2014.08.22 ■迷迭香【長編】さらん

迷迭香｜ 13

翌朝。
もう顔を隠す必要もないだろうが、それでもこの方に笠をかぶせ、身支度を整えさせる。
周りの奴らが俺達を盗み見ては、俺が睨むと慌てて目を逸らす。

昨日の一戦でも大した怪我人は出なかった。
手当てと薬湯のお陰で、今日の行軍にも問題はなさそうだ。

朝餉の後、俺は騎乗前に皆を見渡す。
「今日の昼には、禁軍と合流する。
合流後は、一気に皇宮まで抜ける。
敵に情報が漏れていれば、合流前に必ず再度仕掛けてくる。
可能な限り生かして捕えろ。
そしてもう判っておろうが、この方は女人ゆえ」

皆が頷く。
「絶対に、お守りせよ。良いか」
「はい！！」
兵たちが一斉に声を上げる。

俺は鞍座した馬にこの方を乗せ、己も騎乗する。
テマンがこの方の左についたのを確認し、他の兵が態勢を整えた処で、最後の声を張る。

「出立！」

*******

相手の仕掛けは予想よりも速かった。
薄暗いうちにこの方が山道を走るのは危険と判じ、明け方まで出立を待った事もある。

陽が昇ると同時に背後の山道で、敵の気配を感じる。

奴らも俺達が皇宮に入ったら最後、この方への手出しが難しいと判っているのだろう。
昨日の一戦で数が相当減ったとはいえ、後方隊と合流したのか、国内の奇家の残党か。
百には欠けるが、それに近い気配がする。

不利なのは此方が坂を下りている事。
そして不安なのはこの一両日の行軍で、この方の疲れが限界まで溜まっている事だ。

この後の山道の地形を頭に描く。
禁軍との合流まで、早くて二刻半。
この方が走り続けるのは不可能だ。

何処かで迎え撃つか。
しかし、この先は勾配が大きい。
下ってくる敵に対しての矢は効きにくい。
それに対し上から撃たれれば、数で少ない分被害は大きい。

この方の馬を捨て、俺が乗せてお連れするか。
それでは速度が落ちる。
いずれ追い付かれれば、この方を乗せた馬では戦えぬ。
しかし俺が陣を抜ければ、攻められるは必至。

そう計じ、この方よりほんの一瞬気が逸れた。

「･･･っヨンア！！」
ヒドの叫び声が山道に響き渡ったその瞬きの間。

この方の乗った馬が、山道の岩に足を取られた。
そのまま横倒しに体勢を崩す。

悲鳴とともに、小さな体が宙に投げ出された。

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敵の攻撃の前にアクシデントが起きてしまいましたね…
脚を痛めたのであればもうその馬は駆けることは無理なはず
スペアの馬は無いでしょう
あぁ、どうしますかヨン？
ただ、あなたのせいではないですよ
自分を責めないでね

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