寝苦しい雨夜の空が、ようやく白み始める。
夜半まで続いた雨の音ももう聞こえない。
寝台の上、腕の中で健やかな寝息を立てるこの方をもう一度見る。
まるで何事もなかったかのよう、幸せそうに一人ですやすや御寝みだ。
此方は一睡もできなかったというのに。
「うう、ん」
見つめているうちにこの方の閉じた睫毛が動く。
俺はそのまま眸を閉じる。
「・・・ふわぁ」
腕の中でこの方が身動ぎ、そっと欠伸をする小さな声が聞こえる。
聞こえぬ。何も聞こえぬ。俺は寝ている。
一晩寝て、今起きた処だ。
胸裡で言ってから眸を開ける。
その刹那、腕の中のこの方が驚いたように目を瞠る。
「・・・何ですか」
「ねえ、目が真っ赤」
・・・畜生。
身支度を整え庵を出た俺達を迎えるのは、昨日とは打って変わって抜けるように青い空。
そして一晩起きていた眸に沁みるような太陽だった。
村に植えられた木々の葉の雨露が光を浴び、風に揺らされるたび輝いて落ちる。
「大護軍」
大男が俺に向かって遠くから声を掛け、大斧を掲げる。
俺は片手を上げそれに応える。
「早いな」
男が走って来て、この肩を叩いて言った。
「お前こそ早いな」
その声に男が頷くと
「今日は大護軍に会いに、関彌領主が来るからな」
「そうか」
この地には遥か昔、難攻不落の城として名を馳せた関彌城があった。
その名残で関彌領と呼ばれるこの一帯を束ねる領主。
結構な若さと聞くが、対面するのは初めてだ。
ゆくゆく王様のお力になれるような者ならば、早めに会っておいて損はない。
「楽しみだ」
俺が頷くと男が笑って返す。
「領主も、同じことを言ってたらしい」
********
「大護軍、お二人で長のところに」
村長からの遣いが庵にやって来て頭を下げる。
さて、いよいよか。その声に立ち上がる。
「どうしたの?」
不思議そうなこの方に向け、安心させようと微笑む。
「これから此処の領主と会います。参りましょう」
「私も?」
「そのようです」
「大丈夫かな」
「大丈夫です。ご心配なら口を閉じていれば良い。お任せください」
村長の庵の中に入ると卓の前に腰掛けていた男たちが腰を上げ、俺達に向け一礼した。
村長や村人以外で知らぬ顔は一つだけだ。
居並ぶ男たちの中でも頭抜けて丈高く、珍しい青色の鎧を纏って正装している。
「高麗迂達赤大護軍、チェ・ヨン殿でいらっしゃいますか」
男は俺を見、低く響く声で訊いた。
「ああ。関彌領主殿か」
「はい。本貫関彌、領主シン家セイルと申します」
俺は頷き
「掛けられよ」
その卓の前の椅子を差す。
領主は一礼し腰掛けると俺の横のこの方に目を当て
「そしてこちらが、医仙でいらっしゃいますか」
俺に目を戻して静かに問うた。
「何処でそのような話を」
「村長より」
別経路で聞いたなら煙に巻こうとも思うたが。
長が話したという事はこの領主、信用できるという証か。
「さて、どう答えるべきか」
俺は領主に目を当てたまま腕を組み、苦笑いを浮かべた。
「医仙と答えれば、領主殿は高麗の極秘を知る事になる。
違うと答えれば、村長は嘘を吐いた事になる」
俺のからかうような声に若き領主が僅かに眉を上げる。
長が俺達の会話を聞きつつ、二人の間で目を泳がせる。
そんな長に目礼してから、領主は確りと言い放った。
「私にとり重要なのはこの領土の民のみ。大護軍」
「何だ」
「大護軍が医仙とお二人でこちらにいらっしゃるという事は、少なくとも此処では襲撃の危険性が低いと、信頼して下さっているのではないのですか」
「如何にも」
それは確かだ。
巴巽村が僅かでも危険と判ずれば、たとえ二人きりがどれ程動きやすかろうと、テマンなり迂達赤なり手裏房なりを必ず供に付けた。
「私の民を信頼して下さっていればそれだけで良い。私を信頼してくれとはお願いしません。但し」
領主は、そこでひたと俺を睨み付けた。
「私の民を誑かすことは、たとえ大護軍とて許せませぬ」
「心配するな」
俺は領主の目を真直ぐ見返し短く伝えた。
良い。この領主、気に入った。
「俺はお前の民に嘘など吐かん」
「それならば安心致しました」
そう言って、領主は頭を下げた。
「ご無礼を」
「村長が伝えた通り、如何にも。この方が医仙だ。
さて、これで領主は高麗の秘密を知ったことになる。
という事は、これがどれほど重いかもご存じと思うが。
その覚悟を持って訊いたか」
「はい」
「他言無用と判っておるな」
「はい」
「この方が身分を偽り、身を隠しておる事も」
「はい」
「発覚すればこの方にも王様にも命取りとなる事も」
「はい」
「そうなれば俺が黙っておらぬ事も」
「はい」
「ならば良い。努努、忘れるな」
「お言葉、心に」
若き領主が穏やかに笑んで頷いた。
村長が安心したように息を吐く。
そして俺の横のこの方も。
「領主殿」
「はい」
「戦は続く。南の倭寇も北の紅巾族も、このままおとなしくしておるとは思えん」
「はい」
「戦になれば、武器も鎧も要る」
「はい」
「工房を開京にも作る気はないか」
俺は領主に向けて真直ぐ問うた。
領主はその問いに静かに首を振った。
「鍛冶が首を縦に振りませぬ」
「領主殿にもか」
それを聞いて、鍛冶らしいと苦笑いする。
「はい。鉄も、鉄を溶かす炭も、開京では納得できるものが手に入らぬと」
「成程な」
俺は顎先で頷く。職人気質のあの鍛冶が如何にも言いそうだ。
「では王様にお願いし、此処の工房を増築する」
「はい」
「民を守ってくれ。この村の腕、高麗には是非とも必要だ」
「我が身命にかえ、必ず」
話は終わった。
俺は席を立ち、向かいの領主へ腕を差し出す。
「会えて良かった」
「私もです、大護軍」
「また会おう」
「必ずや」
卓越しにこの手を力強く握り返す若き領主に向かい、俺は僅かに笑んだ。

やはりきりっとしたところも見せて頂きたい。
久しぶりの、きりっとヨン。
楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。
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きりっとヨン男前でカッコいい!
素敵です。
相手の領主もいい男前とみた!
いいですね!
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コメントのお返事欄でお帰りになったこと知りました。肩がバッキバッキに凝ってらっしゃると…マッサージに出向きたいくらいです(笑)
俺は寝ている…のくだり笑ってしまいました!寝ているウンスを見つめている間、さぞかし邪な思いと闘っていたのでしょう(笑)
領主様イケメン風ですよね?どなたが演じておられたのですか?
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確かに…チョロキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!です。あのクールな雰囲気が懐かしい。闘いになると熱く、でも華麗な剣の舞。チョロは韓国語に慣れてないイ・フィリップ初ドラマだったので、どうしても語り口はチャン先生を思い出してしまいましたが、それもまた良しです。 帰ってきてすぐのUP、さらんさん体力ありますね。でも無理せず今日はコメ返いいからゆっくりしてね。でないと私も言いたくなります 「ネロ」。
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目の充血まではどうにもならなかったヨンがとても可愛い♥
そしてとの後のキリットヨンがギャップでこれまた良いです♪
さらんさん今度こそ、お帰りなさい♥急に寒くなりました、風邪将軍にお気を付け下さいね。
私は軍勢に敗北致しましたゆえ(TωT)
また覗きに来ます♪
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素敵ヨンが戻ってきましたね。使える男同士の会話ってとってもいいです。また1人、強い味方と出会いましたね。
ちょっと、長はドキドキしてたかも・・・。
眠れぬ修行僧のヨンも、仕事モードに切り替えれば惚れぼれするほどの、貫禄を身に纏った大護軍ですもの。きりっとした姿はやっぱり素敵❤
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さらん様、こんばんは❤︎
キリッとヨン、素敵です❤︎\(//∇//)\
愛しいひとを一晩腕に抱き、見つめるだけの地獄の夜を過ごしたのですね。
可哀想に….(v^_^)v
それにしても、関彌城主とは驚きました。
パソンとチュムチの雰囲気のふたりが登場してくれていますので、もしやと思っていましたが、ホントにチョロを思い出させていただけるとは。
チャン侍医に似てるのかなぁ?
チョロは寡黙でしたが、ヨンの前にいる関彌城主は、しっかり自分の意見を言える人の様ですね。
なんか嬉しい‼︎
ヨンとウンスを追いながらも、こんなに周りを楽しめるなんて…幸せです❤︎
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ヨンの『畜生~』
が結構ツボです(* ̄∇ ̄*)
一体どんな展開から武士の約束…
ん…誓い?をしてしまったのか(〃ω〃)
都忘れに期待感が溢れて既に駄々漏れですよ~~(*^ー^)ノ♪
待ち遠しいな。
さらん様
今年のクリスマスプレゼントにヨンとウンスの婚儀生中継~~
をさらんサンタにお願いしちゃう。
えっ
その前に婚儀までは書き上げてくださる(^-^)v
ハイ
では(///∇///)
シンイ廃人が見守る新房・・・
超特別編Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
ダメかしら(一応上目遣いで…)
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ちゃんと心の準備出来てたんだけどな~、と、勝手に敗北感。
勿論食いつきます
「…畜生」
うきゃぁー
キリッとヨン素敵です!
肚を探りつつ相手を見極める頭のキレ
目は真っ赤だけど。
相手を認め、また認めさせる漢の威厳
目は真っ赤だけど。
もうヨン故にオールOKです!
ああ…畜生
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悶々として眠れぬず、目が充血してるんじゃぁ~ねぇ( ´艸`)
出だしから笑ったぁ(≧▽≦)
領主も、良さそうな人で良かった!全て理解していたのね。
倭寇や紅巾軍の事もあるし、これで強い味方が増えたって事で、一安心かしら?
ねぇ、まだヨンは拷問に匹敵する生活強いられるのよね(゚_゚i)可哀相に・・・
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>ko_sayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
もうこれは、どどーんと、ばばーんと
「太王四神記 チョロ」で画像検索をして頂けると
ドーンと、イメージがww
お時間がある時、お試しくださいませ❤
お時間が
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ああもう、そのお気持ちだけで嬉しすぎです❤
イヤサレ (●´ω`●)ゞ マス-❤
ええもう、邪どころか、脳内中学生男子でしょう。
それしか考えぬか、と尚宮様にぶっ飛ばされます。
露見した暁には。
領主さまはもう「太王四神記 チョロ」で
お時間がある時、画像検索をお勧めいたします❤
素敵です、うふふふふふ❤
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
頂きました❤
チョロキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
あれは、あの寡黙さも絶対良かったのだと思います。
うっとりしました、リアルタイムでぜひ観たかったです。
私が知ったのは、信義と前後していたので
もう全然・・・クスン(ノ_-。)なころでした。
今回はミノ氏つながりで、来年1月から
BSフジにて【相続者たち】放送決定したので
ちょっと嬉しい気持ち満載です❤
帰国して最初に飛びついたニュースがこれって、
どうさ自分?という気がしなくもないですが・・・
そして本日頂きました二発目、
はい、寝ますw・・・Zzz…(*´?`*)。o○
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
はぁぅっ!
何とののさま、早速ですか!
帰国した時は確かにさむっ!と思いましたが
日本はまだ湿度がある分ましだーと
呑気に構えておりました・・・
ううう、ののさま、どうかご自愛くださいませね。
私も早速明日にでも伺います❤
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ヨンはやはり、仕事モードが素敵です。
THE 漢、というのが好きです❤
長はもう、ドッキドッキのぶるぶるだったかとw
あの天下の雷功使いV.S.自分のご領主ww
板挟みで御座います。
この頃のヨンは33歳、ええもう、男の色気
&できる感、満載と思われまする。
まあ、目は赤いですが(爆
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ええもう、長い髪、高い身長、蒼い鎧です。
ガッツリYa**o画像検索で
「太王四神記 チョロ」で検索かけて
イメージ掘り起こしてみましたww
そうですね、あの頃チョロは神器を埋め込まれ
・・・
と、お話ずれそうで自主規制いたしますがw
一服処オールスターズ、楽しんで頂ければ
幸いでございます❤
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>mamachanさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
mamachanさま、さすが良い勘をしていらっしゃいます❤
正直、これから新章を始めると、
まさに婚儀はその頃になりそうなのですww
でも、実際私の中で、二人が婚儀を上げるのは
秋の設定・・・
また季節感がずれるより、ほっこりしたお話を
先にすべきか・・・(一服とか、迂達赤とかですね)
しかし婚儀が終わるまでは、彼奴は
たとえ鼻血を噴いても、進展はありませぬ故・・・
んーーーです(x_x;)本気でこの顔になります。
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>chamiさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
やはりでございますか。畜生www
ヨン❤もう、何をしてもヨンということで、
お許し下さいませ、ヨン故。
ヨンヨンヨンヨンうるさいヨン、ですね。
はい時差のせいで頭がぱぁになっております。
おまけに、ここで一服上げた後、
彼方で4エピソード挙げて参りましたので
もう、ほんとにもう、欲求不満だったんだな、自分・・・と。
なんだかおかしな響きですが、ヨンとは違いますw
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>mayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ええもう、強いられるというか・・・
ここまでいろいろな後押しを受けつつ、
選んでるの、自分じゃん、と申しますか・・・
ウンスオンニの耳たぶ攻撃で兎目でも
まだ我慢するんだね、馬鹿だね、と申しますか・・・
味方は増えつつあります。何しろ、あと40年は
戦う宿命の男ゆえ(やだそれですね)
増えてくれねば、困るのです・・・
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出張お疲れ様でございました。少しは休めるのですか?
一睡もできないのに、というか一睡もできないとわかっているのによく腕の中に抱いて寝るなんて…
ちょっと離れて寝た方がいいと思うのに。寝不足で倒れるよ。いつ寝るのかな?
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>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
ふふふ、もう抱き癖がついているのでしょう。
ヨンの場合は、仮眠でも良いのかもしれません。
ナポレオンのようにwww
さすがに耳噛まれないときは、寝てると思います。
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さらん様
少しずつ戻して下さってるんですね!
ありがとうございます(≧∇≦)
向日葵での、戻った早々の痴話喧嘩&仲直りの話が大好きで(//∇//)
都忘れでの、すれ違った挙げ句にウンスが倒れて、ヨンがいろいろ気付く話。
その後の、珠の匣でのヨンの甲斐甲斐しい看病。特に最初の、マンボ姐さんのところにお粥を頼みに行った時の、ヨンの慌てぶりがツボです。
この、きりっとヨンも素敵♪(≧∇≦)
でも一晩中ウンスを見ながら一睡もできなくて、目が真っ赤なヨンも愛おしいです(≧∇≦)
全話が戻るのを楽しみにしています。
あ、でも無理はなさらず、ゆるゆると。
寒い毎日が続きますので、お身体大切にm(__)m