康安殿を出たその足で、続いて迂達赤兵舎へと向かう。
「どうして先に教えてくれないの」
少し膨れてこの方が拗ねたように呟いた。
「俺の一存では判じかねておったので」
「何を?」
「あなたをお連れできるかどうかを」
「どうして迷うの?」
「近場とはいえ皇宮よりは危険です。第一暇を頂けるかも判らぬのに、糠喜びさせてはならぬと」
「でも、行くのよね?」
俺はその顔を見て頷いた。
「参りましょう、共に」
その声にあなたが俺の横に添う。
「うん、行こう。一緒に」
そう言ってこの指先を、小さな手の細い指先が握って振った。
「巴巽村、ですか」
兵舎のチュンソクの部屋で行先を告げると、チュンソクは不思議そうに繰り返した。
「刀ではないですよね」
鞘に納めたままの鬼剣に目を遣り問いかける。
「違う。この方の医術道具を手に入れたい」
「それはまた・・・あの鍛冶が、何と言うか」
鍛冶の顔を思い出し、俺もふと笑う。
「問題ない。あの鍛冶ならばきっとこの方を気に入る」
「それならば、何よりですが・・・」
まだ心配そうなチュンソクは、それでも気を取り直すよう
「今回は誰を供につけましょう」
そう切り出す。
「不要。何かあればテマンを早馬で飛ばせ。
留守中頼む。それだけ伝えに来た」
「テマンも、お連れになりませんか」
「ああ。奴には伝令として残ってもらう。
お前やトクマンを連れて行くわけにもいかん。
それ以外の奴らが来るなら、この方と二人の方が動きやすい」
迂達赤兵舎を突然訪れた大護軍と医仙にも驚いたが。
行先を聞いて二度驚き、大護軍の言葉を聞いて、俺は三度驚いた。
それはそうでしょう、大護軍。
今の大護軍は医仙がご一緒なら、お二人でいるのが何よりも動きやすい。
しかし臆面もなく惚気られると、俺としては非常に居心地が悪いというか。
「分かりました、何かあれば手裏房経由で連絡を」
迂達赤が誰も大護軍の供に付かぬ以上、高麗中の情報網を牛耳る手裏房しか連絡の手立てはない。
そう判じ、俺は言った。
「そうしよう」
短く言って大護軍が席を立つ。医仙がそれに従う。
「くれぐれも、お気を付けて」
そう言う俺に頷くと、大護軍は医仙の半歩後ろにつく。
「じゃあ、チュンソク隊長。行ってきます」
医仙が胸のあたりで手を振り、歩いて行かれるのを兵舎の扉まで見送って、俺はお二人へと頭を下げる。
********
この人とは2人でデートに出掛けるにも、いろんな手続きが必要。
私はそう考えてふと笑う。チェ・ヨン大将軍と付き合うって、こういう事なのね。
王様にお許しをもらって、手配をして、典医寺にも、チュンソク隊長にも手配を・・・
「あ!」
私は小声で叫んで、ピタッと足を止めた。
「どうしました」
半歩後ろにいたこの人が、そう言って私の前に回る。
「媽媽に、言ってない」
「王様から既にご連絡がいったかと」
「でも」
この方の、でも、を聞いて、俺は鼻から息を吐く。
ああそうだ。こうなればこの方は聞かぬ。
王妃媽媽のところへ行って自分でお伝えせねば、このまま静かに発ってなど下さらん。
「参りましょう」
俺は頷いて坤成殿への道を急ぐ。
二人で春の遊山がてらに出掛けるだけでこれほど面倒になるとは、己の役目が恨めしい。
「何をしておる」
坤成殿の王妃媽媽のお部屋に向かうと、叔母上が回廊を歩く俺達に目を止め声を掛けた。
「王様からお報せを頂いておる。出掛けるのではないのか」
「王妃媽媽にご挨拶だそうだ」
この方を眸で示して言うと、叔母上が呆れたように
「ひと騒動だな、一歩皇宮を離れるのも」
と苦笑いを浮かべる。
叔母上も俺も立場は似たようなものだ。
叔母上も日頃こんな不便を感じておるのか、今回ばかりは急な暇を取る俺に小言の一つもない。
「仕方ない」
「しばし待て」
頷いた叔母上は部屋の扉に向かい
「媽媽、大護軍と医仙が参りました」
「すぐお入り頂け」
王妃媽媽の僅かに驚かれたような御声が室内より即座に返る。
叔母上がチェ尚宮の顔に戻り、その扉を開く。
「どうなさいました、大護軍、医仙。
お出掛けと王様より伺いましたが」
お部屋の中、媽媽は驚かれたように目を丸くしている。
「はい、この後すぐ行きます。でも」
私は媽媽の前に腰掛けるとそのお顔を見る。
顔色は良い。お肌のつやも。目の色も問題なし。
「媽媽、お口を開けて下さい」
そういう私に、素直に口を開けて下さる。
舌の色にも問題はない。口臭も舌苔も正常。
次に脈診をするため、
「失礼します」
そう言って媽媽のお袖を少しめくると、
「医仙」
媽媽が私に静かに声を掛ける。
「し」
私が人差し指を立ててそのお声を抑えると、媽媽はお口を閉じて、私の横のあの人にちらりと目を遣る。
あの人が微かにそれに頷く。
然様です、王妃媽媽。畏れながら御拝察のとおりです。
俺のこの方は役目が何より大切で、王妃媽媽の御体はご自分のそれより幾倍も大切で。
これが終わらねば素直に俺と出掛けてなど下さらぬ。
そう胸内で呟くと失礼のないよう王妃媽媽から目を逸らし、この方の手順が全て終わるまで黙って待つ。
「脈も、とても良いです。今お体の調子が急に変わりそうな脈は出ていません。
私の留守の間は、キム先生が代理をしてくれます。
何かあればすぐおっしゃってくださいね?
隠したり、無理しちゃ駄目ですよ。季節の変わり目ですから」
「分かりました。どうかお早くお発ち下さい」
そう言いながらお袖を直す媽媽にもう一度頭を下げて、私はやっとお伝えする。
「じゃあ、行って参ります」

今回、ブログ開設初めて更新が滞りました。
本当に申し訳ありません。
ヨンたち、ようやく出発です。
楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。
SECRET: 0
PASS:
この二人、ちょっとのお出かけにも本当に手続きが多いのね。でも、その後のお楽しみを考えたら“何ぼのもんじゃ”ですね。
チュンソクの驚き3連発にも笑いました。「え、お、ほ」という声が聞こえてきそうです。
今回はテマンもお留守番。ふたりのみならず、私もたのしみ~。
SECRET: 0
PASS:
さらん様、おはようございます❤︎
いろいろ忙しくされていて大変でしたね。
体調は大丈夫ですか?
ホントにホントに待っていました。
ふたりのやり取りは微笑ましく、チュンソク隊長は相変わらず良い味出してますね(^O^)
臆面もなく「俺のこの方」などとヨンが言う様になり、やっとふたりの願いが叶うのだと嬉しくなります。
誰はばからず、ウンスにまとわりついてしまえ‼︎と、密かに願っている私…❤︎
続きが待ち遠しくて待ち遠しくて(≧∇≦)
SECRET: 0
PASS:
出張中でしかも海外なのですから無理なさらないでくださいね。こちらはいくらでも待てますからお気になさらずに!
何日間か出かけるだけで大変な二人ですね。でも嬉しい二人きり!嘘みたいな二人きり!!ラブラブな道中でありますようにと祈ります。
SECRET: 0
PASS:
あら♪やっと二人でラブラブなお出掛けが出来るんですね! ウンス~~。ヨンと二人きりで嬉しいね(^人^)♪
SECRET: 0
PASS:
楽しい珍道中(ウンスが一緒だもんね何かやらかしてくれるのでは‥(笑))を期待しつつ
出来れば危険の無いように、無事に帰って来てね~(^_^)/~~
SECRET: 0
PASS:
>ままちゃんさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
本当に、お出かけひとつにも大騒ぎ。
テマナも今回は分かってもらわねば・・・
きっと木の上で「大護軍と医仙が幸せだから良い」と
己を慰めているに違いありませんww
しかし、大護軍には大護軍の地獄が待っておりますよww
SECRET: 0
PASS:
>夢夢さん
こんにちは❤コメありがとうございます。
体調は全く問題なしです。
こちらで、部分月食を偶然見て、その美しさに
うっとりーでした。
早速書く気まんまんですw全てがヨンに結び付く私。
ああ、もう人目を憚らぬ、この後のラブっぷりを
ぜひ楽しんで頂ければ・・・❤
SECRET: 0
PASS:
>あみいさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
う、嬉しや・・・
おまけに私、考えていませんでしたが
カレンダー見たら、2日間もUPしていない・・・
??と思ったら、17時間の時差を考えていなかった!!
や、やられました。本当に申し訳ないです!
イムジャカポーはもーう、
中学生の旅行みたいな盛り上がりですw
く、初々しい(〃∇〃)
SECRET: 0
PASS:
>kumiさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
もう、ウンスオンニは楽しいみたいです。
ヨンは、天国と地獄を味わっております(爆
仕方ないのです、首を絞めるは自分の誓い・・・
SECRET: 0
PASS:
>えみりんさん
こんにちは❤コメありがとうございます。
さすがのウンスオンニも、少しは慎重になってくれてると
こちらとしても気が楽なのですがww
落馬やら斬り合いはなさそうですが、何しろ
あのウンスオンニです。
歩けばトラブルを拾ってくる女人ですからw
はー、久々にまとめて書いたら
遊び呆けてた脳細胞が、少しばかり動き始めましたw
SECRET: 0
PASS:
ウンスのためと言いつつも、実は二人でお出かけを企んでいたのでは?なんてね。それ程平和でない時代にこういう時間がもてて良かったなあと思います。 さらんさんがお元気そうなので安心です。更新ない間は、もう一度最初から読み直して、楽しみました。今迄、休みなく更新してくれてたので、気がついたら、すごい長く書いてくれてるんだなあと改めて思いました。無理せず、気楽にね。
SECRET: 0
PASS:
こんにちは(*^o^*)
更新ありがとうごさいます!
更新が滞ってすみませんなどと…そのような事仰らないで下さいませ。お仕事お忙しい中、それも遠い異国へ出張されているにもかかわらず、毎日更新していただいていて…大変だと思います。
もっとお気を楽になさってくださいね。
時々は「明日から休むよ~」アリですよ(^o^)
もはや2人は公人のようなもの。ちょっと出掛けるのもひと苦労ですね。
現代であればパパラッチの標的にされる程の身の上でしょうから。
ちょっと見てみたい気がしますね~
2人がキチョルの私兵や禁軍からではなく、パパラッチから逃げるところ(笑)
SECRET: 0
PASS:
今日は♪お帰りなさい!
でも二人は行ってらっしゃいですね♪道行きは楽しいものになるといいですね~(≧▽≦)
色んな手続きも済んで行ってらっしゃい~!
又覗きに来ます(●´ω`●)
SECRET: 0
PASS:
>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます。
最初から読み返していただけたなんて(*v.v)。
うれしいです。そして、お待たせいたしました❤
自分でも、びっくりするくらい書いてて
たまに笑ってしましますww
長くと言うか、長さはまだ3か月くらいなのですが
文字数がすごい事に(/ω\)
過去のwordのファイルを見返すと、格納分
未格納分にボツ分を加えると、普通のデスクワークの
1年分くらいの量が(●´ω`●)ゞ
こっからタンも書き、そしてヨンも続け
おまけに【信義】と【相続者たち】の
Gyao様での放送を待つつもりです
(かなり、本気です)
俺は皆の言う通り、病かもしれない。
ヨン、私も病だよ、と言ってあげたいです。
SECRET: 0
PASS:
>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
もう、ヨンはほぼ公人ですね・・・実際大護軍は、
高麗の官職の中でも、相当高い地位だったようです。
従三位、普通の大臣クラスの直下で、
軍人としては第二位の位で。
ウンスオンニの場合は、正体不明なので、
これはほとんど、ヨンのせいかとw
パパラッチから逃げるヨン&ウンス!
可愛いです。現代ならありですね(〃∇〃)
「明日から休みます」なんてしたら、
私が皆様や、ヨンの声が聴きたくてきっと駄目ですww
耐えられませぬ。
今回も、お土産なんて一個も買ってないのに
何故か友人のPCから取り出したUSBだけが
異常に容量増えているという・・・
友人が夜中に起きても、明け方に起きても
私がリビングのPCを叩きまくっているので
途中でPCが一時隔離されました
(実話)
「ネロ!」
と、片言の日本語で言われた時は、大爆笑。
皆様のおかげで、楽しく過ごせましたヨン❤
SECRET: 0
PASS:
>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます。
実はまだ、異国ですwwどんだけだよ、と。
そんな状態で【相続者たち】も第一話分UPし、
この後、ヨンのお話も・・・❤
はあ、一週間溜まったストレスを
ここで全部ぱあっとヾ(@°▽°@)ノ発散です
帰ったら、私も必ずや!!伺いますね(〃∇〃)