チェ尚宮の憂鬱 | 3

 

 

当時皇宮では人が変わり、政が変わり。
昨日までは正だったものが今日には悪となる。
昨日まで御守りしていた方を今日は断じねばならぬ。
そんな日々が長く、長く続きました。

そんな頃私はヒョンジク兄君の屋敷へ呼ばれ、久々の短い里下がりを果たしておりました。

兄君の居間へ伺うと、兄君の横に、甥が端坐しておりました。
齢六つになる、兄君にとっては嫡男の一人息子でございます。

部屋に入った私に向けにっこりと笑い、甥は深くその頭を下げました。
黒い髪。太い一文字眉。利発そうな切れ長の瞳。
頑固で意志の強い、良い相をしております。

「この子に武芸の才有りや、見定めて欲しい」
兄君は静かにそうおっしゃいました。

畏まりました。
私はそう頭を下げ、お引き受けしました

その日私は甥、ヨンを連れ、まず野山を歩きました。
気に入った場所あらば木に登らせ、枝を拾って素振りをさせました。

その後、かくれ鬼をいたしました。
私がどれほど息を潜め灌木に交じっても、ヨンは一目散に駆けてきて
「叔母上、ここにいますね」
と、笑いながら擦り傷をものともせず、茂みに分け入って参りました。

そして共に山を降りるとき。
気配を消しヨンから数歩離れ、石礫を拾い上げると、その背後より思い切り投げつけました。

ヨンは肩をひょい、と上げ、礫を難なく避けると、
「叔母上、驚くではないですか」
目を丸くしてそう申しました。
悪戯が過ぎた。許せよと、私はその手を握りました。

兄君の屋敷に戻る際には、麓の池を通って参ります。
私とヨンアが手を繋ぎ池のほとりを通った所、天からの影が、す、と足元を通りました。

見上げれば鶚が一羽、天空に大きな弧を描き悠々と羽を広げて飛んでおります。

「叔母上、鶚です」
ヨンが興味をひかれ、足を止めてその姿に見入ります。
ああと私は答えました。

すると鶚は丁度池の中に獲物を見つけたか、空で態勢を変えました。
次の瞬きの間放たれた矢のように、空より真っ直ぐ池に滑り下ります。
そしてその脚にがっちりと大きな魚を握り、また空へと真っ直ぐ戻りました。

全ては私たちの、ひと呼吸の間に起きました。

「素晴らしい。鶚の猟はいつ見ても勇壮です」
ヨンはその黒い目を輝かせて、私を見上げました。

そうだなと、私は空返事を致しました。

鶚を見かけた時。
つないでいたヨンの手が、びりとした気を発した事に気付きました。
私は思わずヨンの手を今一度、しかと握り返しました。
滑空を経て鶚が獲物を掴んだ瞬間、痛いほどの気が確かに私の手に伝わりました。

そしてヨンが気を緩めた今も、私の掌はまだ痺れておるのです。

 

 

 

 

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14 件のコメント

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    六歳のチェヨン!見たい!
    もう 絶対可愛いくて 賢そうですよね
    今もチェ尚宮に頭が上がらない理由がわかりますね(^.^)
    もう 雷功の兆しがあるのですね~~~

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    文官の家に生まれた嫡男が武官になる
    父にはわからなくても武の道に進んだ叔母には判断できるはず
    ヨンが行く道を決めたことに叔母が関わっていたのですね

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    人並み外れた子供だったんですね♥そして、その事に気づいたのも叔母上様
    ふわぁ~!チェ尚宮やっぱりラスボス、どんなに小さな最初の光も見落とさない。
    やっぱり、この人が最強だ!
    (≡^∇^≡)わ~い♪

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    コモが、最初に気付いたのかしら?
    齢6にして才能があったのですね。
    幼いのに中々凛々しさを感じさせます。
    流石ヨン!

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    >ゆきんこさん
    早速のコメありがとうございます❤
    実は、脳内動画の為、いろんな子役ちゃんを
    あてはめて、どうにかイメージ喚起に尽くしましたが
    ヨンは、ヨンでしかなく。
    脳内では極上可愛い男の子になっています。
    ああ、見たい。書いた本人が、一番見たいです。この子。

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    >イタkiss大好きさん
    コメありがとうございます❤
    明日出てきますが、修業は丸投げ系w
    チェ尚宮様、里帰りが頻繁にできそうもないのです。
    尚宮の道も険しいですねー(他人事
    しかし調べても、李氏朝鮮時代の事は
    歴史上かなり残っているのですが
    高麗までの資料、少ない!
    やはり文字がなかったせいですかねー。
    なら漢字で残せよーです( ̄_ ̄ i)

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    >あみいさん
    コメありがとうございます❤
    このエピは小説が元ネタです。
    鳶とかは出てきませんが。
    ぷちヨンがどうしても書きたかったんです。
    極上可愛い男の子を妄想していただければ嬉しいです。

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    >mayuさん
    コメありがとうございます❤
    もう、私の脳内では極上可愛いやんちゃ坊主で
    変換されているちびヨン。
    髪の毛は長めで。前髪はいらないなー。
    左眉の傷は、まだないことにしておきましょう。
    ウィキによると、少年の頃から活力に満ち溢れ
    威厳があったそうなので。
    威厳はどうかなー。チェ尚宮様に石礫投げられてるしなーw
    でもって、明日で終了です。はやっ!
    宜しければ、また明日❤

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    いいですねぇ。
    こればっかですみません。
    立場上、あからさまに褒めたり、優しい口調でも有りませんが、誰よりも甥を知り尽くし、誰よりも案じているのでしょう。
    そして、ヨンも叔母に絶対の信頼を置いている。
    そんな二人の歴史を想像させてくれる素敵なシリーズですね。
    あぁ やっぱり、二人の密談シーン、大好きです\(^o^)/

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    >夢夢さん
    コメありがとうございます❤
    そうですね、口は悪いですが、子供がない分
    そして、自分と同じ道を歩いているヨンだから
    尚更心配しているところが、あると思います。
    密談シーン、うふふー❤
    明日最終2話です。楽しんで頂けますように❤

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    おぉ~ このようにしてヨンの雷功は
    小さな頃から現れてたのですね。
    そうかそうか
    そこに気づく お二人ってやっぱりスゴいんですね。
    チェ家 凄すぎる~( ̄O ̄)

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    >ちゃーちゃんさん
    こちらにもコメありがとうございます❤
    チェ家は、実際に歴史上に残っているので
    あんまり突拍子無くても嘘っぽいし・・・
    ヒョンジク様(ヨンアボジ)も書いてみたいですが。
    だって、何で文官が赤月隊のムン・チフ隊長と?
    って、興味沸くばかりなんです。
    でも今はまず本筋を追いつつ。
    落ち着いたら、いろんなスピンオフ、書きたいなー❤

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