迷迭香 ｜ 2

明け方。冷たい土に敷いた蓆の上で、ウンスは目覚めた。

目を開けると同時に傍の岩に腰掛けたヨンの背中が見える。
石像のように微動だにせず伸ばした背筋。
それに比べ自分は、体中の関節も筋肉も悲鳴を上げるようだ。

しばらく横になったまま、手の届く範囲の筋肉を揉む。
そうしながらウンスは自分に話しかける。
笑って。
自分の口角を指で持ち上げる。
笑えるうちは、大丈夫。

「目が覚めましたか」
気付くと、ヨンがこちらを見ている。
「辛そうですね」
ウンスは頷いて起きると、地面に敷いていた布団がわりの蓆をくるくる丸め立ち上がる。

「さすがに体中痛いわ。でも、このくらい大丈夫！
皇宮に戻ったら以前王様に頂いたあの絹布団で、また眠れるかもしれないし。まだ典医寺にあるかしら？」

ヨンは曖昧に頷くと
「恐らく。水桶の用意があります。洗顔を」
とウンスを案内した。
洗顔を済ませやっとすっきりすると、それが合図だったかのように兵たちが集まり、朝餉を取る。

朝餉が終われば野営の痕跡を消し、早々に出立する。

明日の昼には山を抜ける。
抜ければ禁軍との合流地点までは数刻。

仕掛けてくるとすれば今日。
もしくは明日、禁軍との合流までの間か。

ウンスの騎乗を確かめてヨンは馬に跨り、テマンの側に馬を寄せると小声で呟く。
「気を抜くな」
テマンが無言でヨンを見、しっかりと頷く。

ヨンは手綱を引き兵の側に向けて
「山を抜けるまで、警戒を緩めるな」
と指示を飛ばす。
「は！」
兵たちが声を揃えた。

山中を走り始めて二刻ほど。日は中天半ばまで上がっている。

ヨンはしばらく前から気配を感じていた。
背後より迫ってくる。
まだそれほど近くはない。

逃げ切るか、止まって迎え撃つか。
出来れば戦わずして勝ちたい。

「イムジャ」
ヨンは少し愛馬を下げ、ウンスの馬に並べる。
「良いですね。いつでも俺の声を聞いてください」

ウンスはその声音に何かを感じたのだろう。
振り落とされないように必死に手綱を掴んだまま、それでもヨンを横目で見て何度も頷く。
何か言ったら、舌を噛みそう。

ヨンはそのまま後ろを振り向き、兵たちに
「半刻足らずで追いつかれる。まずは距離を稼ぐ。
密着して守れ！」
と檄を飛ばす。
迂達赤の騎馬兵が、ぐ、とウンスの馬に近寄った。

馬たちも何かを感じているのか、鞭を入れずとも速度が上がる。
山道の脇の獣道より手裏房の三人が乗る馬が現れ、後方に合流する。

一行は急流のように、固まって先を急ぐ。

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