてもらうつもりがでした。
    それが読み始めた数秒もしないで、話にグイグイ引き込まれ時間の許す限り読み耽る毎日を送らせて頂きました。
    とにかく面白いです。
    贅沢にも一気読み出来た私は最高に幸せでした♥︎
    これからも身体にご自愛して無理せず、そして少しでも長く書き続けて下さいませ。

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    隊長との誓いを改めて心に刻む時、それは守りたい大切な家族が出来る時。
    ヨンにとっての自分の存在価値は全てウンスと共にあるのですね。そして、その思いを亡き隊長にも分かって欲しかったのかな。
    奪った命の重さを背負う事だけだった悲しい剣も、ウンスに包み守られ癒されていくのでしょうね。

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    さらん様、こんにちは❤
    ポチ画像の隊長、素敵ですね。
    チャン侍医もそうですが、既に彼岸の彼方に行ってしまった方達と曼珠沙華は怖いくらいに美しくて悲しい。(p_-)
    手裏房の面々に逢い、後は迂達赤ですね。
    楽しいと思って読み進めると、甘~くなったり、切なくなったり、そして最後にホロリとなって...。
    ヤバイです!!
    ヨンの目線の合図、今回も有難うございます❤
    声フェチの私は、さらん様の書いた台詞を全て頭の中でヨンにしゃべらせています。
    良いですよ~❤

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    今回の画像はヨンの隊長でしたね。
    さらん様というお方は…
    詩人ですね!どうやったらこんなに素晴らしく情景を語れるのですか?
    今日の最後の太陽…普通だったら夕日、それ以上私の乏しい感性では思い付かず‥
    もう~さらん様の曼珠沙華は曼珠沙華以上に曼珠沙華です!←理解して頂けるでしょうか?

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    >haruさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    とんでもない、こちらこそ御読み頂き
    本当にありがとうございます(*v.v)。
    冷たい雨で、お風邪など召しませぬよう
    暖かくして、御読み頂ければ嬉しいです。
    良い週末をお過ごしください❤

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    >じゅりママさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    おお、手裏房がお好きとは❤
    あの、緊張感の中、チュンソク副隊長とは違う
    一服の清涼剤?いえ、お笑い?
    マンボ姐さんと師叔のおとぼけぶりも素敵です。
    これから先も、ちょこちょこ絡みます❤

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    ええ、もう、周囲も認めておりますが
    病ですから。恋の病ですね。
    いよいよ、ヨン激白の時も近く。
    ああ、緊張いたしますσ(^_^;)

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    >chamiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    もう、多分周囲も半信半疑だったと思います。
    正直、皆チェ尚宮コモが最初におっしゃったよう
    どんな風にヨンが忘れていくのか、状況見だったと。
    恐らくオンニの帰還を一番信じていたのは、
    媽媽と王様だと思います。
    特に媽媽は、大切な言葉を受け取っておりますから・・・
    ムンチフ隊長、画像が少なくて若干涙目。
    でもさすがに血の涙はいやーーっと( ̄_ ̄ i)

  • SECRET: 0
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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    こうして、天界の赤い花の下、
    逢いたかった方々と、再会を果たせました。
    心残りはチュソクとトルベ。
    近々、どうにか再会を果たさせる所存。
    そして胸に痞える言葉へと・・・

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    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    そうですね、内攻、中国の任侠武芸小説とか
    ちょこっと読んでみたのですが、
    結局は、内なる力を極限まで高めて
    外に放つ、との位置づけのようなので・・・
    内なる力、ヨンにとってはオンニしかないでしょとw
    季節の変わり目、秋の夜長。眠い時には
    無理をされず、ゆっくりお休みくださいね❤
    ZZzz….Oo。。( ̄¬ ̄*)

  • SECRET: 0
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    >とこちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    今回は、一番力を入れたのが
    ムンチフ隊長とチャン先生の2つの画像w
    イメージ沸けば、良かったです❤
    ありがとうございます(●´ω`●)ゞ

  • SECRET: 0
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    >琥珀の月さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    とんでもないです!こちらこそ、申請ありがとうございました。
    読んで頂けて、とても嬉しいです。
    これからも無理なくボチボチUPしていく予定です❤
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

  • SECRET: 0
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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    そうですね、ヨンにとっては実の御父上亡き後
    相当の覚悟を持って飛び込んだ赤月隊。
    尚宮コモがいるとはいえ、やはり赤月隊の絆は
    忘れがたいものなのでしょう・・・
    初めてその絆を存在を手にしたヨン。
    しかし、その行く手は
    そんなに簡単なものではないのですΣ(・ω・ノ)ノ!
    だって書き手がどSですからー!

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    画像を褒めて頂けると嬉しいです❤
    今回のメインは、この2点の画像ですから
    (`・ω・´)
    えーお話も、勿論ですがww(付け足し感!
    ああ、嬉しいです。
    もうとにかく、ヨンのあの声さえ届けば
    後の事はどーーーでもよいのです。
    (いや、良くはないですねスミマセン

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    詩人ですかw
    いえ、普段なら私も「夕日」なんです。
    ただそこにヨンが佇めば、
    「今日の最後の太陽が、
    丈の高いヨンの背後から
    最後の温もりを惜しむよう淡淡と差し込み、
    その頬に、長い前髪の影を落とす。
    地に伸びるその長い影は、その夕陽の中にいる
    ヨンよりもよほど、ヨンの姿を映している。」
    となるから、あーら不思議です。
    変態ばちこいです(`・ω・´)
    廃人上等ですとも!
    (自分で言って、若干怖いですが)

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    >わいやーさん
    おはようございます❤コメありがとうございます。
    いえ、私ではなくヨンです。
    ヨンの魔力、恐るべし(°Д°;≡°Д°;)

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