医仙がいらっしゃる前には、すぐにそうと判る。
空気が弾むのだ。
いつも何かしら大きな声でお話されているゆえ。
今も回廊の向こうより、医仙のお声がする。
大護軍に向かい何か懸命に語っていらっしゃるようだ。
ああ、何と懐かしや。
王妃はこみ上げる笑みを抑えきれず、王を見やる。
王もその王妃の目を見て、かすかに頷く。
近づく声が康安殿の回廊の突き当たり、私室の前で止まる。
「王様。迂達赤チェ・ヨン参りました」
「入りなさい」
扉が内官の手で開かれ、大護軍と医仙が入室する。
王は執務室の机の前を立ち、階の一段下に降りる。
「大護軍。この度の国境での役目、誠にご苦労」
「は」
チェ・ヨンが頭を下げる。
王はそのまま、チェ・ヨンの横に立つ医仙に向け大きな笑みを浮かべる。
「医仙。よくぞご無事で」
「ありがとうございます。王様もお変わりありませんか?」
「はい。医仙も元気そうで何よりです」
「馬からは落ちましたが、打ち身だけです。大丈夫です」
そして王の横の王妃に目を遣り
「王妃媽媽・・・」
そう言ったきり、珍しく口を噤む。
大きな瞳に、溢れんばかりの涙を浮かべて。
妾は何も言えないまま、そっと頷く。
この目にも同じように、涙がいっぱいに溜まっておるのだろう。
目の中の医仙のお姿が揺れて見える。
そのまま医仙が歩み寄ると、
「抱き締めても宜しいですか。天界の姉として。許して下さいますか」
と、そっと尋ねる。
瞬きの拍子に医仙の目から、ほろりと綺麗な涙が頬に筋を引いて零れた。
妾は医仙の目を見て頷く。
医仙の細い手が回され、強く優しく抱き締められた。
チェ尚宮はその様子を見て微笑んだ。
「王様、申し訳ございません。後できつく注意を」
ヨンがウンスを見遣りながら、王に頭を下げた。
王は手を上げてそれを制し首を振ると
「天界とは、まこと平穏で慈悲にあふれた場所なのであろう。
医仙を見ておれば分かる。
あの王妃の様子を見れば、寡人も嬉しくてならぬ」
ただ優しく王妃を見つめ、静かにそう言った。
********
俺は康安殿に残ったまま。
王妃媽媽とあの方は、王妃媽媽の坤成殿へと戻られた。
回廊を歩くあの方の声が少しづつ遠くなり、やがて聞こえなくなる。
嬉しそうにはしゃいでいたが、落馬の後にあれほど動いて良いのか。
そして久々の皇宮、警備の具合もどうなっておるか。
媽媽を守る武閣氏、王様を守る迂達赤に限って手落ちがあるとは思い難いが。
まずはここを出で、急ぎ確認だ。
これからあの方が隠れる場所。
万が一にも手落ちがあっては許されぬ。
確認事項を箇条書きを、頭の隅に刻む。
「この後の事だが」
王様がお尋ねになる。
「医仙は、どうなさるおつもりだろうか」
「ゆっくり話すつもりではありますが、一度は公開処刑の勅旨の下った方。
帰還が表沙汰になれば、新たな戦の名分とされましょう」
伝える俺の言葉を聞き、王様が思案気に頷かれる。
「天界の医仙としての過去自体を封印するしかないかと。
かといってあの方が病人怪我人を目の前にすれば、手当を止める事叶わず。
天界の道具など用いて皇宮外で医術を施せば問題となりましょう。
皇宮医官として留め置くのが一番ではと」
「・・・そうだな」
「今回の刺客は恐らく、元の奇皇后の差し向けた者。
証拠は掴めませんでしたが、現在完全に力を失っているトゴン・テムルに成り代わり、
奇皇后が王様との駆け引きの為、あの方を捕えようとするは当然かと」
またも頷いた王様は、暫し考え込まれているご様子。
これ以上ややこしい事にならぬと良いが。
俺はそれのみ願い、胸に溜めていた息を一息に吐く。
しかし王が考えていたのは、チェ・ヨンの思うところとは少しばかり外れていた。
大護軍が寡人の前でこれほどに饒舌になるのは、後にも先にも医仙に関わる事のみ。
本人はしかし果たして、それに気付いておろうか。
王は胸の裡でそう思いながら、ヨンの話を聞いていたのだった。
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再会の喜びの様子が浮かびます。絶対王妃様にはハグですよね。そしてその様子を見ながら微笑まれる王様。間違いないです。
ヨンはウンスを護ることだけ考えていますが王様は違うのですか?次回の王様の御言葉が気になります。何でしょうね。
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とっても美しくて素敵なシーンです。ウンスと王妃様の涙に、私も一緒に泣いてしまいました(T^T)
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自分の行動がいつもと違う事に本人が一番気付いていないんですね。
それに気づいているチョナはさぞかし驚き、少しは面白いと思ってくれてると私的には面白いのですが( ´艸`)
また覗きにまいります~♡
今日はちょっと大人の時間を更新予定です。
ののは今日どうにかしているらしいです。(;´▽`A“多分、夜8時頃更新する予定です
どうにか振りを良かったら覗きに来てくださいな♪でも、引かないでね、さらんさんヽ((◎д◎ ))ゝアハハ・・・
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今は大護軍、そうもいかなくなったかしら?でも、相変わらず無口は変わらないみたい。
そんなヨンが、ウンスに関しては饒舌になる。
それを聞いているチョナは、何を思うのか?
やっと、皆に会う事が出来ましたね。
王妃様とは、高麗での姉妹のように抱き合い喜び合えました。本当に良かった( ̄▽ ̄)=3
元への対抗措置等、問題山積みですね。
ヨンとウンスは、まだ居を構える事は出来ないのかしら?
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もう、心踊る想いで読んでおります
心は乙女♪言うはタダ♪
思えば信義廃人になって一番最初に読ませて頂いたさらんさんの小説
ただただ続きが読みたくって心が急いていた一月半前…
その後に続く一章ごとに紡がれていく物語を丁寧に読んでるうちに、知らぬ間に一人一人の人物像に厚みが増していました
本人たちは言うに及ばず、周囲の皆の想いを纏って、ヨンとウンスが幸せに幸せに微笑む事を祈らずにはいられません
まぁ、甘々ヨン炸裂は約束されているので安心ですが(; ̄ー ̄A
早く人目が無くなるといいね♪ヨン♪←向日葵8話のヨンに言ってます(^w^)
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さっそくのご承認ありがとうございました。アメンバー記事も拝見出来ると、大変嬉しく思っています。「曼珠沙華」も最初から引き込まれています。読み終わるとすぐ次の展開が気になってしまい、家では何度もスマホを手にとってしまいます。(⌒▽⌒)
気候が不安定な折、どうぞ無理せずご自愛くださいませ。
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これから雨風本番になりそうな連休最終日の午後、いかがお過ごしですか?
私はやっと…平常心でお話が読めるようになりました。
曼珠沙華1では、やっと開京にウンス達が戻るというのに、1行1行読み進めるだけで涙が止まらず…。
悲しいことなどどこにも書いていないのに不思議なものです。
言葉にしたい気持ちは沢山あるのですが、さらんさまのように上手く言葉にすることができず、なかなかコメント出来ないままでした。
ソンジンのことも…。
先生のその後も気になりますが、とても後味の良い終わり方でした。
ウンスはソンジンを忘れないでしょうね。
これからも、さらんさまのお話を首を長くしてお待ちしています(^^)
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二人やっと皇宮に帰れましたね!
みんなに喜んでもらえる、嬉しいですよね~。
王様がヨンの饒舌さを気にしてるのが“そこか…!!”と思っちゃいます( ^^)
お仕事忙しいみたいですが、無理のない範囲で書いて下さいね!
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>あみいさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
はい、ここは鉄板!と思い書きました。
王妃媽媽は、あの大切な言葉を教えてくれて
そしてヨンと離れ離れだったウンスに
今は並々ならぬ想いと信頼を抱いておられると
(*^▽^*)
さらん解釈で御座います。
さて、三択です。
王様の次のお言葉は次のうちどれでしょう。
1.婚儀について
2.元との交渉について
3.徳興君の近況について
答えは夜に❤
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とうとう此処まで到達されましたね♪
これから先は筋書きのないドラマ…さらん嬢の妄想力(笑)・筆力のまさに独壇場!!
どんな物語が紡がれるのか楽しみにしています。
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>kumiさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
一緒に涙して頂ければ嬉しい限りです❤
この後も、少しだけ続きます。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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さらんさんの、お話しとっても大好きです。
アメーバ限定のお話しも読む事ができ、とても嬉しいです。これからも素敵なお話し楽しみにしています。
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
台風ですから、心も乱れますね( ´艸`)
ああ、大人のお話TIME❤キャーッ(〃∇〃)
まずは婚儀のお話の続きを拝読せねばっっ
(*゜▽゜ノノ゛☆
22時にこちらのアメンバー閉めたら、
すぐに伺います❤❤うきゅっ
あ、王様は勿論、面白いと思っていますw
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>mayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
この辺、ヨンの頭を痛ませますw
この後出てきますよー大丈夫です(o^-')b
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>chamiさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ああ、良かったです。
この、再会のお話まで時間をかけたのは
それまでの周囲の気持ちとか状況を
分かって頂きたかったからなので。
今【向日葵】【迷迭香】を読み返すと
あの時はフーン、と思って読み飛ばして頂いた
ちょっとしたディテイルが目につくと良いなと
それだけを想っています。
早く、無くなると良いです。
しかし、それどころではない話を
一服処で、書きそうですがwww
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>まのあさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
うわあ、ありがとうございます。
早速読んで頂けているんですね!
目下のお薦め、一服処では
気軽に小さいお話、書いております❤
ああ嬉しいな、読んで頂けたら光栄です(〃∇〃)
曼珠沙華は、もう帰京三部作の最終章なので
ある意味安心鉄板ストーリーです。
ただ、ここから始まるお話でもあるので
これは、これで❤
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>みゅうさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
心が痛いでしょうか、大丈夫ですか?
良いのですよ、大丈夫です。
みゅうさまが愛して下さっている事、
しっかり伝わっておりますよ。
ヨンも、命より大切なウンスを連れて
無事に帰京しました。
これから、テマナの言う通り
誰よりも、幸せな二人になります。
ゆっくり、幸せな気持ちで
読んで頂ければ、それだけで嬉しいのです❤
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>えびにゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
えびにゃんさま、ナイスつっこみです(o^-')b
ほんと、そこかよ!ですよね。王様、やはり
どこか、すっとぼけた御方です。
高貴の方々は良く判りませぬ・・・
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>まあもさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
はい、いよいよここからは歴史資料と睨めっこ
そして心の中に響くあの声だけを頼りに
妄想力で突っ走るしかありませぬ。
でも大丈夫です。いつもいつでもあの声だけは
絶対に忘れません(〃∇〃)
あの声が言わない台詞を言わせなければ
きっと大丈夫ーーと信じます。
(すでにそこからして妄想!!!
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>プーさんのお母さんさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
そんな風に言って頂けて、嬉しいです❤
お話でしか、お返しできませんが、
これからも可愛がって頂けるお話が書けますように。
精進、します(●´ω`●)ゞエヘ
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天門が開くのを毎日待ち続けて、とうとう…
嬉しいです≧(´▽`)≦
全公開分だけでも十分胸一杯でしたが
あまりの切なさに息が詰まりそうになることもあって
どうしたらいいの~Y(>_<、)Yって
よくPC画面の前で悶絶してました
一服処とかに入れるようになって、にやけ笑いをこらえる苦労も増えましたが、幸せです~♪
これからも素敵なお話楽しみにしています。
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さらん様、こんばんは❤︎
ようやく、ホントにようやく、開京でチョナとワンビに逢えましたね。
王妃媽媽とウンスは、故郷を離れ異郷の地で愛するひとをひたすら支えて生きるもの同士、通じるものが多々有るのでしょう。
寄り添う美女ふたりを高麗最高の男ふたりが、それぞれの目線で見つめているのかと思うと、それだけで胸が熱くなります(^^)
早く続きが読みたいです❤︎
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>よってさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ああっ、辛く切ない思いをおかけし
本当に申し訳ありませんでした・・・ヽ(;´Д`)ノ
もう安心です、一服処は小難しいものも
切ないお話もありませぬよ。
たまに突拍子もなく、Rが・・・
来たりするかもですが・・・でもその時は、
その前に、きちんとお伝えします!
いきなりショッキングな場面にはなりませぬ。
是非、PC前でニヤニヤしながらお読み下さい❤
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
そうです、ようやく。
そして、王妃媽媽にしてみれば、あの大切な言葉を
教えてくれたオンニが、ヨンと離れた時間が
どれ程辛いか、分かっているのでしょう。
【秋菊】でおっしゃっていたように。
そう、ここはあのドラマの橋の上からの
お互いの想い人だけを見つめる、少しずれた
それぞれの視線なのです(〃∇〃)
ああ、書けて幸せ❤
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>さらんさん
せっかく問いかけてくださったので考えてみました。
参考にする花言葉も3つもあってどれを選ぶかで答えも全く違う気がします。
できれば「想うはあなた一人」から1番の婚儀としたいところですが、「悲しい思い出」からの2と3番だったりするのかなと悩みます。
ここはやはりさらんさんの更新をお待ちしたいと思います。
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>あみいさん
おはようございます❤コメありがとうございます。
更新、致しました❤本当は夕べと思いましたが
昨日はいろいろUPがあり、宣言通りにならず
申し訳ありませぬ(゚ー゚;
答えは何のひねりもなく1でした❤
さて、今回の曼珠沙華は短いお話ですが
今後の流れでは一区切りなので
大切にUPしていく予定です(●´ω`●)ゞ