占見　～Everything happens for reason. | 前篇

【 占見　～Everything happens for reason.  】

欲しいものはたくさんあるし、尽きる事もない。
次々新しいものが出てきて、目も心も奪われる。

流行の店。次の季節のトレンドのファッションのデザインや色。
今話題の食べ物。人気の旅行先。目新しいブランド。

欲しいものが手に入れば、日ごろの鬱憤やストレスは全て解消されたように錯覚する。

手に入れる為にコネでもお金でも使うし、そのお金を稼ぐために嫌な仕事をすることだってある。

けれどうっかり、もしくはちょっとした理由でそれらを手に入れなくても、後悔もなければ不便もない。
だって知っている。数週間たつ頃には、また別の新しいものや欲しいものが続々と出てくるのだから。

そしてそんな情報交換のために、街では昼も夜もなく電子機器が光り続ける。

*****

午後7時。
診察を終えたユ・ウンスは自分のデスクの椅子から立ち上がり、
「うーーーん！」
と息をついて、大きく伸びをした。

肩も腰も、バキバキと音を立てそうなほど凝り固まっている。

江南には掃いて捨てる程ある美容整形外科。
女の自分が整形外科医をしていくために、時には心にもない世辞を駆使する。
時には難癖を吹っ掛けるブラックな客をそれ以上の迫力であしらいながら、渡っていかなければならない。

やっと手に入れた自分の城、15坪の家を守るためにも。
美容大国、わが大韓民国の中でも一等地・激戦区の江南に、整形外科医院を開業するためにも。

だって楽なんだもん。
美容目的の整形外科手術に、保険は適応されない。
そして海外からのお客も呼べるようになれば、金のなる木が向こうからやって来てくれるようになる。

目頭切開、二重瞼形成、隆鼻手術なら、一日5件はこなせる。
一回に20時間近くかかる事もあるくせにほとんどが保険金で賄われて、手元には雀の涙ほどの給料しか入ってこないような心臓外科医とは大違い。

美容整形外科の手術で死亡する患者なんてほぼいない。
もしそうなったとすれば、それは十中八九医療過誤、もしくは予期せぬ、か、想定範囲を超えた患者の急変。
つまりは自身が未熟者か、患者が悪運の持ち主かだ。

そして美容整形した患者は、リピーターになる可能性が高い。
上手に付き合えば、ここもあっちもと欲を出してくれるし、微調整や劣化時の修正にも自分の意思で戻って来る。
周りにもネットにも口コミ宣伝してくれる、動く広告塔だ。

心臓外科でリピーターになったとすれば、
（そんなリピーター、誰もなりたくないわよね）
たいがい1～2回が限度。
それ以上はほとんど悲しい結末を迎える事が多い。

自分は金が欲しい。相手は美が欲しい。
Win-winの関係に罪悪感が入り込む必要や、親に貰った健康な体にメスを入れるなぞ･･･などという、前時代的な倫理観に心を痛める必要はまったくない。

残される家族を思う患者や、患者のために半狂乱になる家族の哀しい姿なんて見なくて済む。
そんな状況を自身が作り出してしまうなんて怖い事、考えなくていい。
だから美容整形外科の一話完結型の関係が、自分にはちょうどいいのだ。

折しももうすぐ地元で、美容整形外科学会が行われる。
日進月歩のこの業界、常に最新最高の技術を提供し続けてこそ大きな金を落とす顧客を掴めるというもの。
ブラック客で鍛えたこの話術で、セミナーでも注目を集めてやるわよ！

まずは戦況予測。良い客に･･･出来ればもっと楽に稼げるようなスポンサーに出会えないものか、占ってもらおうかな。

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